家賃滞納者に対する賃貸管理会社の業務実態
統計データ|2023年03月30日
家賃滞納者に対する賃貸管理会社の対応を全8社に取材を行った。業務を内製化・外注しているなど各社の業務内容には差が大きくあった。内製化している賃貸管理会社と外注している賃貸管理会社それぞれの業務内容や、なぜ内製化しているのか、外注しているのかなどをまとめた。家賃集金業務に対応する人員問題についても取り上げる。
そもそも賃貸管理会社は、家賃滞納者の対応を、どの程度社内で行っているのか
保証会社の利用実態
1.メインで利用する保証会社の数、1~2社が大半
メインで利用する保証会社の数を聞いたところ、1社、もしくは2社という回答に集約された。そのうち、自社で設立した保証会社を利用する不動産会社が3社だった。メインで利用する保証会社の審査に落ちた時に、サブで利用する保証会社と契約するかたちが多かった。2社以上を使う理由は、保証会社を1社にまとめることにリスクを感じていたり、物件の特性ごとにわけていたりなど、様々だった。
社名 | メイン利用の保証会社数 | サブ利用の保証会社数 | 利用保証会社数合計 |
A社 | 自社保証会社 | 約10社 | |
B社 | 自社と他社保証会社の各2社 | 約20社 | |
C社 | 自社と他社保証会社の各2社 | 約20社 | |
D社 | 1社 | 1社 | 約30社 |
E社 | 1社 | 1社 | 約10社 |
F社 | 1社 | 3社 | 約20社 |
G社 | 2社 | 約10社 | |
H社 | 1社 | 1社 | 約20社 |
どの賃貸管理会社の場合も、利用する保証会社の数は、メインとサブ以外に利用する保証会社の数が10社以上あった。他社から管理契約を切り替えて受託した物件の場合、家賃保証契約については、入居当時に入居者が交わした契約が引き継がれる。家賃保証契約は、入居者が保証会社と結ぶもののため、管理会社が変わっても、継続されるケースが多い。そのため、賃貸管理会社は、切り替えによる管理が増えるたびに、関係を持つ保証会社が増えていく。対象物件の入居者が入れ替わるまで、既存の保証契約は継続されるのだ。
2.自社保証会社を持つ会社、8社中3社
自社内に、保証会社を持つのは、8社中3社だった。また、過去に、自社で保証会社を持っていた会社も3社あった。自社保証会社をやめた理由は、家賃集金や、滞納督促に関わる業務にあたる人材の確保が難しかったからだ。
自社保証会社の運営形態については3つあった。社内ですべてをまかなうパターン、信販会社と連携するパターン、保証会社と連携するパターンだ。今回の取材で、自社保証会社を運営する3社は、社内でまかなうのが1社、信販会社と連携するのが2社だった。社内でまかなう会社では、自社のスタッフが審査、集金、督促業務を行っている。信販会社と連携する会社は、審査を信販会社に委託し、集金・督促も半分を委託し、残りの半分は社内で行っていた。
滞納初月の督促については、保証会社に委託していても、社内で行う賃貸管理会社が多かった。初月滞納の理由は「うっかり滞納」が大半を占めており、連絡すれば入金を確認できる。そのため、自社のスタッフが電話やショートメッセージで連絡するケースが多かった。厳しい対応を取るのではなく、入居者との関係性を作ることで滞納のリスクを軽減できるようだ。
3.初月滞納者、管理戸数の1割程度
滞納督促に関わる業務量については、多くの管理会社が初月滞納者は、管理戸数の1割が平均だと答えた。対応するスタッフの人数は、専任の場合1~2人、別業務と兼任する場合、多いところで7人で、電話やメールでの対応業務に、1日以上を要している会社が多かった。2ヶ月以上の滞納者に関しては、内製化、外注を問わず、用意する書類数が増える。保証会社を利用する場合も、保証会社とやり取りをするスタッフは、保証会社が指定する書類を用意したり、オーナー担当者への説明など、通常業務とは異なる仕事が発生するという。
集金・督促業務を、行うのは誰?
