契約の来店減、新規営業に注力 業務負担軽減で離職率改善も
電子契約先行導入企業に聞いてみた デジタル化で管理業務はこう変わる!
グループ会社である湘南らいふ管理では、スタッフ10人で約6000戸の賃貸住宅を管理している。賃貸管理会社としてはスタッフの数が少ないと思われるだろうが、それを可能にしているのがデジタル化やBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)だ。今回は主にデジタル化の詳細やメリット、成功例や失敗例について説明する。
1時間で契約締結
湘南らいふ管理の業務内容は、入居者への請求、オーナーへの送金、更新、解約であり、コールセンター、未収対応などはアウトソーシングしている。さらに毎月1週目は更新、2週目は請求、3週目は送金、4週目は解約と、週単位で業務を固定化することで効率化を図っている。
ただし、契約に関してはイレギュラーが多く、週単位での固定化は難しい。そこで取り入れたのがデジタル化、とりわけ電子契約の導入で、主にオーナーとの管理委託契約、解約や更新業務の効率化、賃貸借契約などに利用している。
たとえば管理委託契約の場合、従来は契約書を作成し、印刷・製本した後、オーナーに郵送していた。そしてオーナーからの返信を待って登録していたため、3日から1週間程度の期間がかかっていた。
電子契約導入後は、メールやウェブサイトでのやり取りで完結するため、最短1時間で契約を締結できたという例がある。これは解約や更新業務についても同様で、特に未返送者への後追いが減った分、業務がスピーディーになった。賃貸借契約に関しては、管理会社、店舗、賃借人、保証会社と情報を共有できるため、業務の効率化だけでなく、保証契約書の不備といった事故も防げるようになった。
働き方改革に寄与
電子契約のメリットとしては、お客さまの来店回数が少なくなるため、店舗としては新規のお客さま応対に集中できること、契約までの期間が短いためキャンセル防止になることなどが挙げられる。必要事項の記入漏れ、押印漏れなどが減ったこともあり、差し戻しの後追い業務も極端に少なくなった。
管理業務のデジタル化で成功したこととしては、まずスタッフの離職率の低下が挙げられる。極端な場合、以前は最短1週間で辞めるスタッフもいたが、現在では1年に1人辞めるかどうかとなり、スタッフの長期雇用、長期育成が可能となった。
デジタル化によって人的クレームや残業時間が減少したことも、離職率の低下に影響していると思われる。また、予期していなかったことだが、新型コロナウイルス禍におけるテレワークにもスムーズに対応できた。
逆に失敗したこととしては、オーナーや入居者などとの関係が希薄化したことが挙げられる。セミナーに参加するオーナーの数が減ったり、ごみの捨て方がわからないという入居者がいたりする。
しかし、これらはお知らせ不足が原因であり、それを解決する手段の一つとして、オーナーや入居者用のお知らせアプリの提供を現在検討している。
課題もあるが、管理業務の効率化により、営業に専念できる体制を整えられたことは、グループ会社全体として大きなメリットと言える。人の数に頼らず、できることはデジタル化で効率化し、営業によって新たなお客さまを獲得する。これが管理会社に求められる正しい姿ではないだろうか。
ユーミーホールディングス
神奈川県藤沢市
廣瀬一寛執行役員
承継者に経営の楽しさ伝授 興味を持たせることが重要
ほったらかし物件を引き継いだ4代目地主の奮闘伝
自分が不動産を受け継ぐことになった時、物件がほったらかしという現実に直面した。
ほったらかしの現状
まず家賃の滞納が多かった。内装業者をしていた入居者が賃料を払えないため、物件の原状回復を無料でやるから勘弁してくれ、というケースもあった。
物件を取り巻く環境は、まず元付けだけをやっている仲介業者がいた。そのおかげで空室は少なかったが、物件の管理は母が担っていた。税理士は知人のつてで頼んだが、企業会計などが専門で不動産には暗く、ほとんど相談に乗ってもらえない。
物件はというと、まず原状回復がいいかげん。これは先に話した入居者がやっていたが、報酬が発生しないため熱心にはしてくれない。本来なら入居時にクロスを貼り替えているはずが全面ペンキを塗っただけなどという状態だった。
勉強機に関心高まる
このようなひどい状況を目の当たりにして、自身の考えを改めた。勤めていたハウスメーカーで異動願いを出して賃貸管理の部署に移り、勉強をすることにした。ここで主にトラブル解決を担当しているうちに、預かっている賃貸住宅をいかに魅力的な物件にするかということに思考を巡らすようになっていた。
やがて自分の物件のローンも完済となり、収益以外にも目を向ける余裕が生まれた頃には賃貸住宅への興味が高まる一方だった。
賃貸経営は、ちゃんとやろうという人がいない状態で承継をしてしまうと、私のような失敗例が出てくる。ほとんどの家主は身内に引き継いでほしいと思っているだろうが、そのためには、まず承継する子どもたちが賃貸経営に興味を持ち、好きになってもらわなければならない。
きっかけとしては、名義を与えて一部の物件を渡し、経営を経験させてみる。子どもに1人暮らしをさせて、入居者目線の経験を積ませる。住宅系のイベントに連れて行くなどいろいろ考えられる。何か一つのジャンルを知ることによって、ほかにも興味が飛び火し、最終的に賃貸経営自体に興味を持つようになればいいのではないだろうか。
また、自身も現在の経営者として「楽しそうに経営する」ことを心がけたい。経営の楽しさが伝われば、興味を持ったうえで承継してもらえるだろう。
本橋浩オーナー
東京都杉並区
(2022年10月24日・31日21面に掲載)