空き家再生ビジネスの可能性、空き家30年で倍 利活用急務

総務省,野村総合研究所,L&F(エルアンドエフ),Sweets Investment(スイーツインベストメント),巻組,エンジョイワークス,FANTAS technology(ファンタステクノロジー),一般社団法人コミュニティネットワーク協会,一般財団法人遺品整理士認定協会

統計データ|2023年01月05日

 日本の総住宅戸数の13.6%を占めるようになった空き家は、年々増加の一途をたどり社会問題化している。空き家市場において、流通や利活用などの分野で課題解決につながるビジネスを展開する企業がいる。彼らの事業内容を事例に、空き家を取り巻く問題を理解し再生ビジネスの商機を探る。

売買仲介獲得の接点に効果

 増え続ける空き家の市場への流通を促し、利活用を行う担い手が求められている。

 総務省統計局が2019年9月に発表した「平成30年住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家は約849万戸に上った。18年までの30年間で2倍に増加している。

全国の空き家数の推移グラフ

 また、野村総合研究所(東京都千代田区)が22年6月に発表した調査レポート「2040年の住宅市場と課題」では、38年の空き家数は最大2303万戸になると予測されている。

 空き家が放置されることで考えられる被害として、老朽化による倒壊に伴う事故や景観の悪化。火災の原因や不審者の侵入などによる治安の悪化が挙げられる。これらの被害を防ぐためにも、空き家の利活用は急務の課題であるといえる。

L&F、7年で加盟店160社

次世代家主から管理受託

 管理される空き家を増やすことで、市場への流通を促すのは、空き家管理のネットワーク「日本空き家サポート」を運営するL&F(エルアンドエフ:千葉市)だ。

 15年7月から開始した空き家管理ネットワークへの加盟店数は、7年で全国約160社に上る。

 加盟店が、次世代オーナーからの管理を受託することで、「空き家になる前の物件」との接点を持つ仕組みを構築する。

 同社は日本空き家サポートの本部という位置付けで、実際の管理業務にあたるのは加盟店となる不動産管理会社だ。空き家の管理受託後、売却の相談を獲得できる機会を狙い、売買仲介事業を展開する会社がメリットを感じ加盟している。

 同ネットワークの仕組みは、月1万1000円(税込み)で空き家の管理を行う。管理業務の範囲別で料金プランはほかに二つ用意する。

L&F 空き家の戸締りを確認する写真

空き家管理の様子。ヘッドカメラで業務内容を撮影し、家主へ送る

 加盟に必要な料金は、いずれも税込みで加盟料165万円。空き家管理の研修やルールの周知を行う初期導入費が22万円。月会費として2万2000円となる。

 空き家管理のターゲットは、地元を離れた息子・娘世代。「親が亡くなった」「親が施設に入った」などの理由から、実家が空き家になった際に、加盟店に管理の相談を寄せる。顧客属性としては、40~60代が87%。空き家の所在地と依頼主の住所が異なるケースが91%を占める。

 空き家管理の解約理由の9割が売却だ。管理を担当する加盟店が専任媒介する流れが主となる。日々の管理業で顧客との信頼関係を構築することで、売却の相談につながる。管理会社は、物件の仕入れの手間を省き、競合がほぼない状態で売買仲介を獲得できる。

 森久純社長は「引き続き、空き家の再生・運営のプラットフォーマーとして機能していく。23年からは、利活用の分野でのサービスの開発に着手予定」とコメントした。

 

L&F 森久純社長の写真

L&F
千葉市
森久純社長(54)

 

 

Sweets Investment、買い取り再販300件

自治体と連携、移住ツアー実施

 「空き家買取専科」の屋号で空き家の買い取り再販事業を手がけるSweets Investment(スイーツインベストメント:静岡市)は、これまで約300件の買い取り再販実績を持ち、空き家の流通促進に注力する。

 仲介事業者から寄せられた不動産の買い取り相談を吟味し、同社が空き家を購入する。同社から、提携先のリノベーション事業者へ工事を依頼。施工後、仲介事業者へ再販を委託する。

Sweets Investment リノベした空き家の内観写真

買い取った空き家をリノベした一例

 「買い取り相談のきっかけのほとんどが相続」と同社の黒田淳将執行役員は話す。相談者の年齢で多いのは70代だ。

 1年に寄せられる買い取り相談は、1500件超。そのうち50件ほどが成約に至り、物件種別で見ると、戸建てが60%ほどを占める。伊豆エリアを除く静岡県全域を商圏とする。

 同社は、元は新築戸建て分譲の分譲地の開発、販売を行うために創業した会社だ。分譲地の開発が一段落したタイミングで新規事業を検討し、空き家の再販事業を開始した。同社の黒田執行役員は「空き家の9割は休眠状態に陥っている。まだ活用できるうちに、流通の促進を図りたい」と述べる。

