変革に挑む、若き昇り龍

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商品|2024年01月11日

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 不動産業界向けにサービスを提供する会社において、新たな事業構築に奮闘する若手社長を取材する機会が増えた。ここでは、「変革に挑む、若き昇り龍」と題して、従来の商慣習や業界課題に対し、テクノロジーを活用しながら新しいアプローチを模索する若手社長6人を紹介していく。

システムで建物データ収集 情報集約型ビジネスへ転換を

 2019年から建物管理クラウドシステム「管理ロイド」を提供している。巡回点検や電気・水道メーターの検針、清掃などの報告をスマートフォンアプリで入力し、事務所に戻ってからの報告書作成業務を不要にする。

 「エクセル」の報告書のスマホ用アプリへの変換、写真撮影でメーターを読み取るAI(人工知能)を活用した自動検針などの機能で現場の報告業務を効率化。報告事項はクラウドに保存され、即時に社内で共有することが可能だ。導入企業は約2200社で、登録建物の割合はビルや商業施設、ホテルなどが6割、住宅が3割、物流施設が1割ほど。

 「21年の賃貸住宅管理業法施行もあってか、近年、賃貸管理会社からの問い合わせが増えています。巡回報告書や原状回復報告書の作成のほか、エリアによってはガスや水道の検針に利用される場合もあります」

管理ロイドの巡回報告入力画面

管理ロイドの巡回報告入力画面

 22年からは工事費用の適正価格査定や工事手配を行うシステム「工事ロイド」も提供している。システム開発の肝は、建設コストや工事進捗(しんちょく)状況を管理するコンストラクション・マネジメントを手がけてきた実績と、15人以上の元現場監督社員の経験のデータ化だ。

 「建物にどんな設備があり、どんな工事をいくらかけていつ行ったのかというデータは、ウェブにはほとんど公開されません。コンストラクション・マネジメントや管理ロイドを通じて、こうしたデータを自社で基盤から開発したAIに学習させます。これにより、適切な設備機器更新計画の策定と無駄のない設備投資を支援できるのです」

 ITベンダーでデータベースの構築に携わった後、コンサルティングファームで顧客のコスト削減に取り組んだ。数々の案件を成功に導く中で、不動産業界を担当した際に、壁にぶつかった。

 「それまでのコスト削減策が全く通用せず、困り果てて相談したのがTHIRDでした。工事や資材のデータを使った適正工事価格査定に加え、その価格で施工できる事業者の紹介も受け、苦労していた建築コストが一気に下がりました。THIRDが持つデータやその活用技術に感動して、入社を決めました」

 創業者から代表継承のうえ、17年に入社。経営コンサルティング事業や管理ロイドなどのシステム開発を推進してきた。

 管理ロイドには累計約300万件の設備データ、工事ロイドには約40万件の建築資材のデータが蓄積されている。今後はこのデータを生かした事業展開を行う。

 「導入企業にとって継続的に費用対効果が高い新機能の開発や、AIを使ったデベロッパー・ゼネコン向け建設管理システムの受託開発を行っていきます。建設事業も不動産事業も、人手不足が深刻な課題。データを活用した効率化で、建物管理や建設の仕事を労働集約型から情報集約型のビジネスに変えるのが、最大の目標です」

井上惇社長の写真

THIRD(サード)
東京都新宿区
井上惇社長(41)

 

 

手軽に物件写真の修整依頼 高品質な高品質な募集資料当たり前に

 写真の画像補正や建築パースの制作、空室写真への家具画像の配置ができる「バーチャルステージング」を手がける。専用サイト経由で画像補正1枚250円(税込み)から注文可能という価格の安さや注文のしやすさ、最短1時間という納期の早さが特長だ。顧客は主に住宅を取り扱う不動産会社で、取引社数は2023年12月1日時点で約500社となる。

 「月に2000件ほどの注文のうち約半分が賃貸管理会社からです。画像補正やバーチャルステージング、室内写真の家具などを消す『アイテム削除』の注文が多くなっています」

 同社は117カ国で画像補正サービスなどを提供するオーストラリアの会社の日本法人だ。グローバル本部とシステムや制作の仕組みを共有することで品質を保ちながらコストを削減し、明瞭な料金体系を実現している。

