東京地裁で5日、マスターリースをセットにした収益不動産の販売手法に一石を投じる判決が言い渡された。入居者から支払われる賃料より、オーナーに支払う賃料のほうが高い「逆ざや」となっていることを説明せず、投資用不動産を販売した不動産会社の不法行為を認め、オーナーに対する損害賠償の支払いを命じた。判決のポイントを解説する。
不動産仲介会社らに賠償命令
説明義務違反認定
不動産の売買およびマスターリースに関する損害賠償請求裁判で、東京地裁は5日、原告のオーナーらの請求を認める判決を下した。
損害賠償を命じられたのは、売買仲介などを手がけるピーエムジー(旧ポリス・キャピタル:東京都中央区)、サブリース事業を手がけるLifestar(ライフスター:同)および、同じくサブリース事業を行うおうちの管理(東京都千代田区)の3社と、代表取締役ら3人。
原告らは、被告らに対し、逆ざやであることを知りながら説明せずに物件を販売した行為などについて、合計約1720万円の損害賠償を求め、2021年4月に東京地裁に提訴。原告の訴訟代理人弁護士は、東京みらい法律事務所(同)の甲斐伸明弁護士が務めた。
判決では、逆ざや状態をオーナーに説明せず物件を販売する行為を不法行為と認めた。損害賠償額は合計で約1475万円。
原告側の甲斐弁護士は「今回の判決は、賃料の逆ざや状態を、販売事業者が説明義務を負う重要事項の一つとして認めたことに意義がある。借り上げ賃料を水増しすることにより、物件価格を高く設定するスキームに警鐘を鳴らす効果もあるのではないか」と話す。
争点は複数あるが、不動産の取引に関わる判決のポイントは2点。
1点目は、逆ざやであることを説明せずに物件を販売することが、信義則上の説明義務違反にあたるとして、不法行為に認定されたこと。
2点目は、オーナーの損害額の認定方法だ。
物件の販売価格全体ではなく、契約書記載のマスターリース賃料と物件価格から、利回りを算出。同利回りを基に、実際の賃料から物件価格を再度算定し、実際の販売価格との差額を損害額と認定した。
「継続性に疑問」
前述の2点について、上図の通りオーナーA氏が購入したA物件の事例を基に解説する。
A氏は、2019年12月、ピーエムジーから区分マンションを購入する際、おうちの管理とのマスターリースもセットで契約。
21年9月以降賃料未納となったものの、同社からA氏に支払われるマスターリース賃料は8万500円で、販売価格は1039万7000円だった。
なお、おうちの管理のマスターリース契約書には「入居者賃料は原則9万4000円」と明記されていた。そのため、同物件は書類上、逆ざやではなかった。
だが実際は、A氏が同物件を購入する前から、賃料4万2000円、管理費8000円の月額5万円で入居者がいる物件だった。つまり、購入時から3万円以上の逆ざやとなっていたことがわかる。
東京地裁は「逆ざやの状態は、社会通念上、明らかに異常な事態」「マスターリース賃料の支払いの継続性に疑問が生じ、ひいては不動産の収益力や価格評価にも大きな影響を及ぼす」と断じた。
A氏が物件の売買契約締結の判断を行うための重要事項として、ピーエムジーには、信義則上、逆ざやとなっている旨を説明する義務があるとした。この義務を怠った同社の不法行為責任と、ピーエムジーと密接な協力態勢にあったおうちの管理の共同不法行為責任を認めた。
さらに、登記上取締役ではないが実質的経営者と認定した者にも、一連の行為について共同不法行為責任を認めている。
価格の差額が損害
損害額については、購入価格全額ではなく、利回りを使って算定している。
すなわち、A氏の物件ではマスターリース賃料で算出すると、表面利回りは9.29%になる。実際の賃料5万円で、同じ利回りで計算し直した物件価格の差額393万8443円を、同物件の損害額と認定した。
おうちの管理は全国賃貸住宅新聞の取材に対し、書面で回答。同社の久保田勝行社長は「当社の主張が認められず残念。判決内容を不服とし、控訴を検討中」と話した。
(柴田)
(2023年9月25日1面に掲載)