家賃債務保証で売上238億円 上場で信用向上、事業用を強化

全保連

インタビュー|2024年04月04日

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全保連 沖縄県那覇市 迫 幸治社長(68)

 家賃債務保証(以下、家賃保証)最大手の全保連(沖縄県那覇市)が2023年10月に上場した。創業後、7年ほどで拠点と提携する不動産会社を一気に増やし、事業展開を加速。保有契約件数は192万件に上る。これまでの同社の軌跡や、今後の展開について同社の迫幸治社長に聞いた。

23年10月にIPO 市場シェア11%

 全保連は、賃貸住宅の家賃保証事業を主軸とする。同社の試算によると、賃貸住宅の家賃保証マーケットは約2000億円。そのうちの11%を同社で占めるとする。

 23年10月25日に東証スタンダード市場に上場した。迫社長は「上場は19年ごろから考えていた。それまでは、自由で小回りが利く経営がしたいという思いから上場を考えていなかったが、上場せずに事業を拡大するのに壁があると感じるようになった。大きいのが信用力だった」と話す。

 同社のビジネスは、不動産オーナーに対し、信用力のない個人の家賃債務を保証する。社会における、同社自身の信用力をさらに高めていかないと、成長は見込めないと考えた。

 「思ったよりも時間がかかり、社員全体にも普段と違う業務が発生して長い5年だった」と迫社長は振り返る。特にガバナンスについて部長クラスの認識を強化し、そこから現場に伝えていく組織の強化・体制づくりに力を注いできた。

 「上場により変わったこととして、従業員のモチベーションが高まっていることが挙げられる。従業員が周囲から、(勤め先が上場し)上場企業で働くことができるようになったといった声をかけられるようになったと聞く」(迫社長)。

 社会から「見られている」という感覚があり、それに見合う人材になろうとすることでモチベーションアップにつながり、会社の底上げになっていくことにも期待をかける。

セレモニーの様子

2023年10月に行われたセレモニーの様子

保有契約192万件 9割が居住用

 同社の23年3期の決算は、売上高が238億4600万円、経常利益は18億4400万円。保有契約件数は192万3000件(23年12月末時点)

 全体の家賃保証契約のうち、9割を居住用が占め、1割は事業用だ。協定会社の拠点数は5万拠点を超えた。

 全保連は01年に迫社長が設立した。小学生の頃から社長になりたいという思いがあったという。

 迫社長は「気が強い方ではなかったので、『強力に社員を率いていく、他人の指図を受けることがない、経済的に安定している』という社長のイメージに憧れた。作文に将来の夢で社長になりたいと書いて笑われたこともあった。だが、実際に会社を経営してみると、常に従業員のことを気遣い、顧客や取引先には頭を下げ、収入は投資などに振り向けねばならず、全く逆だったなと実感した」と振り返る。

 広島で貸金業を行っていたが、競合が多く厳しかった。県外の事業者が少ないという沖縄にチャンスがあると感じ、地縁がない中、那覇市で貸金業をスタートした。その後、過払い請求訴訟で貸金業者に不利な判例が出たこともあり別の道を模索するようになった。

 貸金業をしているときに、不動産オーナーや管理会社から、「滞納家賃の督促をしてもらえないか」と相談を持ち掛けられることがあった。弁護士法違反行為だと思ったので、断っていたが、信用保証協会と同じような考え方で業務が成り立つかもしれないと考えた。契約形態などを詳しく検討したところ、家賃債務保証ビジネスが実現可能とわかった。

 01年に法人化。同じビジネスモデルをやっている会社があると聞き、全国展開したいと考え、全保連という社名を付けた。

 同社が現在の規模まで成長できた要因として、早期の拠点展開が重要になったという。

 創業の翌年から全国展開に向け動き出した。設立2年後の03年には福岡支店を開設した。

 「福岡では、営業に苦労した経験から、後発は難しいと感じた。いち早く支店を展開し、地域の不動産会社と協定を結んでいくのが業界トップへの道だと考えた」(迫社長) 

 07~08年頃には現在とほぼ同じ拠点体制を敷いた。

 オーナーから感謝され、提携する不動産会社の数、契約件数もうなぎ上りの時期。従業員は楽しそうに仕事をしていた。会社の空気は活気に満ちていたが、実は迫社長が同社の歴史を振り返る中でもっとも苦しい時期だったという。

 地元の金融機関が応援してくれ、東京の銀行から借り入入れもできたが、手元に資金を置かず、投資していった。そのため、資金繰りとにらみ合う日々だった。支店展開がひと段落した時は「正念場を乗り切った」と安堵したという。

 同社の第一期の総決算とも言えたのは、設立10周年の記念パーティーだった。その直前には従業員数は500人に近づくほどの大所帯になり、当時の新規の契約件数は約17万件になっていた。

信託口座を活用 管理会社に安心感

 拡大時期を超え、商品性での差別化も進めた。「概算払方式」の採用は、協定会社との関係性継続にとってプラスに働いたとする。

 概算払方式とは、信託口座を活用し、引き落とした賃料を家賃債務保証会社ではなく、信託口座で分別管理。指定日に収納代行会社からオーナーや管理会社の口座に、おおよその見積額を支払うという方式だ。大手金融機関2行との提携により実現した仕組みだった。23年3月期では新規契約の6割で概算払方式を活用するまでに広がった。