 「写真の加工を行う編集者は世界に2000人ほどです。さまざまな地域に多くの編集者を抱えることで、最短1時間納品という短納期を実現します。彼らと修正箇所などのやりとりを英語でスムーズに行うことができるのは、グローバル企業ならではの強みです」

 グローバル本部が日本でサービスを展開するにあたって、日本支社の代表として21年8月に入社した。幼少期をアメリカで過ごし、大学の建築学科を卒業後、野村不動産(東京都新宿区)で投資家の不動産を中心とした資産を運用するアセットマネジャーとして働いた経歴を持つ。

 「英語と不動産知識というスキルを生かすことができ、入社前に想像した以上の手応えを感じています。多国籍の編集者と仕事ができるのも、私にとってはうれしいですね。楽しかった幼少期を思い出します」

 日本でのサービス展開開始当初から顧客からの反応はよかったものの、非上場の外国企業であることや、日本の銀行で口座がつくれないことなどを理由に、大手企業に取引を断られるケースも多かったという。日本で市場シェアを拡大するためにグローバル本部を説得し、22年4月に日本法人設立にこぎ着けた。

バーチャルステージング画像

バーチャルステージングは1枚3800円(税込み)で利用できる

 「23年まではスタッフと編集者の採用・育成など体制づくりに注力してきました。24年は当社のサービスをより多くの不動産会社に知ってもらうために営業活動を強化していきます。部屋探しのポータルサイトでは、ホームステージングを実施した写真はまだ少数派ですし、暗くてかすんだような写真さえ見かけます。安価で1枚から使える当社のサービスで、入居募集用写真の質にこだわることを当たり前にしていきたいです」

上野志帆社長写真BoxBrownie.com(ボックスブラウニードットコム)
東京都千代田区
上野志帆社長(37)

 

 

不動産会社向け電子契約 営業に集中できる仕組み構築

 「ハウスメーカー時代に、売り上げを追求すればするほど事務作業に追われ、顧客としっかり向き合えないジレンマに直面しました」。この経験が、不動産業界向けに電子契約サービスを提供する現在の事業につながっている。

 新卒で入社したハウスメーカーでは、全国約3300人いる営業担当者の中でトップの成績を収めたこともある。主に実需向けの戸建てを販売してきたが、担当した顧客からは相続時の売却や不動産投資などの相談を寄せられることも。その要望に応えるべく、2018年に不動産会社を立ち上げた。

 既存顧客からの紹介なども多くあり、経営はすぐに安定軌道に乗る。売り上げ10億円が目前まできたところで、ハウスメーカー時代のジレンマに再度ぶつかることになった。「自分一人で対応できる範囲に限界を感じました。俯瞰(ふかん)したときに、優秀な営業パーソンは全国にいる。そういう営業パーソンが仕事をしやすい仕組みづくりをすることこそが業界全体、ひいては顧客のためになるのではないかと考えました」。そして不動産テック事業への参入を決意する。

PICKFORM画像

物件ごとに関係する資料や写真を保管できるようになる

 21年8月に社名をPICKに変更し、翌年に全面解禁を控えていた不動産取引における電子契約に事業の的を絞った。22年8月に形になったのが、不動産業界向け電子契約サービス「PICKFORM(ピックフォーム)」だ。サービスの順法性を徹底するため、規制の適用の有無を担当省庁に確認できる「グレーゾーン解消制度」を利用。国土交通省に確認を求め、同年11月に宅地建物取引業法の施行規則の定める方法に準拠しているとの回答を得た。

 「当社の強みは、不動産会社の立場で現場の運用に合わせてシステムを開発した点にあります。例えば、不動産の取引には複数人が契約時に関与することが一般的です。そのため、複数の関係者が同時に署名できる方式を採用しています」。運用面の相談にもすぐに対応できるよう営業やカスタマーサポートの人員は原則業界出身者だ。

 24年には、電子契約に付随する業務を効率化する領域でのサービス提供も予定している。その一つが、あらゆる物件の資料をファイル形式にかかわらずPICKFORM上で保管・管理できるシステムだ。「導入企業数も堅調に伸びる中、事業の拡大フェーズに入ったと認識しており、今春をめどに資金調達を予定しています。現場の営業パーソンが働きやすい環境がつくれるよう、さらなるサービス拡充と認知度拡大を図っていきます」

