地場大手不動産会社、駿河(北海道千歳市)の3代目社長に、2023年12月1日付で大井潤慈氏が就任した。堅実経営を重視する大井社長は、工事部門の強化に注目する。
法人需要急増で築古を活用
「石橋叩いて渡る」
3代目の大井社長は自らを「石橋を叩いて渡る性格」と話し、描くのは着実で堅実な成長路線だ。
商圏は千歳市をメインに、隣接する苫小牧市や恵庭市。1月末時点の管理戸数は6631戸。この5年間で155戸伸長した。入居率は93.4%。賃貸仲介店舗を4店舗展開する。
23年9月期の売り上げは7億1830万円。このうち、賃貸管理が4割、賃貸仲介が4割、売買仲介が2割と続く。ここ5年間の売り上げは6億〜7億円で推移する。
メイン商圏の千歳市は空港があり、航空法により周辺建築物の高さ制限が敷かれるエリアだ。そのため2〜3階建て4〜8戸の小・中規模の物件を中心に管理を受託し、成長してきた。
管理を受託するオーナーは、地元の地主系から道外の投資家系まで幅広い。賃貸住宅を建てた建築会社からの紹介によって投資家との接点を持ってきた。その後は、既存オーナーの買い増しや、オーナー間の口コミによる新規受託をメインに管理を獲得している。
工事を内製化
大井社長は、賃貸管理の現場実務のマネジメントを強みに持つ。
建築業界の出身で、建物管理の知識を豊富に持つことから、賃貸住宅業界における業界団体の副ブロック長や、二つの団体の合同委員長を兼務。北海道という土地柄発生する、冬の水道凍結を軽減する建物管理の方法など、全道的に専門知識の共有に努め、業界の課題解決に尽力する。
高校を卒業後に、札幌市の建設会社に入社。主にゼネコンが受託したビルの建築案件に関わり、ビルの土台、柱梁(ちゅうりょう)となる鉄骨の組み立てを担う工事を担当していた。
1994年に家業である駿河に入社した後は、現・管理部門に所属。前職の建築知識・経験を生かし、設備故障の一次対応を担っていた。
一般的には専門事業者に依頼する内容だというストーブの分解整備までを対応するなど、大井社長の持つ建築知識と技術が修繕工事の内製化の一翼を担った。
管理業務を10年以上経験した後、2011年に専務に就任。当時から、実質的な経営のかじ取りを行ってきた。
創業者の父、2代目社長を務めた母の大井祐子氏からバトンを引き継ぎ、23年12月に3代目トップに就任した。
既築再生に注力
トップ就任後、大井社長が狙うのが、工事事業の拡大だ。
同社のメイン商圏である千歳市は、大型工場の誘致に沸き、法人需要の急増が見込まれている。
同工場の誘致前後で、JR千歳線千歳駅周辺を中心に路線価は3〜4倍になったという。現在は工事関係者らの賃貸住宅ニーズがあり、今後は工場社員および関連企業の社員らの住まいの確保が求められてくる。
「千歳市は住宅を建築できる用途地域が多くない。そのため、既築物件の再生が急務だ」(大井社長)
オーナーへの工事提案を強化するために、同業務を担当する管理部門の人材の補充が必要だと大井社長は考えている。
人材難に備える
大井社長は人材獲得に向け、福利厚生制度の見直しに着手する。
同社は一時期、人材不足による賃貸仲介店舗の閉店も経験した。採用の強化と既存従業員の離職抑制に向け、定休日の設定や日曜日出勤に対する手当支給の検討を進めている段階だ。
24年9月期の売り上げは、7億3000万円と前年同期比約102%の着地を予定する。「昔から、一歩一歩進んでいくのがモットー」(大井社長)とし、10万人未満の千歳エリアで持続可能な経営方針を掲げ、9月に創業45年を迎える。
(齋藤)
(2024年3月25日20面に掲載)