 同方式を企画した背景にあったのが、2008年に起きた大手家賃保証会社リプラスの倒産だった。経営破綻時にリプラスの口座に入金されていた家賃は破産債権になり、オーナーへ家賃が入金されなかったなど、大規模なトラブルに発展した。信託口座で家賃の分別管理をし、なおかつ振替日の当日に入金できる。保証会社の事情に左右されずに、確実に入金がされることで、オーナーや管理会社にとって安心感を出すことで、協定会社獲得への追い風となったという。

 会社規模が急激に大きくなっていく中で、外部人材の採用を行った。組織づくりにおいて、迫社長自身も経験したことがない状況下で、他社の知見を持つ人材を登用した。何千人、何万人という組織としてできあがった大手企業の経験者を中心に迎え入れた。急成長企業と大手企業、水の違う会社で働く人材が混じり合ったことで、衝突も起こった。そうなった時、迫社長が大切にしたのは「他者の声を聴く姿勢」だったという。「私自身が、会社を強烈に引っ張ってきたがそれを抑えた。発展途上の当社が成長するためには、外の経験者の知見が必要だと考え、今までと違うことにも取り組む姿勢を見せてきた」と迫社長は話す。

 上場する前にも銀行OBや同業者からの採用なども行い、外からの人材を積極的に受け入れ、安定軌道に乗りつつあると感じている。

本社オフィスのエントランス

本社オフィスのエントランス

店舗、オフィス保証 収益性アップ狙う

 「事業用に軸足を置いて、それをいかに伸ばしていくかに今、力を入れている」と迫社長は話す。その理由の一つが、居住用の家賃保証事業強化の限界だ。新規の賃貸借約契約のうち90%ほどで家賃保証も契約している状況の中、それを100%にまでもっていくのは難しいと同社ではみている。

 同社の年間の新規契約のうち、事業用はまだ1割ほどにとどまる。「居住用のマーケットは2000億円くらいとみているが、事業用はその4倍を超える8500億円はあるのではないか」と伸びしろを感じている。

 事業用で狙うのは家賃額500万円以下の案件だ。事業用の保証料は家賃の100%としているが、平均単価は15万円ほどだ。これを上場による社会的信用を武器に、より単価の高い案件を獲得することで全体の事業の利益率を高めることができると期待する。

 この1年で事業用の家賃保証の営業を進める中で、居住用との違いも見えてきた。

 その一つが営業手法だという。居住用ではオーナーから管理を受託する不動産会社との提携により、案件を拡大してきたが、事業用の場合、物件を所有するオーナーに直接アプローチをすることが重要だと分かったという。ビルを所有している企業の不動産部への営業やリートやファンドのアセットマネジメント会社とコンタクトを取り、案件の開拓をする筋道が見えてきた。

 二つ目が審査だ。居住用の個人保証の場合、職業や収入などの属性、これまでの債務不履行の記録をもとに判断する。対し、事業用の場合、借りる側の事業者の役員構成、売り上げ・利益率、そのほかの情報機関のデータベースなどを確認する必要が出てくる。時間がかかるのに加え、審査部に法人審査の知見を有する人材を増やしていくことがポイントになる。

 「事業用に関しては、長期的には全体の売り上げの中で、事業用を居住用と同程度にまで引き上げていく」(迫社長)

審査にAI活用 業務時間を半減

 収益性を高めるために、回収率の向上を狙う。同社の代位弁財分の回収率は23年に平均で96・5%ほどだったが、あと1%は高めていきたいとする。そのために、入口である審査の基準を変更。日本信用情報機構(JICC:東京都台東区)を活用し、それを基にしてクレジットの延滞や事故歴などを考慮するようにした。参考データが圧倒的に増え、審査の精度が向上。それが、結果的に回収率アップにも寄与すると踏む。

 審査業務のDXも推進。累計の家賃保証契約387万7000件のうち、2014年頃から約200万件の支払い状況などのデータを基に学習したAIが審査を行う。これまでの保証契約内容を分析し、12段階に債権を分ける、独自の審査モデルを作りながら、JICCの情報も加え、AIを活用することで、1件当たりの審査が平均3時間30分ほどかかっていたのが、2時間に短縮され平均1時間30分あまりになった。書類の不備がなく、電子申し込みの場合には、5分で完了することもある。23年3月期での新規申込件数は45万件だ。単純計算で年間の業務時間が90万時間削減できたことになる。

 中長期では、協定する不動産会社の利便性を向上するためのシステム提供やDXによる社内の効率化向上に加え、新サービスも検討する。社内のオペレーションの生産性を高めることで、同業者から保証関連の業務を受託するという発展の仕方も考える。

 「業界全体で、安定した経営の実施とガバナンスやコンプライアンスへの意識を高める必要がある業界の発展のためには、健全な保証会社が発展していけるよう、力を合わせなければいけないと考えている。業界を横断する統一的な協会づくりを目指し、業界の声が上げられるようにもしていきたい」(迫社長)

本社オフィスビルの外観

本社オフィスビルの外観

会社概要

会社名:全保連
本社所在地:沖縄県那覇市字天久905番地
設立:2001年11月6日
資本金:9億8300万円(23年10月25日時点)
事業内容:家賃債務保証および、賃料管理リスクヘッジ業務

(2024年4月1日7面に掲載)

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