賃貸住宅の省エネルギー化は、今やオーナーにとって避けて通れない課題だ。2025年、国や自治体は住宅のエネルギー効率を高める取り組みを支援するため、多岐にわたる補助金制度を用意している。断熱性能の向上やエコ設備の導入など、これらの支援を最大限に活用することが、経営効率の向上や長期的な競争力強化につながる。この記事では、国と東京都による省エネ関係の主な補助金情報をまとめ、ポイントも解説する。オーナーはもちろん、オーナーへ物件のリノベなどを提案する管理会社、工務店なども必見の内容だ。
INDEX
▶国の省エネ補助金
(1)住宅省エネキャンペーン(国土交通省、環境省、経済産業省、3省合同)
①子育てグリーン住宅支援事業
②先進的窓リノベ2025事業
③給湯省エネ2025事業
④賃貸集合給湯省エネ2025事業
(2)経済産業省・環境省の省エネ補助金
集合住宅の省CO2化促進事業(2025年度概算要求)
(3)国土交通省の省エネ補助金
長期優良住宅化リフォーム推進事業(25年度概算要求)
▶東京都の省エネ補助金
(1)災害にも強く健康にも資する断熱・太陽光住宅普及拡大事業
①既存住宅における省エネ改修促進事業(25年度概算要求)
②熱と電気の有効利用促進事業(25年度概算要求)
③家庭における蓄電池導入促進事業(25年度概算要求)
④家庭における太陽光発電導入促進事業(25年度概算要求)
(2)賃貸住宅における省エネ化・再エネ集中促進事業(25年度概算要求)
(3)東京ゼロエミ住宅普及促進事業(25年度概算要求)
(1)住宅省エネキャンペーン(国土交通省、環境省、経済産業省、3省合同)
前年に続き、25年も国土交通省、環境省、経産省の3省連携で「住宅省エネキャンペーン」を継続。賃貸住宅も含めて幅広く支援する内容となっている。
新築住宅で活用できるのは、「子育てグリーン住宅支援事業」、「給湯省エネ2025事業」の二つ。
既存住宅のリフォームで活用できるのは、「子育てグリーン住宅支援事業」、「先進的窓リノベ2025事業」、「給湯省エネ2025事業」、「賃貸集合給湯省エネ2025事業」の四つだ。
それぞれの概要とポイントを解説する。
●概要:省エネ性能の高い新築住宅・省エネ改修等を支援する
●対象:
【新築】
〇すべての世帯:GX(グリーントランスフォーメーション)志向型住宅
※下記の①、②、③にすべて適合するもの
①断熱等性能等級「6以上」
②再生可能エネルギーを除いた一次エネルギー消費量の削減率「35%以上」
③再生可能エネルギーを含む一次エネルギー消費量の削減率「100%以上」
〇子育て世帯等:長期優良住宅、ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)水準住宅
※新築の賃貸住宅(長期優良住宅・ZEH水準住宅)を対象としたルール
・ 申請ができる戸数の上限あり。
・ 新築時最初の入居募集(3カ月間)は、対象を子育て世帯等に限定する。
(当該期間中に入居者を確保できなかった場合は、子育て世帯等以外の世帯を入居させることも可能)
・ 「子育て世帯等」向けに、補助金額を勘案した合理的な優遇家賃を設定する。
【既存住宅リフォーム】
〇Sタイプ:必須工事3種のすべてを実施
〇Aタイプ:必須工事3種のうち、いずれか2種を実施
〇必須工事:①開口部の断熱改修、②躯体の断熱改修、③エコ住宅設備の設置
●補助額:
〇新築、すべての世帯:160万円/戸
〇新築、子育て世帯等:40万~100万円/戸
〇既存住宅リフォーム:【Sタイプ】上限:60万円/戸
【Aタイプ】上限:40万円/戸
●対象期間:
〇契約期間:問わない
〇対象工事の着手期間:24年11月22日以降に対象工事に着手したもの
