講演者
スガコーポレーション
菅 完治 社長
自分たちでつくる地域の居場所
DIY可能な物件 専門サイトで募集
古民家を再生する事業に取り組んでいる。東京都台東区谷中にある物件「初音テラス」の事例について話したい。
建物は1972年竣工の重量鉄骨造3階建て。古い物件なので断熱の措置がされておらず、屋上の防水も傷んで雨漏りしていた。壁の一部に木が茂り、一度も手入れしていない高架水槽があるなど、かなり荒れていて、元の大家は半ば放置している状態。これでは、新たに住みたいと思う人は出てこない。この物件を買い取り、オーナーが住居としていた1階部分すべてと、2階と3階で5部屋あった賃貸のうち4部屋をリノベーションした。
まず物件を入手した際に、知人や大家の仲間を集め、どのようにしたら良いかを話し合うワークショップを開催した。ここで、いろいろな提案が出てきた。民泊やシェアハウスにするという意見もあったが、最終的には1階に20㎡程度の店舗3軒分のスペースを確保し、2階と3階はDIY特化型の住宅とした。
1階の店舗は現在2軒が埋まっていて、九州の物産を売るお店と、猫をメインとしたグッズを扱うデザイナーのショップが入っている。残ったもう一つのスペースは「谷中まちラボ」と称して、地域の人々の居場所としての機能を持たせた。ここには1人1カ月500円でフリースペースとして使える本棚を設置。キッチンを併設して飲食の許可も取ってあるため、将来的にいろいろな使い方ができると考えている。
これらの賃貸の入居希望者については、私と面接をしてもらい、その際に三つほど条件を伝えている。まず、入居者同士は必ずあいさつをする。次に、2カ月に1回、谷中まちラボで開催する入居者会議に出席する。最後に、これは強制ではないが、できるだけ地域のイベントに参加する。これらの条件は優良なコミュニティーの形成に必要だと考えており、了承してくれた人に入居してもらった。
募集については、普通のウェブサイトを使ってもなかなか人が来ないということで、DIY物件専門の「DIYP」というウェブサイトでも告知を行った。入居者によるDIYが可能な物件しか取り扱わないというサイトになる。募集した部屋は、躯体と設備を動かしたり壊したりしなければどのようなDIYをしても構わない。退去の際も原状回復不要とした。実際にこのサイトを見て来た入居希望者は「こういう物件が欲しかった」と言ってくれる人もいて、どの部屋もすぐに入居者が決まった。
聴講者にわかりやすく話す菅社長
古民家再生の意義 三つの視点で解説
古民家再生には、三つの意義があると考える。まずは、歴史や記憶の継承といった、文化的な意義。地域の風土や生活様式を反映した建築物を残していく。古くなったからといって解体してしまうと、その文化はもう二度と取り戻すことができない。そのような文化的な遺産であると考えている。続いて、社会的な意義。古民家は路地や街並みと一体となって存在しているため、物件の再生は街全体の再生にもなる。最後に、経済的な意義。これは地元の大工や職人を活用することで、地域の雇用や技術継承につながる。私も地元の人にお願いしているが、地域の経済が回るお手伝いができるということで、これも価値があることだと思う。
コミュニティーデザインの重要性についても話したい。先ほど、入居者同士のあいさつを条件にしている話をしたが、私としては古民家を通じた新しいコミュニティーが作れると良いと考えている。その目的は、孤立防止とメンタル面の支援。現代社会、特に都心部では人と人の関わりが希薄になってきている。その中にあって、顔の見える関係、あいさつをし合うという取り組みが孤立を防ぐ。「ご近所さん」ができることによる満足感の高まりと、共助のシステムの造成。これが定着率の向上と長期入居につながるのではないだろうか。