 実際に、空き家活用の啓蒙活動や、自治体と連携した移住体験ツアーの実施などを行っている。

Sweets Investment 移住体験ツアーの写真

移住体験ツアーの様子

 今後、空き家の流通促進を全国に展開しようと、不動産会社のコンサルティング事業を行っていく。「空き家の買い取り再販事業は他地域でも再現できる。当社のノウハウで伴走支援しながら提供する。全国の空き家問題解消に寄与していきたい」(黒田執行役員)

巻組、シェアハウスへ再生

コミュニテイーに価値

 市場価値が低く、建て替えの選択肢が強い空き家をシェアハウスとしてリノベする巻組(宮城県石巻市)は、再生後に、物件が入居者や地域住民らのコミュニティー拠点となる運用までを手がけるのが特徴だ。

 22年12月時点で、取得から再生、設計施工のみの請負を合せた実績は約50件。そのうち、シェアハウス「Roopt(ループト)」シリーズとして個室やドミトリータイプなど6棟を再生し、運営を行う。

巻組 空き家をリノベしたシェアハウスの外観写真

リノベを施した元空き家のシェアハウスの外観

 全従業員はパートや業務委託を含め9人。空き家再生を軸に、設計施工、再生物件の家主業、シェアハウスの管理・運営、賃貸住宅の管理、オンライン上の人材コミュニティーの運営を行う。

 商圏は、宮城県石巻市を中心に同県内と、首都圏エリアまで展開する。

 同社の特徴であるコミュニティーづくりの目的の一つには、入居者である顧客との関係性の構築もある。市場価値の低い空き家のリノベにおいて、改修コストのカットに効果を生むとする。

 渡邊享子社長は「旧築の空き家において、コストをかけずにクレームの出ない改修をすることは困難。そのため、クレームの出ないような入居者との関係性構築を行うことが先だ」とコメントする。

 同社では、リノベや、ベッドの組み立てなどを入居者参加型で行うこともある。「住まいの不便に対し、オーナーと入居者で解決していく世界観の構築にチャレンジしている。ひいては、このような過程にコミットすることが入居者にとって付加価値となればうれしい」(渡邊社長)

 渡邊社長は、11年に発生した東日本大震災を機に、被災地の復興支援を目的に石巻市に訪れ、そのまま移住。復興の過程で新築が増えていく中、人口は約2万人減少し、空き家の増加も目の当たりにしてきたという。

 今後は、27年までに、Rooptシリーズとして新たに200件再生していくことを目標に掲げる。

 また、東京都にある同シリーズシェアハウスで導入した、入居者参加型で管理運営を行うDAO(ダオ)型という仕組みを、宮城県内への物件にも展開していく方針だ。

巻組 渡邊享子社長の写真

巻組
宮城県石巻市
渡邊享子社長(35)

 

 

エンジョイワークス、クラファンで資金調達

投資家800人が出資

 築古住宅の再生において、資金調達は大きな課題になる。空き家再生事業を行うエンジョイワークス(神奈川県鎌倉市)は、空き家再生ファンド「ハロー!RENOVATION(リノベーション:以下、ハロリノ)」にて13件の空き家の再生実績がある。再生に必要な資金をクラウドファンディング(以下、クラファン)で調達し、物件価値を向上させたうえで管理・運営を行うのが特徴だ。家賃収入などの収益を投資家へ分配するビジネスモデルを確立する。

 ハロリノは18年6月にスタートし、22年7月時点で累計1億6330万円を調達した。ハロリノへの会員登録者は約1万5000人。そのうち投資家のユーザー数は800人だ。空き家のほか、遊休不動産や古民家などをファンドとして取り扱う。

 空き家再生における募集金額は200万~5400万円で、想定利回りは2~8%。運用期間は3~5年で、一口5万円から出資可能だ。

 物件の仕入れでは費用をかけずにリノベが行えることを空き家の所有者にアピールするため「0円!RENOVATION(以下、ゼロリノ)」というサービス名で集客を図っている。

 再生資金を投資家から集める集客手法が効果を上げ、ハロリノ開始以降で問い合わせは合計70件以上に上るという。

エンジョイワークス 改修した空き家の内観写真

エンジョイワークスで資金調達を行い、改修した空き家

 リノベは必要に応じた大規模修繕、キッチンの交換、間取り変更などを行う。改修後はシェアハウスやシェアオフィス、宿泊施設などにコンバージョンする場合もあり、用途変更に合わせた改修を行い、空き家の減少に貢献する。

 同社の空き家再生事業に欠かせないのは投資家の存在だが、約800人の投資家を獲得できた理由に、投資家へのレポート提出が挙げられるという。同社ではファンドごとに、事業状況レポートを全投資家に提供している。ハロリノの投資家のうち約30%は投資未経験者で、投資を勉強したいユーザーがSNSなどを通じて増えているという。