〇交付申請期間:申請開始から予算上限に達するまで(遅くとも25年12月31日まで)(予定)
※ほか、条件などあり。詳細は公式ホームページを参照。
24年度の「子育てエコホーム支援事業」の後続事業として、子育てグリーン住宅支援事業が始動。25年2月7日に、子育てグリーン住宅支援事業のホームページがオープンした。
賃貸住宅も対象とする。住宅着工数約80万戸(23年度時点)のうち、4割を占める賃貸住宅を補助対象に追加することで政策を強化する狙いだ。
●GX志向型(すべての世帯)
「子育て」と事業名についているが、対象は子育て世帯に限らない。すべての新築住宅を対象とした「GX志向型住宅」を新設。断熱等性能等級6以上などZEH基準を超える省エネ水準のほか、床面積などの条件を満たした住宅が対象。1戸あたり最大160万円が補助される。
国土交通省の楠田幹人住宅局長によれば、GX志向型住宅の補助額については、半額相当の補助率に設定したという。大手ハウスメーカーを対象にアンケート調査を実施し、同住宅の1戸あたりの建築費は、かかり増し費用で約320万円であると算出したとする。
ただし新築の対象条件については、建築基準法上の床面積で1住戸50㎡ 以上240㎡以下に限られる。賃貸としては広めの要件となるため、要注意だ。また、立地にも除外要件があるほか、工事請負契約を締結するのはグリーン住宅支援事業者など、多岐にわたる要件があり、公式ホームページでの確認が必須だ。
●長期優良住宅・ZEH水準住宅(子育て世帯)
子育て世帯を対象とした新築については、長期優良住宅やZEH水準住宅などの条件によって補助額が異なる(図1参照)。
賃貸の場合、新築後の3カ月間は、入居募集の対象を子育て世帯に限定する条件も設けている。ただ、該当期間中に入居者を確保できなかった場合は、子育て世帯以外にも入居者対象を広げてよいこととしている。
また、子育て世帯向けに補助金額を勘案した合理的な優遇家賃を設定する必要がある。詳細は今後発表予定だ。「子育て世帯等に配慮した安全性・防犯性を高めるための技術基準に適合していること」も要件の一つだが、こちらも詳細は今後発表される(ともに3月6日時点)。
●既存住宅のリフォーム
既存住宅のリフォームについては、SタイプとAタイプに分かれる。必須工事である①開口部の断熱改修、②躯体の断熱改修、③エコ住宅設備の設置、の3種のすべてを実施すればSタイプ、いずれか2種の場合はAタイプとなる。補助額はSタイプが最大60万円/戸、Aタイプが最大40万円/戸。
特に賃貸の共同住宅において、躯体の断熱改修は現実的ではないかもしれないが、①③の2種でAタイプの活用は十分想定されるだろう。
●概要:高い断熱性能を持つ窓への改修を支援
●対象:戸建、共同住宅によらず、既存住宅に行う断熱窓等への改修(リフォーム)。
内窓設置、外窓交換、ガラス交換。
窓の改修と同一契約内での断熱性能の高いドアへの改修。
●補助額:リフォーム工事内容に応じて定める額(補助率1/2相当等)
上限200万円/戸
●対象期間:(着工期間)24年11月22日以降に対象工事に着手したもの
(交付申請期間)申請受付開始~予算上限に達するまで(遅くとも25年12月31日まで)
※条件の詳細は公式ホームページを参照。
前身事業である「先進的窓リノベ2024事業」と同様の予算規模で継続。
対象は賃貸住宅を含む既存住宅だ。高断熱の内窓設置や外窓交換、ガラス交換が補助対象となる。さらに、窓のリフォームと同一契約内でドア(開口部に取り付けられているもの)を断熱性能の高いドアに改修する場合は、ドアも補助の対象となる。
