空き家の利活用を推進する空き家活用(東京都港区)は、55の自治体と連携し、空き家の情報発信に注力する。空き家の所有者は、自治体に活用方法を相談する傾向があるためだ。今後も、自治体との連携強化に力を入れる和田貴充社長に、事業展開を聞いた。
55の自治体と連携し情報収集
〝安心感〞が狙い
和田社長が目指すのは、「空き家所有者」「利活用事業者」「地域」「金融」といった空き家の利活用に必要な情報が集まった〝巨大な〞プラットフォームの構築だ。
ついに900万戸を突破した空き家問題の解決には、物件情報を流通させ、しかるべき利活用事業者とつなげることが重要になると、和田社長は考える。
2023年から、空き家所有者と利活用を希望する事業者をマッチングするプラットフォーム「アキカツナビ」を運営し、同プラットフォームの拡充に取り組む。
今、注力するのが空き家の所有者からの相談を獲得することだ。「買いたい人が集まっても、売るための空き家がないと成立しない」(和田社長)とし、まずは空き家情報の仕入れを強化する。
そのため、55の自治体と連携し、空き家相談の窓口業務を受託。これが、アキカツナビに流通させる空き家情報の収集経路の一つとなる。狙いは、空き家のオーナーに対する安心感の提供だ。
和田社長は「空き家所有者向けに実施した独自のアンケート調査では、54%の人が自治体に相談したいと回答した。民間企業と自治体では、オーナーに与える安心感に差があることがわかっている」と話す。
具体的には、連携する55の自治体のうち、空き家所有者からの相談カウンターを設置しているのが九つ。そのほかは、情報発信の業務支援などを担う。
カウンターといっても、対応窓口はウェブ上に設置する。空き家所有者は、各自治体のホームページからアクセスすることができ、相談への対応は空き家活用のスタッフが行う。そのほかに、特定の自治体に限定されない全国版のカウンターを運営し、24年5月末時点で計10のカウンターを設置する。「24年度中に、連携する自治体は70ほどに増える予定で、相談カウンターも既存の数から倍近くになる見込みだ」(和田社長)
不動産、150社登録
空き家所有者と空き家の利活用者の間に入り、不動産仲介、リフォーム工事などを請け負うことを狙い、アキカツナビに登録する事業者は不動産会社だけでも約150社に上る。
登録事業者側は、自社の商圏内に設置されたカウンターか、全国版カウンターに登録。空き家所有者からの相談に対して、簡易査定を実施する。空き家所有者が、複数の事業者の見積もりを比較し、マッチングする流れだ。
実績の9割が実需
アキカツナビを通して空き家を求める目的の多くは、実需用としての購入だ。
和田社長は「23年の年間マッチング実績は、100戸以上。売買も利活用も含むが、9割がセカンドハウスや企業の保養所として購入する需要だった」と話す。
一方、所有者側の相談件数を見ると、利活用目的の相談を入り口とするケースが8割。結果的に売却につながることもある。相談実績は、約2年間の累計で600〜700件程度。このうち、自治体経由は300件ほどだ。属性は個人オーナーで、戸建て住宅が中心となる。
「都市部と地方では空き家活用モデルが異なる。都市部の課題は物件情報の流通で、地方の課題は利活用の担い手不足。当社のプラットフォームでは、この二つの課題を両輪で解決していく」(和田社長)
厚い購入希望者層
空き家情報の収集に注力する一方で、空き家の利活用も促す。特に、空き家の購入希望者については、ローンの商品情報を提供し、SNSで情報発信を行う。
同社は、空き家の購入用に2種類のローンの商品情報を提供する。特徴は、改修のみに適用されるのではなく、購入に利用できる点だ。
また、空き家情報を発信する「ユーチューブ」チャンネルを運用し、24年5月末時点でチャンネル登録者数は5万2000人に迫る。それに加えて、「LINE」の公式アカウントの登録者は3500人程度いる。
「SNSのフォロワーが空き家の購入者になることもあり、これらが購入者層を厚くしている」(和田社長)
今後、アキカツナビの情報が拡充された先に和田社長が描くのが、情報のリッチコンテンツ化だ。「空き家が立つ地域の情報」「所有者と空き家のストーリー」などを掲載することで、利活用を希望する人がよりイメージを持つことができる情報を提供していく狙いだ。
(齋藤)
(2024年6月10日20面に掲載)