不動産エージェント制で不動産仲介事業を手がけるらくだ不動産(東京都渋谷区)は、仲介取扱高が年間約2倍の成長を続ける。「人」にフォーカスした営業手法により、売却時の反響後媒介率は平均60%と高水準を実現する。山本直彌副社長に、同社の戦略を聞いた。
ブランディングし顧客を獲得
5年で350件超
「不動産エージェントに重要なのは倫理性と専門性、そして個性。不動産という高額な買い物を依頼者の身になって提案する『人』の存在こそが大切」
こう話すのは、らくだ不動産の山本副社長だ。
同社は、ホームインスペクションを手がける、さくら事務所(同)グループの不動産仲介会社として2019年に設立した。売上高は非公開とするものの、不動産仲介の取扱高は年平均92.5%増と大幅な増額を続ける。累計成約件数は350件を突破した。取り扱う不動産は、実需用が9割、投資用が1割となっている。
一般的に不動産エージェントとは、不動産会社に雇用されておらず、フルコミッションで不動産を仲介する個人のことだ。だが同社ではエージェントの真価は雇用形態ではないと考える。「中立的な立場で依頼者に寄り添っているかどうか」と山本副社長は話す。実際に同社には16人の不動産エージェントがいるが、そのうち7人は、社員として雇用している。
集客の80%が動画
同社が重視しているのはエージェントのブランディングだ。問い合わせ後の媒介獲得率は、売却時で約60%。業界の平均値20%程度と比較し、非常に高いという。「『この人にお願いしたい』と思って問い合わせをいただけることで、結果的に成約率も向上している」(山本副社長)
広告宣伝戦略もブランディングを重視する。例えば同社のホームページには、エージェントごとに紹介ページがあり、経歴や専門・得意分野だけでなく、提案スタイルのチャート(右図参照)やプロフィール動画が閲覧できる。
主な集客経路は「ユーチューブ」。成約件数のうち、80%はユーチューブの視聴がきっかけだ。
現在のチャンネル登録者数は約7500人で、月の総視聴時間は6140分程度。各動画の長さは10分ほどで、660本超の動画をアップする。
これらの結果、創業以来、不動産ポータルサイトを一切利用せずに集客ができている。ユーチューブは、「物件や会社からではなく、担当者で選ぶ」という仲介事業の在り方のブランディングにも効果があるとみる。
採用と教育が肝
同社が目指す不動産エージェントの姿は、「家族や友人のように寄り添える生涯のパートナー」。不動産会社の都合で過度な販売行為やローン提案を行わないとする。
そのためには入社後も高い倫理観を持ち続けられる人材であることが重要となる。「採用方針は曲げられないところ」(山本副社長)といい、その手法も独特だ。
まず、面談時には不動産の話はしない。定量的な部分は履歴書などで確認できるからだ。また、「転職理由」や「当社を選んだ理由」などの、いわゆる「よくある質問」もしない。ざっくばらんに応募者が大事にしていることや趣味などの話をすることで、応募者の人柄をみるのだという。
同社には人事担当者もいない。全社員で面接を担当する。その時々のスケジュールを確認したうえで2人がペアになり、社員による面接を1回行い最終面談となる。社員が「一緒に働きたい」と感じられない場合は見送りとなり、1回目の面接の突破率は10%程度にとどまる。
さらに、入社後の研修にも力を入れる。倫理性、専門性に関する座学研修のほか、営業の面談に同席。営業後に1〜2時間のフィードバックを行う。契約を取るためノウハウではなく、主にその提案内容や、話し方などが家族や友人へのアドバイスと同様に親身に寄り添った内容であったかを話し合っているという。
「売り上げではなく、お客さまから信頼されおまかせいただいたことを重視している。そのため、1件の金額ではなく媒介件数を伸ばし、らくだ不動産の考える不動産エージェントの在り方を世の中に伝えていきたい」(山本副社長)
(柴田)
(2024年5月20日20面に掲載)