不動産資産の問題解決を強みに持つ不動産会社といえば、市萬(東京都世田谷区)だろう。金融機関からの紹介の顧客が9割という数字が裏付ける。東京都、神奈川県を主として、郊外の遊休地や底地を所有する地主を中心に相談が寄せられ、その結果1800戸の管理を受託。同社西島昭社長に、中小の不動産会社だからこそ、着眼し広げられたビジネスモデルについて話を聞いた。
オーナーの9割が金融機関からの紹介
大手信金と業務提携不動産の問題を解決
――御社は不動産の資産コンサルティングを強みとしていますね。
当社は、不動産の問題解決専門の資産コンサルティング会社です。特に築古の問題と事業用の問題が多く、その関係で管理を行っているのです。顧客はほとんど地主で、借地の底地、郊外の遊休地などのコンサルティングで、売り上げの半分を占め、残りの半分が管理の売り上げとなります。
――金融機関から顧客の紹介を受けるようになったのはいつからですか。
会社設立した時から金融機関からの紹介はありましたが、実際業務提携をしたのは2013年です。最初に提携したのは城南信用金庫さんです。現在は金融機関や一部税理士事務所なども含めて、月30件の相談があります。結局、金融機関も金利だけでは競争できない中、顧客サービスの一環として何か付加価値を付けていかねばならない状況で、不動産の問題解決に注目しています。
――不動産の問題解決専門とは面白い部分に目を付けましたね。
当社がある東急田園都市線沿線は人気エリアで、管理も売買仲介も大手が寡占化しています。そんなエリアでやっていこうと思ったら、何か専門性がないといけないと思い、1999年に創業しました。
――大手の寡占化状態で、どのように差別化を図ろうと思ったのでしょうか。
中小不動産会社といえば、地域密着経営ですが、当社には地盤がありませんでした。このエリアは古い不動産会社も多いので、入る余地もなかったのです。そのため、地域密着ではなく、金融機関のかゆい所に手がとどく、金融機関密着でやると面白いのではないかと思いました。
――提携の金融機関とはもともとお付き合いがあったのですか。
リクルートを26歳で退職した後、不動産コンサルティング会社の役員となり、そこで7年間修業しました。その関係で、紹介をもらうことがあったのです。当初は支店からの紹介だったのですが、創業して7、8年ごろ前から本部から依頼を受けるようになりました。金融機関の融資が新築だけでなく、古い物件のオーナーにも融資していかないといけないほど競合が激しくなってきたからです。一方で融資しても返済できないといけないので、空室が解消できたり、修繕をサポートする会社が金融機関にもないといけないという流れになってきました。6年前に『「築20年超え」のアパート・マンションを満室にする秘訣』(ごま書房新社)という著書を出版したことがきっかけで提携できたのかもしれません。金融機関が本を顧客に紹介してくれるようになったからです。古くても空室は埋まるということに金融機関が関心を持って、当社に相談してくれるようになりました。
――この本で紹介している『空無い大辞典』はすごいですね。
古い物件の空室解消はややこしいし、手間がかかるし、ノウハウも必要なので、入社3年目の社員でも対応しやすいように、『空無い大辞典』を、ノウハウ蓄積のために作ったのです。ただ、最初の10年は売買が主でやってきて安定性を求めて、実は管理は13年目から注力し始め、その後の2年くらいでこの本を作りました。
――管理はどのくらいですか。
1800戸です。本を出版して金融機関と提携したことで、管理の受託が増えました。賃貸住宅以外に借地や相続の相談も多いです。5年ほど前からパートナースタッフに税理士がいることも強みです。地主個人のキャッシュフローシミュレーションソフトを税理士と共に開発しています。地主さんの問題はお金の問題です。空室対策をするにしても、資金に困っているわけで、このソフトでは向こう40年間の税引き後キャッシュフローを計算できます。この計算ができると、複合的な資産コンサルティングができます。
――今後注力していきたいことは何ですか。
次のステージとしては、当社が蓄積したノウハウを全国の管理会社に使ってもらいたいと思っています。シミュレーションソフトや建物修繕、借地問題、土地活用などの解説冊子『資産優良化シリーズ』です。こうしたツールを使ってもらい、最終的には不動産業界が良くなってほしいと思っています。