地方の管理会社2社に、賃貸仲介における契約関連業務の実態を取材。18日に全面解禁が決定した電子契約に対応すべく、地域特性を踏まえながらも現場の効率化に前向きな姿勢を見せた。
松橋不動産、ウェブ申し込み2割弱
対面重視の重説を継続
年間賃貸仲介件数400件の松橋不動産(青森県八戸市)では、大手ハウスメーカー物件への客付けの際に指定されたウェブ申し込みシステムを利用。1週間かかっていた申し込み準備から入居審査完了までの期間が、短縮できるようになった。
全従業員数はパートを含み14人。このうち賃貸仲介を担当するスタッフは5人で、営業スタッフが2人となる。八戸市を中心に周辺市町村を商圏とし、賃貸仲介店舗は1店舗を構える。来店成約率は約70%だ。賃貸仲介の成約件数のうち、一般媒介が64%、専任媒介が36%を占める。
同社の申し込みは、紙が82%、ウェブが18%。元付けの案件は100%紙で行い、客付けの案件のうち約2割を占める大手ハウスメーカーの物件において、各社指定のウェブ申し込みシステムを利用する。システムの利用開始時期は2021年繁忙期ごろからだ。
ウェブ申し込みの効果として、申し込み準備および入居審査までの期間が短縮した。平均1週間かかっていたところ、3日間で完結。顧客と同社間で行われる書類の提出と受け取りが減ったことで、効率化が進んでいるという。
松橋里実社長は「管理物件の仲介の際にも申し込みのウェブ化に対応していきたいが、システム導入費用と比較しながら検討している」と話す。
代理店となっている家賃債務保証会社は、アーク(岩手県盛岡市)で、審査書類はファクスや郵送で対応している。
重要事項説明(重説)と契約は、同日にすべて対面で行う。要望があればIT重説にも応じるが、入居者となる顧客と事前に直接顔を合わせておくことが、管理会社としても安心感が持てるという理由から、対面に重きを置いている。
家財保険は三井住友海上火災保険(東京都千代田区)を利用する。一部の工程は専用のウェブサイトで行うが、申し込みは書面で対応している。
鍵の受け渡しは、100%店頭で行う。申し込みから契約までの所要期間は約10日間だ。
同社の商圏では、新型コロナウイルス下においても非対面でコミュニケーションをとる習慣がなかなか浸透しておらず、ウェブでの取り引きが一般的になるには時間を有するのではないかと松橋社長は推測する。
松橋不動産
青森県八戸市
松橋里実社長(35)
ゆのまち不動産、法改正後、契約電子化へ
地元他社の動向に注目
年間350件を仲介する、ゆのまち不動産(大分県別府市)は、電子契約の全面解禁に伴う法改正の施行後をめどに電子申し込みシステムを導入する予定だ。
同社は別府市と大分市で計2店舗を展開。従業員7人のうち5人が賃貸仲介の営業に従事する。
賃貸仲介の売り上げには、家賃1カ月分の仲介手数料、保険やインターネット販売契約の代理手数料を計上。仲介は専任と一般媒介で半々となる。
入居申し込みの実施比率は紙が100%だ。地場大手管理会社が紙で申し込みを受け付けているため、客付けの際も電子申し込みシステムを使用する機会がほぼない。
金丸涼介専務は「電子契約が全面解禁となれば、申し込み業務もオンライン化することで、顧客の利便性や社員の業務効率化につながる」と期待を込める。
オンライン化において地場大手不動産会社の動向は気になるが、同社では日本情報クリエイト(宮崎県都城市)が提供する電子申し込みシステムを5月以降に導入する予定だという。
家賃債務保証会社は、主にジェイリース(大分市)を利用する。顧客が記入した書類をファクスし、入居審査を行う。
重説は対面が9割、非対面が1割だ。県外から大分県に引っ越す顧客を中心にIT重説を実施し、地元の立命館アジア太平洋大学の学生やその親が利用するケースが多い。ビデオ会議ツールは「Zoom」を使用する。
賃貸借契約と重説はすべて同日に行う。
入居者が加入する家財保険については、ジャパン少額短期保険(東京都千代田区)を利用。賃貸借契約時に顧客が申込書類に記入し、郵送する。
鍵の受け渡しは店舗にて行う。申し込みから契約までの所要期間は平均1週間だ。
(2022年5月16日7面に掲載)