能登半島地震 被災者の孤独死防ぐ【クローズアップ】
管理・仲介業|2024年02月22日
みなし仮設住宅(以下、みなし仮設)における次の課題に、入居者支援がある。地元から離れた場所で暮らす被災者が増えているためだ。入居後の支援の可能性を、過去の事例や民間の管理会社の取り組みから学ぶ。
管理会社が見守りの動き
住宅確保は3000戸弱
能登半島地震の被災地では、関係者が懸命にみなし仮設の提供を進める。そんな中、次に目線を向けるべきは入居後の生活支援だといえる。
石川県は、被災者向けの住宅確保策の一つとして、民間の賃貸住宅を借り上げて提供するみなし仮設を3000戸弱確保した(1月19日時点)。被災者の住まいの確保を優先し、まずは民間の賃貸住宅のオーナーと被災者間で一般の賃貸借契約を結んでいる。その後の動きとして、自治体がみなし仮設として借り上げを行う流れが想定されている。
みなし仮設を提供する側である石川県の担当者は「入居後の支援の必要性は感じているが、現時点では方針を示す段階には至っていない」と話し、息つく暇もない様子だ。
業務委託の選択肢
みなし仮設の入居者支援の必要性は、2016年4月に発生した熊本地震の際にあらわになったという。当時、行政からの業務委託としてみなし仮設の入居者支援に動いたのが、一般社団法人よか隊ネット熊本(熊本県宇土市)だ。
地震発生から約6カ月後の同年10月から、中心メンバー10人程度でみなし仮設の入居者を1軒ずつ訪問し、声かけを実施。また、地域とのつながりを作るための交流イベントの開催やコミュニティーカフェの運営の指揮を執った。同団体での訪問活動やイベントの実施は、18年3月まで行われた。
土黒功司代表理事は「被災者の避難先の選択肢には、避難所・仮設住宅・みなし仮設があったが、個人で契約を結ぶみなし仮設の入居者支援が最も手薄だった印象がある」と振り返る。
その理由の一つには、個人情報保護法がある。民間団体がみなし仮設入居者の支援を試みても、「どの物件の何号室に被災者が入居しているか」はわからない状態だ。一方、避難所や仮設住宅は被災者が集まっている拠点として情報が開示されているため、支援が集まりやすかったという。
「みなし仮設への訪問を実施して感じた印象は、知らない土地に引っ越したことで孤立感を抱く人が多かったこと。また、孤独死が発生するという最悪の事態もあった」(土黒代表理事)
熊本地震における訪問事業は、自治体からの業務委託という形で一定の活動資金が提供された。土黒代表理事は「入居者支援は、訪問活動だけでは支援にならない。コミュニティーという『場』を提供する必要性を強く実感した。ここに民間団体が関わっていくためにも、国からの活動資金の補助が求められる」と話す。
「できる支援がある」
24年1月1日に発生した能登半島地震の被災地では、独自に入居者支援を開始した管理会社が出てきた。
絹川商事(石川県野々市市)は、管理物件に入居した被災者に対し、2月1日から電話での声かけや訪問を開始。5人の担当者が、被災して転居してきた入居者の暮らしに関わる困りごとの聞き取りを進める。
同社は、2月6日時点の被災者の受け入れが申し込みベースで70件に上る。このうちの約8割を70歳以上の高齢者が占めるといい、入居後の支援の必要性を感じていたという。
70歳以上の入居者に対しては、契約時に民間の見守りサービスへの加入を必須とした。また、精神状態の状況を診断するプラン付きの駆け付けサービスを被災者向けに積極的に紹介し、入居者の心のケアを意識する。
同社は野々市市の社会福祉協議会などと連携し、「避難者応援家電バンク・フードパントリー」として、市民から寄付された家電製品や食品を、野々市市へ転居してきた被災者向けに無料配布する活動も行う。
絹川善隆社長は「国や県レベルの支援を待たなくとも、まずは自分たちの商圏規模でやれることはある。地域不動産会社として、入居者・被災者の支援に使命感を持って活動していく」と話す。
(齋藤)
(2024年2月19日20面に掲載)