普家辰哉社長画像PICK(ピック)
東京都目黒区
普家辰哉社長(35)

 

 

部屋探しアプリ、若者から支持 さらなる顧客体験の向上を

 部屋探しアプリ「CANARY(カナリー)」を展開する。2019年6月にリリースし、24年1月末までに累計ダウンロード数が350万を超える見込みだ。「既存のポータルサイトに加え、若年層を中心に拡大しているアプリ領域で、時代のニーズに応えるもう一つの部屋探しチャネルをつくりたいという思いから開発しました」。「LINE」を使った不動産会社とのやりとりも可能で、電話やメールを好まない若年層を中心にユーザー数が伸びている。

CANARYのアプリ画面画像

操作性にこだわったCANARYのアプリ画面

 高い操作性にこだわり、「iPhone(アイフォーン)」ユーザーによるアプリ評価は5点満点中4.8点(同年12月15日時点)。集客の間口を広げたい不動産会社の需要もつかみ、利用社数を約700社まで伸ばしている。掲載物件数は約400万件。

 22年8月には、顧客管理システム「CANARY Cloud(クラウド)」の提供も開始した。顧客ごとの対応状況の管理や自動追客などの機能を搭載し、仲介業務の生産性向上に寄与している。

 東京大学経済学部を卒業後、経営戦略コンサルティングファームなどを経て18年4月に起業した。「私自身、引っ越しの経験が多く、顧客の視点から部屋探しをもう少し効率化できないかと感じていました。住宅は衣食住の一つであり、市場も社会的意義も大きい。テクノロジーによって業界が変わっていこうとしているタイミングだったこともあり、顧客体験を大きく変えるサービスを提供できるのではないかと考えたのです」

 新規サービスの開発には大きな先行投資がつきものだが、外資系投資銀行に勤めていた際に培った経験やベンチャーキャピタルとの関係が資金調達に役立った。他企業との提携も進めており、22年9月には家電量販店大手のヤマダホールディングス(以下、ヤマダ:群馬県高崎市)と資本業務提携を締結。10億円を調達した。デジタル領域の知見を生かして、ヤマダが持つ数千万人の会員データを活用し、販売促進やマーケティングの分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。

 「前職のコンサル業はクライアントビジネス」とし、サービス提供だけでなく、顧客企業の課題解決ができているかも重視。サービスを通じて、どのエリアでどのような物件が閲覧されているかや、若年層への接客の仕方などを不動産会社にフィードバックする。

 全国に店舗・物流網を持つヤマダとは、部屋探しから家具・家電購入までサービス提供で連携し、ユーザーの利便性を高める。「個々のサービスがつながっていくことで世界はもっと変わる。当社も積極的にサービスの連携を進めていきたいと考えています」

佐々木拓輝社長画像BluAge(ブルーエイジ)
東京都千代田区
佐々木拓輝社長(32)

 

 

デジタルで工事を透明化 情報格差の解消目指す

 内装工事の発注者と受注者をオンラインでつなぐサービスを開発・提供している。「主な利用者は、工事を発注する不動産会社と、工事を受注するリフォーム会社や建設会社のほか、実際に施工する職人です」

 当初は、同社が工事の元請けになり、不動産会社向けに原状回復工事をオンラインで受注するサービスを手がけていた。2023年9月から仕組みを変え、工事の発注者がリフォーム会社や建設会社に直接依頼するサービスに変更した。「利用者(事業者)ごとにSaaS(サース)のサービスとして提供しています。賃貸住宅の原状回復工事や小規模な修繕だけでなく、一般住宅の内装工事も依頼することができます」

写真付きで単価や金額が明確に表記されている画面画像

原状回復工事の内容は、写真付きで単価や金額が明確に表記されている

 工事の進捗(しんちょく)状況の把握や見積書の提出、管理など、煩雑になりがちな業務をオンライン化することで、業務の効率化を図ることができる。また、インボイス(適格請求書)登録をしている事業者への工事の依頼や、オンラインでの退去立ち会いの機能もあり、不動産会社を中心に500社以上で利用されている。

