大阪市城東区蒲生四丁目、通称「がもよん」エリアは、空き家問題を解決するモデルケースとして、全国から注目を集めている。住宅街にある空き家を個性的な飲食店に再生し、地域の不動産価値を高めた「がもよんにぎわいプロジェクト」。前編では、プロジェクトの仕掛け人であるアールプレイ(大阪市)社長の和田欣也氏に、空き家再生の事業モデルを取材した。
事業の継続をサポート
延べ37軒を再生
「がもよん」では2008年以降、空き家が延べ37軒の飲食店などに生まれ変わった。大阪メトロ長堀鶴見緑地線蒲生四丁目駅の南側に位置する蒲生四丁目エリアは、これまで大型の開発から外れ、築古の木造家屋や長屋などが点在し、昭和の風情が残る住宅街だ。いまだに大型開発はないものの、25年3月に発表された大阪府域の住宅地における地価公示上昇率で、大阪市城東区中央は10.5%で1位となった。地価の上昇に「がもよん」のにぎわいが寄与していると言われている。
空き家再生の立役者は2人。一人は耐震工事の知見を生かし、古民家改修を手がけていたアールプレイの和田氏。もう一人は、「がもよん」地域で多くの空き家を所有していたスギタグループ(同)の社長、杦田勘一郎氏だ。
2人が出会ったのは05年頃。スギタグループが所有する古い米蔵を残すため、飲食店として再生する取り組みを始めた。米蔵がイタリアンレストランとしてオープンした08年以降、2人の協業によって「がもよん」には加速的に空き家を改修し開業した飲食店などが増えた。その数は、19年には27軒となっていた。17年4月には一般社団法人がもよんにぎわいプロジェクトを設立し、代表に和田氏が就いた。プロジェクトの目的は、「がもよん」エリアで、空き家を個性的な飲食店に再生し、にぎわいを生むことだ。
「GAMO4 MAP」。08年~25年の17年間で37軒の空き家改修が進んだ
自ら借り手探し
和田氏の空き家再生は、テナント探しから始まる。物件概要や賃貸条件を定めテナントを募集するのではなく、エリアと建物にふさわしい事業者を自ら探すのだ。テナント候補を見つけると、その店に出向いて事業者を口説いた。テナントを飲食店に限定したのは、物販に比べて収益を見込みやすいこと、おいしい食事を提供する飲食店は地域住民にも喜ばれることが理由だ。
和田氏は「長く事業を続けてくれる店として、夜はアルコールを提供し、昼はランチ営業をする飲食店が好ましいと考えた。同じ業態がかぶらないようにもした」と説明する。現在の「がもよん」には高級イタリアン、日本料理、バー、うどんなど多彩な飲食店が点在する。
再生事例【左】左右をビルで挟まれた、築100年超の木造2階建て古民家を改修し、21年に開業したティラミス専門店「amaretto(アマレット)」【右】amarettoの改修前。現在の入口は以前、裏口だった
アールプレイは建物所有者であるスギタグループから、建物の耐震およびライフラインなどの改修工事を請け負い、借主からも内装工事を受注した。築50年以上の古民家も多く、屋根の軽量化、基礎の補強、壁を増やす、の三つを重点的に耐震補強を行った。
和田氏がこだわったのは、空き家再生を通して貸主と借主が「稼ぐビジネススキーム」を定着させることだ。家主が負担する空き家への初期投資は、耐震改修を含めて1軒あたり300万円前後だ。仮に20坪を月額10万円で貸したとして、固定資産税を差し引いても約3年で投資額を回収できる。
家主と借主は10年の定期借家契約を結び、礼金はなし。開業3年以内に閉業により退去した場合の保証金を預かっておく。資金に乏しいが事業性を見込める飲食事業者に対しては、アールプレイが物件をサブリースして出店を促すケースもあった。
メニュー構成に助言
和田氏は、借主となる事業者のサポートも行ってきた。空き家再生は、店がオープンすることがゴールではなく、借主がもうかり飲食店経営を続けていくことが重要だからだ。そのため新店の経営が軌道に乗るように、開業時に店舗の客席数やメニューづくりなどをアドバイスする。
例えば、借主が負担する家賃が月額10万円なら、売り上げ目標は10倍の月額100万円で、1日に約4万円の売り上げが必要となる。店舗面積の半分にあたる約10坪を客席にすると15席で、稼働率7割なら1席あたり4000円が売り上げ目標となる。そこから、逆算してメニューを構成するようアドバイスした。
テナントとして利益を出すための経営ノウハウを、和田氏は惜しみなく提供したことで、事業者は経営を安定させることができた。3年以上の継続が難しいといわれる飲食店業界だが、「がもよん」の空き家再生による開業後に経済的な理由で撤退した店舗はほぼない。
開業後も、和田氏は人が集まるイベントの企画・実施などで飲食店の集客を支援している。事業者同士が相談し合える場を設け、情報交換を促した。イベントを開催するごとに、事業主は一体感を育んでいったという。
再生事例【上】築約70年の元溶接工場を改修し、22年に開業したフグとカニの専門店「ハレノヤ」。店内には掘りごたつ席もある【下】ハレノヤの改修前
多様な活用手段
19年あたりから、空き家再生は新たなステージに進んでいる。空き家を飲食店以外にも活用し始めた。大型台風で被害を受け改修不能となった民家を解体し、貸し農園にした。22年、空き長屋をクラフトビール醸造所に改修し、就労継続支援B型施設として再生した。ほかにも1909年築の空き家を民泊施設にするなどといった例もある。
最近では「がもよん」の認知度が上がった影響か、昭和の雰囲気を残す通りや住居がドラマや映画のロケ地として利用されるようになった。「ロケの誘致は積極的にしていきたい。地域住民が誇りに思ってくれる」(和田氏)
「まちににぎわいをもたらすには、土地建物を所有する地主・家主の協力が不可欠だ。その点、『がもよん』は多くの物件を所有する杦田氏から、改修やテナント付けを任された。地域を変えていくことに周囲の理解を得られ、条件や交渉などをスピーディーに進めることができた」と和田氏は話す。
後編では、家主である杦田氏の視点でプロジェクトの歩みを見る。
アールプレイ
大阪市
和田 欣也 社長
(2025年11月10日9面に掲載)





