有識者が2023年の不動産市況を予測。一般財団法人日本不動産研究所(東京都港区)研究部の吉野薫主席研究員は「投資家層の厚みが出ており、収益不動産市場の崩壊が起きる可能性は低い」とみる。
金利上昇視野での経営は必要
高まる不透明感
吉野主席研究員は「金融環境の不透明感が高まっており、不動産マーケットは気を付けなければならない状況。とはいえ、金利上昇で先行している他国の動きを参考にすると、金利上昇と実際の不動産価格への影響には時間差があることがわかる。もし、日本で金利が上昇したとしても、不動産マーケットが急に大きく崩れるとは考えにくい」と話す。
22年12月に日銀が、長期金利の上限を、0.25%から0.5%程度にまで引き上げると発表。金融緩和の縮小に転じた。
「13年の安倍晋三政権下でスタートした大規模な金融緩和政策が足かけ10年続き、不動産投資市場に安心感を形成。不動産価格は上昇傾向を維持してきた。だが、22年12月の日銀による緩和縮小で、金利上昇の可能性が浮上し、不動産価格に対する安心感が後退し得る状況」(吉野主席研究員)
ただ、収益不動産の購入に前向きな投資家も少なくないため、日本の不動産マーケットが23年に下降局面に転じるとは現状では言えないという。
同研究所が22年10月に実施し、188社から回答を得た第47回「不動産投資家調査」では、「今後1年間の不動産投資に対する考え方」において「新規投資を積極的に行う」との回答が21年比で1ポイント上昇し95%となった。
一方、外国の投資家の日本不動産への投資は一部で消極化している。「自国の長期国債の利回りが4%程度という状況で、それより利回りの低くなる日本の不動産を投資先の選択肢に入れにくくなっている面があるのだろう」と吉野主席研究員は話す。
オフィスは苦戦か
アセット別で見ていくと不安要素が大きいのがオフィス賃貸市場だという。オフィスの仲介を行う三鬼商事(東京都中央区)の発表によると、22年12月の東京都心5区(千代田区・港区・中央区・渋谷区・新宿区)のオフィスの空室率は6.47%だった。「リーマン・ショック後の水準には至っていないが、新型コロナウイルスの感染拡大前と比べて空室率が高止まりしていることは明白。都内企業によるテレワーク実施率の高さに加え、23年は都内で大型オフィスの開業も相次ぐため、弱含みとなるだろう」(吉野主席研究員)
住宅に関しては、実需、投資需要共に底堅さが続くとみている。価格上昇を打ち消すほどの要素はないとする。
返済コスト増想定
「現在の不動産マーケットが、バブル崩壊時やリーマン・ショック時と異なる点は、日本の不動産投資市場が成熟する中でプレーヤーの厚みが増してきたことだ。金利が上昇しても、取得希望者がいれば、不動産マーケットは下支えされ、クラッシュすることはない」(吉野主席研究員)
不動産会社の経営者やオーナーは、金利上昇のリスクを頭の中に入れておくべきだという。
長期金利の上昇であれば、新規の固定金利での借り入れの際に、ファイナンスコストが増える。短期金利の上昇であれば、新規に加え、既存の変動金利の借り入れについても金利が上昇し、コストが高くなる。「金利上昇のシミュレーションをし、どれほどまでの上昇であれば耐え得るのかを把握しておきたい。物件の収支が合わなくなりそうなら、投げ売りになる前に早期の売却を検討する。保有を継続するなら、返済が増えた部分を手元のキャッシュで補うなど、取るべき対応を考えておくことが大切だ」と、吉野主席研究員はコメントした。
一般財団法人日本不動産研究所
東京都港区
吉野薫主席研究員(44)
(2023年1月30日24面に掲載)