 学生時代に飲食店を経営した際に、一番苦労したのが店舗探しだったという。その経験から、13年に前身の不動産会社を起業。居住用や事業用不動産の賃貸仲介・管理、売買仲介を行っていた。15年には、建設業の免許を取得。自社で仕入れた物件にリノベーション工事を施して再販する事業も始め、19年からは体験型の民泊物件の開発事業も手がけていた。「当時、民泊はインバウンド(訪日外国人)需要もあり業績はかなり良かったのですが、バブルのような勢いが危険だと感じていました」

 ほかに主軸となる事業を探すため、視察に出かけた海外で、あるマッチングアプリと「iPhone(アイフォーン)」のカメラを利用したモノや地形の距離を読み取る採寸機能と出合いヒントを得た。「まずは、内装工事を依頼する人と受注する人をつなぐプラットフォームをつくることが先決。その後で時代に合った技術を活用して、より良いサービスにしていきたいと考えています」

 さらに、内装工事の受発注をオンライン化。工事内容を明確にした。「受発注者間の情報格差をなくし、リフォームをもっと身近なものにすることで、工事を請け負う職人へ仕事を安定的に供給できます」

 20年2月にサービスを開始し、22年3月にはダスキン(大阪府吹田市)からも出資を受けサービスを拡大。順調に利用者数を増やしてきた。24年は、現地調査が必要ない工事を直接職人に依頼できるサービスを全国に広げていく予定だ。「28年を目標に、全国で35万件の内装工事に利用してもらえるサービスにしていきたいです」

福本拓磨社長画像REMODELA(リモデラ)
大阪市
福本拓磨社長(37)

 

 

アウトソーシングで創出 攻めの管理事業を支援

 物件を管理する管理会社向けに、定期清掃や巡回業務などを請け負うBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスを提供している。サービス開始は2020年12月からで、現在全国2万カ所で利用され、作業を行うクルー(現場作業者)は、3万人を超える。

 新卒で大手不動産会社のグループ会社に入社。最初に担当したのは、電気工事などのBM(ビルメンテナンス)業務だった。実務経験を積み、BMの手配や工程管理、PM(プロパティマネジメント)業務など幅広く経験した。「賃料の値上げ交渉や、大規模改修工事など建物の資産価値向上に関わる業務にも携わりました」

 一通りの業務を経験したのち、投資会社へ転職した。「目の前にある建物の価値を上げるだけでなく、日本全国にある割安な物件を仕入れて、物件の再生や運営をしてみたい」との思いからだ。数十億から数百億円規模の資産運用を任されるまでになったが、その後、不動産クラウドファンディング事業を手がける会社に転職。クラウドファンディングのプラットフォームの開発や遊休不動産の活用による地方創生事業にも携わった。

 転職を重ねるたびに収入も増え、やりがいのある毎日だった。しかし、「給与が低いため、働き手が集まらず良い人材が確保できない」「担当する業務が過多な状況でも、アナログな手法で働いていて生産性がない」という管理業界の課題も肌で感じていた。

 何が自分の使命なのかと考えたときに、今までの仕事は「ファイナンスの力」で課題を解決してきたことに気付いた。自分のバックグラウンドを考えると「現場の改善からアプローチができないだろうか」と思ったという。「現場で作業をする人たちに良い働き方を提供し、不動産の資産価値を向上させ、不動産管理業界や地域社会をもっと良くしていきたい」-そのような思いを抱き起業した。

 順調に会社の規模を拡大する中で、23年には組織体制を変更し全国にエリアマネジャーを配置。テックを活用しながら作業後の巡回を徹底し、サービスの品質管理の底上げに注力した。

 クルーに依頼できる作業に、建物診断や外壁改修、原状回復などを追加。また、管理システムのみの提供も開始した。基幹システムやオーナー向けアプリを提供する会社と提携し、システム同士の連携にも力を入れる。

拭き掃除の様子画像

作業のポイントを動画でわかりやすくマニュアル化している

 ワンストップで現場作業を提供する体制を整える中、利用する会社が求めるものは「外注コストの削減」「生産性の向上」「売り上げアップ」「オーナー満足度」「法令順守」など多岐にわたる。「引き続き、管理会社が目標とする将来像を実現するための一助となりたいです」

富治林希宇社長画像Rsmile(アールスマイル)
東京都中央区
富治林希宇社長(33)

 

(2024年1月1日・8日30・31面に掲載)

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