賃貸管理会社別実態
【ケース①:A社】
【企業情報】 ・首都圏本社 |
管理物件の自社保証加入率は5割だ。残り半数は管理変更などで他社から引き継いだ管理物件のため、他社保証会社や保証会社未加入の入居者が一定数存在する。自社保証会社があるため、家賃集金業務や督促業務を担当するスタッフは7人だ。他の業務との兼任だが、今回取材した全8社の中では1番スタッフ数が多かった。
メインとして行う集金業務は、外部の保証会社の契約者の場合も、振込確認については、自社のスタッフが行う。その理由は、滞納確認のためだ。「初月滞納の場合、うっかりや引き落とし忘れが多いため、連絡すれば8割は支払いがある」(担当者)
また、保証会社の請求日が契約によって異なるため、自社でも、外部保証会社の利用者でも、すべて自社のスタッフが確認し、初月滞納者に早期の連絡をする。毎月管理戸数の5%ほどで、初月滞納が発生するという。
3ヶ月以上滞納し、裁判になるほど揉めるケースは月1~3件だ。年間20件程度発生するが、外部保証会社の利用者や連帯保証人を立てている入居者がほとんどだ。
【ケース②:B社】
【企業情報】 ・首都圏郊外本社 |
審査を含めてすべて自社の保証会社で担当する。管理物件の5割の入居者が自社保証会社と契約する。残り5割は外部保証会社を利用する。滞納者が出にくい物件を中心に自社保証加入物件としている。自社保証会社を立ち上げた当時、95%の入居者が遅延なく家賃を払っていたため、約5%の滞納リスクをケアする必要があった。入居者が支払う保証料金は、自社、外部保証会社を問わず、同じ料金だ。契約時に1万円の加入金と月額880円の保証料金を支払う。
集金・督促業務を行う専任スタッフは2人で、専門部署もある。金融会社に勤務経験のあるスタッフを採用しており、集金、審査、督促に関するノウハウも深く持っている。
集金業務では、家賃回収のほかに、月極駐車場の利用料金の回収にもあたる。月極駐車場契約では、保証会社を利用していないため、入金確認はすべて担当スタッフが行う。入金が確認できなかった場合、電話や書面で督促する。
初月滞納者は全体の5%程度。自社、外部保証会社、住居、駐車場、すべてを合算した数字だ。
【ケース③:C社】
【企業情報】 ・関西圏本社 |
管理物件の自社保証会社加入率は1割だ。加入率が伸びない理由は、新たに管理を引き受ける物件が多く、その場合、外部保証会社を利用していたり、保証会社未加入のケースが多いからだ。他社から管理変更で受託した物件では、保証会社を引き継ぐことが出来なかったり、新たな保証会社に加入できないケースも多い。現在、入居者全体の3割が保証会社未加入だ。
保証会社未加入の入居者が3割ほど存在するが、集金、督促業務を行うスタッフは他業務との兼任だ。集金確認や督促業務については、物件の担当営業が行っている。
入居者に対して家賃入金日前に、携帯電話に「家賃入金日のお知らせ」という内容のSMSを毎月送る。入金日を毎月告知することで、うっかりの未入金を防ぐためだ。SMSの送付を行うようになってからは、滞納者も減り、督促の電話をする件数も減った。現在、初月滞納は0.5%で、取材した8社の中で滞納率が最も低かった。
【ケース④:D社】
【企業情報】 ・首都圏郊外本社 |
3年前まで自社保証会社(信販会社系)を利用していたが、現在は中止している。理由として、信販会社の社内体制が変わり、自社保証で委託したい業務との折り合いが付かなくなったからだ。現在は、外部保証会社をメイン1社、サブ1社で利用する。
家賃集金業務を担当するスタッフは1人で、おもに保証会社の窓口業務を行う。また、更新料など保証の対象となっていない料金の集金確認や、未入金者への督促業務も行う。
取材した管理会社では、自社保証会社をつくらず、外部保証会社を利用する会社が多かった。その理由は、業務を行うスタッフの人員不足によるものだ。家賃集金や督促業務にあたるスタッフは、業務経験豊富なベテラン社員が中心となる。「家賃集金や督促業務も管理会社の業務の一環だが、精神的に辛いこともある。そのため、今の若手社員にやらせることは出来ない」と話す会社もあった。家賃集金や督促といった業務の流れを把握する必要はあるが、実務は保証会社へアウトソースしているようだ。