【2023年賃貸トレンド大予測】賃貸経営、持続可能の時代へ

リクルート

統計データ|2023年01月05日

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 2023年の年明けから始まるオンシーズンに向けて、22年の賃貸住宅の動向を振り返るとともに、今後の対策や戦略について紹介していきたい。

シングル苦況 家賃下落地域も

 新型コロナウイルス禍3年目となった昨年の22年1~3月。「SUUMO(スーモ)」に掲載された首都圏の賃貸住宅の中で反響のあった物件の平均賃料を見ると、コロナ禍前の20年同月期間と比較して、東京都心のシングルタイプを除き軒並み上昇。

 上昇額はシングルタイプで1000円~2000円程度、カップルタイプで2000円~4000円程度、ファミリータイプで6000~1万1000円程度で、広い間取りほど上昇率も高かった。(表1)

コロナ禍前と比較 反響のあった物件の平均家賃上昇率

 全体的に上昇トレンドだった22年で、唯一不調だったのが東京都心部のシングルタイプ。東京だけでなく、大阪市や神戸市など関西の都心部でも同様の傾向が見られた。

 不調の原因は、シングルタイプの三大需要である学生・法人・外国人の入居者が減少したこと、コロナ禍以降の住み替え検討者のニーズが変化したことの二つが考えられる。20年以降のニーズの変化として、これまでより部屋数や広いリビング、収納量などを求める傾向があったことが当社の「住宅購入・建築検討者調査」からも分かっている。賃貸検討者でもその傾向は同じであった。

 専有部の面積を優先すると賃料が上がるため、通勤利便性や駅徒歩を譲って郊外に住み替える層も一定数いた。

 とはいえ、コロナ禍も一息ついた22年の半ばころから明るい動きも始まりつつある。外国人需要である。東京都統計局によると、14年以降増え続けていた外国人人口は20年1月の57万7329人をピークに減少し、22年1月には51万7881人まで落ち込んだ。

 しかし10月のデータでは56万9979人まで戻っている。直近のデータが確認できたのが東京都だったが、関西や九州など他エリアの一部でも「外国人が戻ってきた」との声も聞くようになった。

 一方、学生に関しては楽観視できない。22年度から多くの大学で対面授業がメインになり、大学の近くに住む学生が戻ってきているものの、少子化の影響で今年19歳になる若者(04年生まれ)は、コロナ禍前の若者(01年生まれ)より5%以上少なくなっている。(厚生労働省「人口動態統計」より)

 日本の少子高齢化を考えれば、今後学生や新社会人需要がコロナ禍前に戻ることは難しいのではないだろうか。

 これらの理由から、23年のシングルタイプ需要は昨年より好転する可能性はあるものの、厳しい状況が続くと見られる。

断熱で差別化 25年に義務化へ

 ここからは23年以降の対策や戦略について考えていきたい。近隣のライバル物件とどのように差別化を図り、集客につなげていくべきか。

 一つは、コロナ禍でニーズが加速した設備・サービスの設置や住宅性能の向上である。当社が実施した「2021年度 賃貸契約者動向調査(首都圏)」の設備に対する満足度では、「24時間出せるゴミ置き場」が6年連続1位で、2位の「宅配ボックス」と6位の「遮音性の高い窓」などは前回より順位を5ランク以上アップさせた。

賃貸契約者の設備に関する満足度の表

 特に遮音性や断熱性・気密性などの住宅性能に関しては、賃貸居住者からの不満が募りやすい点でもあり、今後の国の施策を考えても重要だ。

 25年からは賃貸住宅においても省エネルギー基準を満たすことが義務化される。対象は新築賃貸住宅に限られているが、基準を満たした新築が市場に増えれば、満たしていない既存住宅は不利になる。

 加えてポータルサイトなど広告上での省エネ性能表示も検討されている。エネルギー価格高騰の影響で、電気代をはじめとした光熱費を気にする消費者の意識も無視できないことからも、新築や既存住宅を問わず省エネ対策は早期に考えておいたほうがいいだろう。

 ライバル物件との差別化を図る対策としてもう一つ考えられることは、従来から賃貸住宅を契約することが困難な状況にある人々を、入居者として受け入れていく準備を始めることだ。

 冒頭で需要が回復したと紹介した外国人をはじめ、日本ではLGBT(性的マイノリティ)の人や母(父)子家庭、障害を持つ人、そして今後もっとも大きな割合を占める高齢者といった人々が、現在ではまだまだ賃貸住宅を借りづらい状況にある。

 言うは易く行うは難しであることは百も承知であるが、今後日本人の学生や新社会人、さらに一般的な子育てファミリーの世帯割合が減っていくことは明らかで、その分の空室を埋めてくれる可能性があるのが上記のような人々である。

 昨今は、外国人や高齢者に入居してもらう際の特別な契約内容や管理体制を構築し、オーナーに理解を得ながら積極的に対応する管理会社も少なくない。

 企業にも一個人にも、サステナビリティ(持続可能性)が求められる時代。賃貸経営においても、23年はこれまで以上に先見性をもって、住宅性能の向上や入居者への対応に備える1年にしていただきたい。

江原 亜弥美氏の写真

江原 亜弥美
SUUMO副編集長
SUUMOリサーチセンター研究員

2009年リクルート(東京都千代田区)入社。「SUUMO(スーモ)マガジン」他、複数の編集部で編集・商品企画を担当し、16年「都心に住む」編集長・「SUUMO」副編集長に着任。22年5月より現職

(2023年1月2・9日25面に掲載)

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