吉浦ビル、入居者のDIYをサポート

吉浦ビル

管理・仲介業|2025年08月22日

 吉浦ビル(福岡市)は、空き家や築古物件の再生を手がけてきた。所有する27棟210戸の平均築年数は50年と、老朽化した物件をメインに取り扱う。入居者によるDIYで物件に付加価値を付けるのが特徴だ。2024年7月からは築74年の元公営住宅2棟の再生を開始。25年5月までに全戸成約した。

築70年超でも3カ月で満室

家賃1万円に設定

 吉浦ビルが得意とするのは入居者のDIYによる物件再生だ。

 商圏は福岡市を中心としており、所有物件のうち14棟が所在。そのほかに空き家が多い福岡県北九州市や大牟田市などにも物件を所有する。

 現在築74年の元公営住宅2棟の再生を進める。A棟はRC造の4階建て全24戸。間取りは2Kで専有面積が約40㎡。B棟はコンクリートブロック造の2階建て全10戸。間取りは3Kで、専有面積は約33㎡だ。2棟合わせて最低入札価格である90万円で購入した。

全戸成約した築74年のB棟

全戸成約した築74年のB棟。全体にツタが生い茂る

 同社が試みるのが、家賃1万円で貸し出し、入居者が一から再生を行う「渋沢プロジェクト」だ。

 物件の電気・水道・ガスといったインフラの再開通、外壁などの修繕は吉浦ビルが実施。居室内は一切手を入れず、そのまま貸し出す。入居者が自身でDIYもしくは工事事業者に依頼し、居住や店舗として使えるようになるまで修繕する必要がある。改修の材料費は同社が負担する。月に1回はDIYのワークショップを開き、希望者には個別でのサポートも行う。

入居者とDIYの打ち合わせをする様子

入居者とDIYの打ち合わせをする様子

住居以外に需要

 A棟は募集開始3カ月で満室に、そのB棟にも申し込みが集まり、すでに満室だ。入居者による改修が順次進んでいる。

 カフェや古着店、レンタルスペース、レコード店などにしたいと、県内外の20〜70代が契約。自身の趣味のコレクションの置き場や、自分の夢をかなえる店舗といった第三の場所として活用する人が多いという。中には韓国の大学が借り上げ、学生の課題として再生を進めている居室もある。

 吉浦隆紀社長は「B棟はツタが建物全体に絡まり、A棟より老朽化が激しかったので、しばらく募集するつもりはなかった。紹介動画を見た人から、この古びた様子が良いとの問い合わせが多く寄せられた。入居者からの強い要望でツタは撤去せずにいる」と話す。2棟共に入居者とは定期借家契約を結んでおり、契約が満了する27年9月以降は家賃3万円で募集をする計画だ。

 材料費として1戸あたり50万〜100万円、大規模修繕にはA棟のみで3000万〜4000万円がかかる予定だ。かかった費用はA棟については7年ほどで回収できると見込む。すでに満室ではあるものの、いまだに1日5〜6組が見学に来るという。

 5月にはA棟の1戸がカフェとしてオープンしたが、そのほかの居室は改修工事中だ(7月22日時点)。

A棟でオープンしたカフェの写真

A棟でオープンしたカフェの写真

リノベ費用を補助

 空き家や築古の再生に取り組むことになったきっかけは、吉浦社長が祖父から12年に相続した2棟の賃貸マンションだ。

 福岡市の駅から徒歩約40分と郊外に立地しており、相続当時で築40年超。空室率は20%で、入居者のうち40%が高齢者、家賃の滞納も1000万円超と厳しい条件の物件だった。

 そこでまずは自身で全40戸中3戸をリノベーションするも、半年以上入居者が決まらなかった。「5組ほど内見に来たが、『駅から遠い』『建物が古くて怖い』などと言われた。当時は不動産経験が全くなく、それでもおしゃれにリノベした自信はあったが、駄目だった」

 ニーズを探るため、リノベ済みの3戸と全く手を付けていない1戸、計4戸の内覧会を開催したところ、約80人が訪問。その結果、リノベ済みの居室は半年から1年かけて申し込みが入った。一方、未着手の居室に関しては「成約後、一緒に部屋をつくりましょう」とうたい、3年分の家賃程度をリノベ費用として補助する条件で募集したところ、1カ月で3組程から反響があったという。

 この体験をきっかけに、入居者自身が入居後、部屋をつくり上げていき、その費用負担を同社が行うスタンスに落ち着いた。

 リノベ費用の補助金の上限を決めることで、最低限の工事はプロの事業者を入れて改修を進め、費用が足りない意匠工事は入居者自身で部屋づくりをしている。

 「一般的に、部屋を自分で改修したいという人は少ないが、創作活動をしているようなクリエーター層と改修できる古い建物は相性が良い。仮にそれが100人に1人のニーズであっても、周辺人口の総数から考えれば、一定数いるので満室にできる」と吉浦社長は分析する。

 クリエーターが求めている環境として、自然に近く、家賃が安くて自由に改装ができ、刺激的な面白い物件に住みたいというニーズがあるという。

活用事例を創出

 同社は空き家の再生事例をさらに増やしていくことに力を入れる。

 吉浦社長は相続物件の再生に取り組んで以降、築古や空き家を同様の手法で次々と再生してきた。相続した物件は2棟だが、それ以降の物件は自社で取得。10棟ほど未着手の物件があるものの、それ以外は福岡市内であれば半年ほどで満室にしてきた。

 過疎化が進む大牟田市では元ラブホテルの再生に取り組む。家賃1万円で募集する渋沢プロジェクトの第2弾として、25年3月より募集を開始したところ、全11戸中4戸に申し込みが入った(7月22日時点)。

 「建築費の高騰で新築は厳しくなっている。中古物件は市場にあるものの、多くの人は活用方法がわからず手を出せていない。活用事例が増えれば、築古物件や空き家の再生に取り組む人も多くなる。そのために事例を作っていきたい」と吉浦社長は意気込みを語った。

吉浦隆紀社長

吉浦ビル
福岡市
吉浦隆紀社長

(2025年8月18日20面に掲載)

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