当記事は賃貸住宅フェア2025in東京で講演したセミナーを書き起こしたものです。
講演者
Knees bee税理士法人
渡邊 浩滋代表
目的の明確化が重要
節税や融資対策に 所得800万円超目安
私のところにも「法人化したい」という人が相談に来るが、その理由は「周りからしたほうがいいと言われた」といったように曖昧な場合が多い。しかし、法人化はしっかりと目的を持ってやらないと失敗してしまうケースが多々ある。法人化する理由は、所得税や相続税の節税、融資対策、事業承継対策といったところだが、この目的を間違うとメリットを生かせない。
法人化とは何なのか。これは、一言で言うと「収入の受け皿を変える」ということになる。個人の受け皿だけで収入を得ていると、所得が高くなるほど税率が跳ね上がってしまう。法人化とは、このうち不動産の収入を法人のほうの受け皿に乗せるということだ。個人の場合、所得が330万円を超えると税率が30%を超えてくるため、この時点ですでに法人のほうが税率が低い。一方で、法人住民税は均等割や税理士報酬などの運営コストがかかってくるので、ある程度の所得がないとコスト分の費用を賄えない。具体的な基準として、所得が800万円を上回るのであれば法人化したほうが良いだろう。また法人化するにしても、土地や建物を個人と法人のどちらの所有にするかで税率が変わってくる部分がある。これも状況次第でどうするか判断しなければならない。
セミナー登壇の様子
デメリットもあり 5つの観点説明
デメリットと対策についても説明する。まず、法人が赤字になっているケース。せっかく法人化したのだからと、領収書をなんでも法人名義でもらう人がいるが、経費自体は法人でも個人でも変わりはない。個人に付けられる経費は個人に振り分けてバランスを良くし、いかに全体的に低い課税額に抑えるかが重要だ。
次に、社会保険の加入が大きな負担になるケース。社会保険の負担額は、健康保険と厚生年金が合わせて給料の30%にもなり、かなりの金額を支払うことになる。対策は、法人の役員と給与の設計を工夫すること。代表者に給料を出すと必ず大きな額の社会保険料がかかってしまうが、平の非常勤役員には社会保険料はかからない。代表者は給料をもらわなくていい人にして、給料をもらいたい人は非常勤役員という形にすれば、社会保険に入らなくても済むようになる。勤務形態の証明を求められることもあるが、定款や議事録などを作成して総会資料として提出すればいい。
続いて、相続税が上がってしまうケース。個人から法人に土地を売買する際は時価で換算するが、建物は時価を簿価で見ることができる。建物の簿価と固定資産税評価額(賃貸にすれば×0.7)を比べたときに、簿価のほうが大きければ、相続税が上がる。ただしこれは一時的なもので、売買から年数がたてば、どこかのタイミングで逆転する。どこで逆転するかをシミュレーションしたうえで、いつ法人化するかを判断すべきだろう。
次に、譲渡税がかかるケース。土地や建物の所有を法人に移すときは、売買金額と残債を比べて考えなければならない。残債がある場合、不動産鑑定士を入れて建物の価格を簿価から残債額に近い時価に置き換えることがある。この時、売買金額と簿価の差額が利益の扱いとなり、譲渡税がかかってきてしまう。簿価と残債のバランスを確認し、譲渡税が発生する場合はその額まで含めて検討してほしい。
最後に、高額なコンサルティング料を要求される場合。譲渡税の額に注意してほしいと言ったが、誰がこのようなやり方を勧めてくるのかというと、銀行や、銀行に付いているコンサルタントというケースがよく見られる。残債が大きくても鑑定評価を優先して売買金額を引き上げ、譲渡税をかけてまで法人化させようとする。銀行とコンサルタントが言うことだから正しいのだろう、と「なんとなく」で信じないよう、費用対効果まで見て考える必要がある。
(2026年1月12日12面に掲載)




