動画配信者(以下、配信者)をターゲットとする賃貸住宅が登場している。実際に配信者向け物件を企画・開発している企業に話を聞くと、中には周辺相場よりも30%ほど高く家賃設定したうえで満室稼働している物件もあるようだ。
防音性と高速ネット回線が必須
3割強が配信者
防音マンションの「ミュージション」シリーズを展開するリブラン(東京都板橋区)では、防音性などを強化した配信者向け物件の入居者募集を2021年9月に開始し、2カ月で満室となった。同社で調査し家賃は周辺相場より3割高いと判断した12万8500~19万4000円で設定。
物件名は「ミュージション品川中延」だ。都営地下鉄浅草線「中延」駅より徒歩4分の場所に立地する。全19戸のRC造11階建てで、間取りは1K、2K、1LDK。 19戸中5戸は配信者向け住居として設定した。特徴は高い防音性と高速インターネット回線、撮影用スポットライトなどをつるせる天井レールを用意したことだ。防音性に関しては、例えば窓を二重サッシにするなどの細かい工夫を物件全体に数百カ所施している。
インターネット回線は速度10Gbpsのサービスを導入した。ミュージション事業部の山下大輔部長は「賃貸物件に導入するインターネット回線の中では最速のものでは」と話す。天井にレールをあつらえ、撮影用に使用するスポットライトやバーチャル背景が投影できる背景布がつるせる点もポイントだ。
入居者は19戸のうち3割強がユーチューバーや専用アプリからライブ配信を行うライバーなど、想定したターゲットである配信者だった。入居中の配信者はほぼ20代で、年収は400万円以下から1200万円以上と幅広い。駆け出しの配信者と、有名配信者がそれぞれ入居しているためだ。
「実際の配信者らから意見を募った際に『防音性とインターネット回線が十分な物件が少ない』と聞き、ニーズがあることがわかったので今後も同様の企画をしていきたい」(山下部長)
創作家向け賃貸
長谷工グループで不動産開発事業を手がける長谷工不動産(東京都港区)でも配信者を含むクリエイター向け賃貸住宅を展開している。
音楽や映像クリエイター向け賃貸マンション「TRACK(トラック)両国」と「TRACK向ヶ丘遊園」を22年2月に竣工した。両物件とも全戸防音仕様で、大型機材を運び込めるようエレベーターを13人乗り用と大きめに設計するなど随所に工夫を施す。
TRACK両国はJR総武線「両国」駅より徒歩7分に位置するRC造10階建てで全27戸。TRACK向ヶ丘遊園は小田急電鉄小田原線「向ヶ丘遊園」駅より徒歩3分に位置するRC造11階建ての全30戸だ。
担当者は「いずれの物件も反響が良く、TRACKシリーズに今後も注力していきたい」と話す。 月額制プランに対応した配信者向け物件も登場している。
短期の需要探る
マンスリーマンション事業などを展開するmatsuri technologies(マツリテクノロジーズ:東京都新宿区)では、22年1月7日に配信者向け物件として防音マンションの「ライバー東京」をオープンした。賃貸借契約による入居のほか、家具・家電付きでマンスリー契約による入居も可能だ。賃料は個人契約で12万円。JR山手線「巣鴨」駅から徒歩5分の場所に位置する全11戸の8階建てRC造だ。
同プランを展開したのは、配信者がホテルに2カ月ほど宿泊して撮影を行う場合があると聞いたためだ。防音対策がなされた物件の短期貸しにニーズがあると考えた。
同社では今後ライバー東京への反響などを見て、配信者向け物件の展開を考えていくとしている。(國吉)
(2022年4月18日24面に掲載)