FANTAS technology、無料査定で流通促進

 空き家に関する不動産テックサービスを提供するFANTAS technology(ファンタステクノロジー:東京都渋谷区)は、空き家の市場流通を促すための無料査定サービスを21年4月から提供し、22年11月までに約2000件の査定実績がある。

 査定サービス名は「FANTAS repro(以下、リプロ)」。リプロでは現地調査のうえ、空き家の再生にかかる改修費用や、再生後の物件価格をAI(人工知能)が即時算出する。同社がこれまで手がけてきた空き家再生176戸のノウハウを生かし査定する。

FANTAS reproの画面写真

FANTAS reproのサービス画面

 改修を施すことで高く売却できる、もしくは賃貸できることを所有者に示すことで、市場への流通を促すことが目的だ。

 國師康平社長は「空き家の課題は市場に出にくいこと。所有者に空き家の売却意欲や活用意欲がなかったり、活用方法がわからず放置してしまっていることが多い」と話す。

 現在は自治体と連携した空き家再生の取り組みに注力している。同社の取り組みは国土交通省の「住宅市場を活用した空き家対策モデル事業」に2年連続で採択されている。自治体が空き家の所有者を調査して、同社に査定を依頼するという流れだ。

 連携している自治体は北海道妹背牛町、宮城県色麻町、埼玉県行田市、横瀬町、茨城県つくば市、常総市、神栖市、福島県昭和村、広島県坂町の九つ。

 査定後は、所有者から希望があった場合、同社で改修、もしくは提携するほかのリノベ会社や工務店を所有者に紹介し改修を行う。費用感などから所有者自身に改修を依頼する会社を選んでもらう。

FANTAS technology 國師康平社長の写真

FANTAS technology
東京都渋谷区
國師康平社長(41)

 

 

(一社)コミュニティネットワーク協会、セーフティーネット住宅に活用

 住まいを通じた地方創生や都市部でのコミュニティーづくりを行う一般社団法人コミュニティネットワーク協会(東京都豊島区)は、集合住宅や空き家の再生を手がける。

 同協会のビジネスモデルは、空き家や集合住宅の空室などの所有者から相談を受け、物件を借り上げ、セーフティーネット住宅として活用。住宅確保要配属者を受け入れ社会課題の解決に貢献する。

 同協会が運営する物件の特徴は、入居者や地域の住人などの交流する拠点を設置している点だ。交流拠点の働き手に入居者や障がい者を採用し、社会的弱者が社会的弱者を支える仕組みを作っている。

 同社が再生を手がけた、東京都豊島区のプロジェクトは、長期間空き家だった戸建て1棟とマンションの6室を借り上げ、住宅確保要配慮者向けの賃貸住宅として活用した事例だ。

 同プロジェクトは20年6月から運営を開始。入居しているのは40~80代の高齢者、障がい者、生活困窮者だ。

 交流スペースでは、健康マージャンと卓球を企画。参加費を集め収入にする。将棋サロンなどを開くことによって介護予防事業への補助金を取得。さらに障がい者の就労継続支援事業も行い、運営物件の継続的な運営を可能にする。

一般社団法人コミュニティネットワーク協会 健康マージャンをしている写真

交流拠点における健康マージャンの様子

 同プロジェクトで提供されたシェアハウスに住む80代の女性は、新型コロナウイルス禍で収入が減り、家賃滞納により住んでいた住宅で追い出し勧告を受けた。現在は同協会が運営する賃貸住宅に住みつつ、交流スペースで健康マージャンの店長として働いている。

 高橋英與元理事長は今後の展開について「人材育成のために大学との連携を進めている」と話した。

(一財)遺品整理士認定協会、遺品整理士4万5000人 "片付け"に関心高まる

 空き家の活用と切っても切ることのできないのが物件内の遺品整理だ。遺品整理業の健全化を目的に設立された、一般財団法人遺品整理士認定協会(北海道千歳市)では、「遺品整理士」の養成と認定や一般消費者からの遺品整理相談の受け付けを行う。

 11年の試験開始から22年12月までで、遺品整理士の資格取得者数は約4万5000人。同協会に法人として登録申請している遺品整理事業者は、約1300社にのぼる。登録法人の業種のうち、管理を中心に行う不動産業者は、入居者から相談を受けるために資格取得している場合が多いという。

 市区町村などの行政のほか、賃貸管理会社と連携する場合が多い。所有者の代わりに管理会社から同協会に依頼があり、同協会が遺品整理士を紹介する。

遺品整理の相談受付からサービス提供までの流れの図

 長谷川正芳常務理事兼事務局長は「世間の片付けの認識が変化しつつあると感じる。今後、遺品整理や空き家の片付けは専門の事業者に頼むことが一般的になると予想している。遺品整理や空き家整理の市場規模は5000億円あるといわれる。法整備が進み、業界全体が透明化することを希望する」と話した。

(2023年1月2日・9日22・23面に掲載)

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