他業務での展開も視野
賃貸管理を中心に不動産関連事業を手がけるアンビションDXホールディングス(東京都渋谷区)は、より人間的な対話ができる「AI(人工知能)エージェント」を開発。同社の入居者アプリ「AMBITION Me(アンビション ミー)」にAIエージェント機能を追加し、4月30日にリリースした。
AMBITION Meは、入居や解約の手続き、設備に関する連絡などができる入居者向けアプリ。管理物件の入居者向けに2022年から提供を開始し、利用率は70%ほど。
同社が開発するAIエージェントの特徴は、大きく二つ。一つ目は、同社の持つ賃貸管理に関するデータを生かした、精度の高い回答ができる点。二つ目が、過去のやりとりの履歴を基に、入居者ごとにカスタマイズした対話ができる点だ。
一つ目については、データベースなど外部の情報を踏まえて対話を実現するRAG(検索拡張生成)を活用することで、確度の高い回答をすることができる。RAGとして学習させたのは、契約書や物件の図面など。従来の入居者対応情報に加え、回答をするにあたって必要性の高い、賃料や家賃の引き落とし日、共用部などの情報を学習させた。
二つ目の対話性については、質問の履歴に基づき、よりパーソナライズされた回答が可能。例えば「エアコンの調子が悪い」という質問があった場合、初回は「エアコンの効きが悪い場合、フィルターの清掃をお試しください。それでも改善しない場合は、管理会社へご連絡ください」と対応。2回目以降は「前回もエアコンの調子が悪いとお問い合わせいただきましたが、同じ症状でしょうか?それとも別の問題ですか?」というように、過去の履歴を踏まえた、より親身な回答ができる。履歴が少ない場合は、同社の賃貸管理事業で蓄積してきた約2000件のFAQ集のデータを参照して回答する。
23年12月以降、入居者からのアプリ上での問い合わせ件数は累計約2万5000件(3月31日時点)。チャットでの解決率を100%に近づけるため、AIエージェントを実装した。入居者対応業務の効率化と入居者満足度の向上を図りたい考えだ。
今後、AIエージェント機能の活用が期待できる場面は幅広いという。賃貸仲介やオーナー対応など、あらゆる場面での活用を見込む。 DX推進室の中村勇介室長は「AIエージェントが活用できるのは、業務効率化の観点でいわれる『守りのDX(デジタルトランスフォーメーション)』の領域にとどまらない。新規事業の創出やLTV(生涯顧客価値)の最大化など、売り上げ増につながる『攻めのDX』のポテンシャルがある」と話す。
同社は不動産事業のノウハウを生かして効率的に不動産DX化事業を展開。開発したツールは不動産事業で活用する。その強みを生かしながら、DX事業をさらに伸ばすため、同社では積極的に組織体制を構築する。
生成AIの開発について、新たに専門部署を発足。4月からはグーグル・クラウド・ジャパンでAI事業部本部長を務めた経歴を持つ橋口剛氏が参画。現在、進行中の基幹システム開発も含め、戦略的にAI活用を推し進める。
(2025年5月5日3面に掲載)