愛媛県地場大手の日本エイジェント(愛媛県松山市)は7月1日付で乃万春樹氏が社長に就任した。地元の愛媛県では地域密着の賃貸管理、東京ではデジタルマーケティングを活用した外国人などの賃貸仲介に注力し、独自の事業を展開する。今後の方針や目標について聞いた。
インバウンド向けの売買・管理も視野に
地元密着と地域を超えた双方向の事業で進化
日本エイジェントは地元の愛媛県では賃貸管理と仲介を事業の軸とする会社だ。管理物件1万4500戸の99%以上が松山市内に立地する。その一方で、独自の無人店舗「スタッフレスショップ」といった不動産会社向けのサービスや、外国人向けの賃貸物件ポータルサイト「wagaya Japan(ワガヤ・ジャパン)」の運営など、地元密着と地域を超えた事業を双方向で展開する。賃貸仲介件数は年間5500件で、そのうち松山が4600件、東京が1000件弱だ。
乃万社長は主に東京での事業展開とデジタル分野で会社の成長に貢献してきた。2013年に東京初の支店となる中野店を開設し、15年に品川店、17年に有楽町店を開設。東京への進出について乃万社長は「個人として一から勝負したいという思いと、市場の将来性を考えた際に会社としても東京に進出する必要性があった」と語る。事業の立ち上げを一から経験する中で、「立地がすべて」「良い接客をすれば口コミで仕事が広がる」という愛媛での事業の常識が覆される日々が続いた。
他社との差別化を考え、東京では特色を持った事業戦略に転換。外国人市場に着目したサービスに注力した。
17年から外国人向けの仲介を開始。外国人に特化したサイトのSEO(検索エンジン最適化)対策、SNS戦略などのデジタル領域だけでなく、登録支援機関や外資系法人、大学・専門学校へのダイレクトメールや訪問提案などアナログな接点の強化も徹底。19年には外国人に特化したwagaya Japanをリリースした。新型コロナウイルスに見舞われた20年は、日本に住む外国人の賃貸需要を確保し、外国人の賃貸仲介件数は19年比で270%増の400件と、事業を伸ばした。
デジタル化を旗振り 非対面接客で売上倍増
デジタル分野では20年4月にサテライトリーシング室を愛媛県松山市に設置した。インターネット反響後にオンラインでの接客を行う専門部署で、「共感力」に注目。問い合わせ反響を専任の反響対応チームが受け、実店舗とサテライトリーシング室に顧客を振り分ける。顧客の趣味・思考に合致したスタッフをマッチングする自社開発システム「スタッフレスPLUS(プラス)」を活用し、オンライン接客、内見、申込み対応を若手3人のみでワンストップで実現した。オンライン接客の手法を見直すことで、従来38%だった非対面接客での成約率を57%と大幅に高めた。同室の1人あたりの月間売上高は、当時入社1、2年目のスタッフ3人で、実店舗の約2倍の200万円を達成した。
新たな取り組みを続ける乃万社長だが、大学生の頃は家業の賃貸管理業に関心はなく、インテリアデザインや輸入家具の会社をつくりたかったという。大学卒業後、内装材大手サンゲツ(愛知県名古屋市)に入社し、壁紙や床材の営業スタッフとして約3年勤務した。
その中で賃貸管理会社が白無地の量産クロスを大量に購入しているのを見て、賃貸管理業に興味を持つ。その後、賃貸仲介会社に入社。店長を経験後、同じグループ会社で賃貸管理と経営企画を担当、10年に日本エイジェントに入社した。
経営者として、いま重視している言葉は「大衆は常に間違う」という作家で実業家のアール・ナイチンゲールの言葉だ。この「大衆」を「常識」に置き換えて、自らに言い聞かせている。「常識通りにやっていると思考停止し、自分も会社も成長しない」と語る。
今後の経営戦略は愛媛県での管理戸数の拡大とデジタル・グローバル戦略の推進だ。
愛媛県では24時間お困りごと対応サービス「レスQ(キュー)センター」を管理物件だけでなく地域全体に広げ、地域に必要とされる企業を目指す。また、外国人投資家向けに日本の不動産を仲介し、その管理受託を進める。紹介する物件は自社物件にこだわらず、仲介ノウハウをほかの不動産会社へのサービスとして全国展開する方針だ。wagaya Japanの物件登録数は3年以内に3倍の30万件を目標とする。
「地域密着と、デジタル技術を活用した外国人の生活支援のインフラ整備を2軸に事業を拡大していきたい。世界が思わず応援したくなる企業にしたい」(乃万社長)
(8月9日24面に掲載)