住宅弱者に空き家を提供 行政が積極支援、事業者と連携

東京都豊島区,NPO法人全国ひとり親居住支援機構,シングルキッズ,サンカクシャ,ピッコラーレ,福岡県大牟田市,NPO法人大牟田ライフサポートセンター,京都市

統計データ|2023年04月28日

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社会課題解決にストック活用

 官民が連携し、住宅弱者への住まい提供と空き家の活用をつなげる取り組みが広がりつつある。民間事業者側に大きな裁量を持たせつつ、自治体が制度で活動をバックアップする。モデルケースが増えていくことで、不動産会社にとってもビジネスチャンスになる。一方で集客の課題もある。三つの事例から、現状と今後の可能性を見ていく。

オーナーへの事業説明に区が同席

 東京都豊島区は、区内の空き家をシングルマザー向けのシェアハウスに利活用する。「豊島区モデル」として、区の住宅課がNPO法人やシェアハウス事業者らと連携し、3月に第1号をスタートした。空き家の利活用と、ひとり親への住居支援の同時解決を狙う。

 NPO法人全国ひとり親居住支援機構(神奈川県横浜市)が空き家をマスターリースし、ひとり親世帯に貸し出す。運営はひとり親世帯向けのシェアハウスを運営するシングルキッズ(東京都世田谷区)に委託する(図1参照)。同NPO法人が運営する母子シェアハウスポータルサイト「Mother Port(マザーポート)」に事業者が掲載するなどして、入居者を募集する。ほかにも、女性や若年者に対し、社会的孤立に寄り添うことを目的とした伴走支援を行うNPO法人、サンカクシャ(東京都豊島区)やピッコラーレ(同)などからの紹介も受ける。そのほか、どんな企業からの入居者紹介も受け付けるとしている。

 空き家の掘り起こしには、豊島区住宅課の担当者が積極的に関わる。現地調査を行ったり、町中を歩いたりして空き家を確認。見つけた空き家のオーナーとコンタクトを取り、オーナーへの説明にも事業者と共に足を運ぶ。

 同課の河野敬輝課長は「行政が自ら動くことが重要。行政は、空き家予備軍の状態から把握し、オーナーに働きかけることができる。民間事業者の力を借りるためにも、民間事業者任せではいけない」と話す。

豊島区モデル」のスキーム図

(図1)「豊島区モデル」のスキーム図

民生委員300人が調査 納税情報と紐づけ

 福岡県大牟田市では、空き家問題の解決と居住支援を結び付けた活動を行い、10年間で34件の実績がある。

 行政とNPO法人、関連する事業者らが居住支援協議会を2013年に立ち上げ、空き家のオーナーと住宅確保要配慮者(以下、要配慮者)のマッチングを行っている。

 大牟田市のケースでは、空き家のオーナーは改修やリノベーションなどを行わない。基本的に現状のまま、低額の賃料で要配慮者に貸し出す。契約時には、不動産会社などは媒介せず、当事者間で契約を締結する仕組みだ。単身の高齢者などが入居する場合は、月1回の安否確認として、入居者がNPO法人大牟田ライフサポートセンター(福岡県大牟田市)に連絡することなどを契約に盛り込む。万が一、約束した期日までに入居者からの連絡が入らない場合は、同NPO法人から入居者の安否確認を行う。

 大牟田市では、同協議会の発足後、市内で活動する民生委員約300人の協力で市内に所在する空き家の全件調査を実施。その際に空き家情報と、固定資産税の納税情報をひも付け、所有者を特定した。13年の一斉調査以降も、3~5年ごとに調査を継続し、新たな空き家の発掘も行っている。

 調査実施以降、市は、空き家の相談会への参加を呼びかける手紙を納税者に送付。空き家の相談会は大牟田ライフサポートセンターが年3回ほど、実施している。

 所有する空き家の活用を希望する声が上がった場合には、物件現地に市と同NPO法人の担当者が赴き、物件の状態を確認する。入居者を募集できる物件であれば、居住支援協議会が運営する空き家情報サイト「住みよかネット」に物件情報を掲載し、入居までのサポートも行う。

 大牟田ライフサポートセンターでは、行政のほか、不動産会社や、弁護士・税理士などの士業、福祉関係者、学識者など、さまざまな業種との連携ができている。そのため、生活や居住に関して悩みを持つ人に、必要な専門家を紹介できることが強みだ。空き家の所有者に対しても同様に、提携する専門家らにより具体的な提案を行うことができる(図2参照)。同センターの牧嶋誠吾事務局長は「行政は枠組みを作ることが仕事だが、枠組みだけを作っておしまいではなく、積極的に民間企業や団体と連携する必要がある」と話す。

大牟田市居住支援協議会の体制図

(図2)大牟田市居住支援協議会の体制

空き家情報サイト「住みよかネット」の画面

空き家情報サイト「住みよかネット」

市営住宅の空室利活用に本腰 民間企業に貸し出し

 市営住宅の空室の利活用に本腰を入れるのは、京都市だ。5月中旬をめどに、リノベなどを手がける事業者を公募する。

 同市は、570棟2万3000戸の市営住宅を運営する。そのうち27%にあたる約6300戸が空室だ。このうち、改修工事費用が高くなってしまうため、市で予算が出せない空室をターゲットに民間との協業を開始する。若年層や子育て世帯が安く入居できる住宅をコンセプトに、利活用を進めていく。

 事業スキームは、京都市が市営住宅の目的外使用として、公募した事業者にマスターリースする。事業者が費用を負担し、コンセプトに準ずる改修を実施。賃料設定は事業者に決定権があるものの、京都市が低廉な住宅であることを求めているため、相場よりは安くする必要がある。

 マスターリースの期間は10~12年間。価格は4月21日現在、調整中だ。公募できるのは京都市内に本社または支店を構える事業者に限定する。

 すでに不動産会社を中心に複数の事業者から問い合わせが入っていると言い、23年度は70戸、同スキームで利活用する。24年度以降は年間100戸の利活用を目指す。

京都市が作成したリノベ後のイメージ

京都市が作成したリノベ後のイメージ。市内で人口流出が問題となっている若年層と、子育て世帯をターゲットとする。各戸の面積は40㎡~60㎡程度

「南烏丸団地」外観写真

今回募集する市営団地のうちの一つ「南烏丸団地」外観

 さまざまな居住支援と絡めて空き家の利活用の可能性が広がる一方で、課題も見える。

 「豊島区モデル」は、運営の中心を担うNPO法人や事業者らの金銭面・業務面での負担が大きい。物件の改修費用は150万円を上限に3分の2を補助するものの、シェアハウスへの改修は全国ひとり親居住支援機構が行うため、改修費の不足分は同NPO法人が負担している。そのほか、運営にかかる人件費、空室リスクも同NPO法人が持つことになる。

 京都市では、リノベ費用は事業者負担で、補助金はない。初期投資の回収が見込める期間として10~12年の長期で貸し出しするが、賃料を相場より低額しなければならないため、できることは限られる。空室リスクもある。借り上げる物件はエリアでグルーピングしており、物件の状態もまちまちだという。個別に選ぶことができないため、事業者の体力も求められる。

 赤字事業では、事業の継続性がない。ストックの活用のために官民ともに何ができるのか。議論を重ねる必要がある。

(2023年5月1日・8日1面に掲載)

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