25年度における内窓の補助単価は、SSランクでは前年度から2000〜6000円、Sランクで1000〜3000円減り、Aランクについてはおよそ半額程度に減少。より高性能な製品の導入を促すような単価設定となっている。
賃貸住宅での窓リノベは入居者から合意を得るのに時間がかかるなど、工事に踏み込みづらいこともあるだろう。だが、窓の結露が減ることでカビの発生が抑制され、原状回復工事における費用負担も軽減されたという事例もある。
交付申請(予約含む)は、2025年3月下旬から開始予定だ(3月6日時点)。
●対象:戸建、共同住宅等によらず、新築・既存住宅に設置する高効率給湯器
●補助額(基本額):
〇ヒートポンプ給湯器(エコキュート):6万円/台
〇ハイブリッド給湯器:8万円/台
〇家庭用燃料電池(エネファーム):16万円/台
※性能要件などで別途加算あり
●対象期間:
〇契約期間:着工日以前
〇着工期間:2024年11月22日以降
〇交付申請期間:申請受付開始~予算上限に達するまで
(遅くとも2025年12月31日まで)
※詳細は公式ホームページを参照。
24年度の「給湯省エネ2024事業」の後続事業として、給湯省エネ2025事業が始動。25年2月26日に公式ホームページがオープンした。
新築のみならず既存住宅も対象となる。賃貸も対象だ。
(出典:経済産業省「⾼効率給湯器導⼊促進による家庭部⾨の省エネルギー推進事業費補助⾦の概要(予定))
補助額については、基本額に加え、性能要件などに応じて加算がある。加算が適用されると、1台あたりの補助額は最大で、ヒートポンプが13万円、ハイブリッド給湯器は15万円、エネファームは20万円となる。
エコキュートとハイブリッド給湯機については、性能要件として本事業の補助対象とならない製品の場合でも、子育てグリーン住宅支援事業にて補助が受けられる場合があるため要確認だ。
交付申請(予約含む)は25年3月下旬から開始予定(3月6日時点)。
●対象:既存賃貸集合住宅の住戸で、従来型給湯器を小型の省エネ型給湯器(エコジョーズ・エコフィール)に交換(リースの利用を含む)
※賃貸集合住宅の条件(詳細は公式ホームページを確認)
・人の居住の用に供するために賃貸借契約を締結し、貸し出される住宅
・1棟に2戸以上の賃貸住戸を有する建物
・建築から1年以上が経過している、または、いずれかの住戸で人が居住した実績がある建物
●補助額(基本額):
〇エコジョーズ:(追いだきあり)7万円/台
(追いだきなし)5万円/台
〇エコフィール:(追いだきあり)7万円/台
(追いだきなし)5万円/台
※いずれか1住戸1台まで
※別途加算あり
●対象期間:
〇契約期間:着工日以前
〇着工期間:24年11月22日以降
〇交付申請期間:申請受付開始~予算上限に達するまで
(遅くとも25年12月31日まで)
※詳細は公式ホームページを参照。
正式名称は「既存賃貸集合住宅用小型省エネルギー型給湯器導入促進事業費補助金」。2月26日に公式ホームページがオープンした。
設置スペースの都合でヒートポンプ給湯機等の導入が難しい賃貸集合住宅向けに、小型の省エネ型給湯器の導入を促進するものだ。集合住宅向けのため、戸建て賃貸や事業用賃貸は対象とならない。
リフォーム工事のみならず、リース利用も対象。追いだき機能の有無により補助額が異なる。
24年度と比較して要件が緩和された。24年度は原則1棟あたり2台以上の取り替えが対象だったが、25年度は1棟あたり1台以上の取り替えが対象となる。
交付申請(予約含む)は25年3月下旬から開始予定だ(3月6日時点)。
経済産業省・環境省の2省連携で、省エネ関連の補助事業を行っている。予算要求中で、国会成立後に詳細が公表される見通しだ(3月6日時点)。
●概要:集合住宅の省エネ・省CO2化、断熱リフォームを支援
●対象・補助額:
【新築集合住宅】
①新築低層ZEH-M(ゼッチマンション:3層以下)への定額補助:40万円/戸
②新築中層ZEH-M(4、5層)への定額補助:補助率1/3以内(上限50万円/戸)
③新築高層ZEH-M(6~20層)への定率補助:補助率1/3以内(上限40万円/戸)(なお、断熱等性能等級6以上かつ1次エネルギー▲30%以上を達成した場合、上限50万円/戸)
※上記に蓄電システムを導入、低炭素化に資する素材(CLT)を一定量以上使用、先進的再エネ熱利用技術を活用する又はV2Hを導入する場合に別途補助
【既存集合住宅】
断熱リフォーム:補助率1/3以内
(上限15万円/戸(玄関ドアも改修する場合は上限20万円/戸))
(出典:環境省 「集合住宅の省CO2化促進事業(経済産業省連携事業)」)
国土交通省では24年度に長期優良住宅化のリフォームなどに対する補助金事業があり、25年度も継続する方針。概算要求中で、議会成立後に詳細が公表される見通しだ(3月6日時点)。
●概要:インスペクション、リフォーム維持保全計画の作成などの支援
●対象:事前インスペクション、リフォーム計画の作成費用など
※①、②を満たすリフォーム工事
①インスペクションを実施し、維持保全計画・履歴を作成すること
②工事後に耐震性と劣化対策、省エネルギー性が確保されること
●補助率:1/3(限度額80万円/戸)
※長期優良住宅(増改築)認定を取得する場合:160万円/戸
※ほか、3世代同居、若者・子育て世帯、既存住宅購入後の工事など、50万円/戸を加算
東京都は30年までに温室効果ガス排出量を2000年比で50%削減する計画「カーボンハーフ」を表明。省エネ性能が高い住宅の普及に向けて、積極的に補助金を拡充している。25年度の予算案にも省エネ関連の補助金事業が多く盛り込まれた。議会成立後に詳細が発表される見通しだ。
本記事では、東京都の省エネ関連の補助金のうち、賃貸住宅も対象となる主な事業について紹介する。
※情報は25年3月6日時点。最新の情報は公式ホームページを参照。
(1)災害にも強く健康にも資する断熱・太陽光住宅普及拡大事業
24年度に引き続き、「災害にも強く健康にも資する断熱・太陽光住宅普及拡大事業」を継続する方針。25年度の要綱公開は5月中旬を予定。事前申し込みの受け付けは5月末ごろ、交付申請兼実績報告の受け付けは6月末ごろに開始する予定だ。
高断熱窓・ドアの設置、壁・床などの断熱化、高断熱浴槽の設置などを補助する。
太陽熱利用システム、地中熱利用システム、エコキュートの設置などを補助する。
蓄電池システムの設置などを補助する。
太陽光発電設備の設置などを補助する。
(2)賃貸住宅における省エネ化・再エネ集中促進事業(25年度概算要求)
24年度に引き続き、賃貸住宅の省エネ改修と再エネ導入に対する補助金事業を継続する方針だ。
詳細な内容は議会成立後に発表される見通し(3月6日時点)。
※予算案の内容
●助成対象住宅:
都内の新築住宅(戸建住宅・集合住宅等)床面積の合計が2000㎡未満を対象
●助成対象者:
新築住宅の建築主(個人・事業者)、太陽光発電設備・蓄電池およびV2Hのリース等事業者
●助成金額:
【戸建住宅】水準C:40万円/戸、水準B:160万円/戸、水準A:240万円/戸
【集合住宅等】水準C:30万円/戸、水準B:130万円/戸、水準A:200万円/戸
※別途、太陽光発電設備の助成あり
24年度に引き続き、東京ゼロエミ住宅に対する助成金事業を継続する方針だ。
詳細な内容は議会成立後に発表される見通し(3月6日時点)。