インバウンド(訪日外国人)向けの不動産需要はどこまで伸びるのだろうか。特に中華圏では移住・投資目的の購入が増えているという声も聞こえる。一方で、円安が一時期に比べて落ち着いてきたことにより、ニーズが緩やかになっているという声もある。実際にインバウンド向けの事業を展開している不動産会社に現状を取材した。
資金移動や移住に意欲
取得目的に変化 実需用が増加
「日本の不動産の購入需要は全く落ちていない。むしろ、これからより伸びるとみている」
こう話すのは、中国人向けに日本の不動産の買い取り再販・売買仲介事業を手がけるYAKホールディングス(東京都台東区)の水神怜良社長だ。同社は、顧客のほとんどが海外在住・在日の中国人。月40件超の成約実績がある。
需要は変わらず伸びていると語る一方、購入目的の変化は如実に表れているという。「2021年~22年ごろは、日本の不動産を購入する中国人のほとんどが純粋な投資目的だった。だが、現在は富裕層が移住を目的に購入しているケースが多くなっている」(水神社長)
24年8月の単月でみると、同社の売上高は1億318万円。前年同月比で1.8倍に増加。販売・仲介を含めた売買件数は42件と、前年同月比で2倍近くまで伸長している。そのうち、海外在住の中国人の居住目的購入は8件。23年同月は居住目的の購入は0件で、居住目的の需要が大きく伸びていることがうかがえる。
背景には中国の国内情勢が不安定になっていることもあるようだ。「日本は中国から地理的に近く、同じアジア人であること、欧米と比較すると食事や文化も近しい。安全で清潔で生活がしやすく、価格も安い。これらの理由から日本は移住先として非常に人気が高まっている」(水上社長)
コロナ禍後、来日 現地確認希望多く
GA technologies
東京都港区
Global Business中国事業
渡邊信洋事業本部長(42)
同じく中華圏向けにインバウンド事業を展開するのがGA technologies(ジーエーテクノロジーズ 以下、GA:東京都港区)だ。創業時からグローバル戦略を推進している。
同社のGlobal Business中国事業の渡邊信洋事業本部長は「中国投資家の購買意欲は落ちていない」と話す。同社は、子会社の神居秒算(同)を通じ、中華圏の投資家向けに日本の不動産を紹介するポータルサイト「神居秒算(しんきょびょうさん)」を運営する。新型コロナウイルス下では事業が低迷していたものの22年から立て直しを図り、23年10月には問い合わせ数が大幅に回復。それ以降、横ばいで推移しているという。「中国人投資家は、国内の不動産投資で失敗した人も多く、現物をしっかりと確認したいという要望が多い傾向にある。そのためコロナによる渡航制限が解除されて以降、問い合わせも増加した」(渡邊事業本部長)
神居秒算のサイト
同サイトに掲載している物件数は6300件で、そのうちGAが掲載する物件は数百件程度だ。掲載物件の約6割が東京都内にあり、投資用区分マンションが大部分を占める。
人気のあるエリアは土地の知名度と連動しており、渋谷や六本木、浅草、新宿などを希望する顧客が多い。価格帯は2000万~3000万円、表面利回りは4%程度の物件で人気が出やすいという。渡邊事業本部長は「『資産を国内から海外に移動したい』という声もよく聞こえる」と話す。
一方で、23年と比較すると円安が落ち着いていることもあり割安感が減少し、需要に一服感が出てきたことも確かだという。「災害発生時や円高のタイミングは集客が落ち着く傾向にある。だが日本の建物の良さ、建築後の管理の良さはアジア諸国とは大きく異なるため、需要は底堅い」(渡邊事業本部長)
10月23日には台湾にGAが展開する不動産事業「RENOSY(リノシー)」の拠点を開設するなど、ますますインバウンド事業を推進するとしている。
大阪近郊で割安感 東京の高騰影響か
外国人向けの不動産ポータルサイト「wagaya Japan(ワガヤジャパン)」を運営する日本エイジェント(愛媛県松山市)では、大阪の不動産の問い合わせが増えているという。
同社の草薙匡寛執行役員は「特に東京の不動産価格が上がっており、大阪の割安感が目立つのではないか」と話す。
23年1~9月の反響は、東京近郊と大阪近郊で9対1程度の割合だったが、24年同期間では7対3程度となっており、大阪近郊の需要が高まっているとみる。草薙執行役員は「まだ掲載数が多くはないため、市場動向とは違いがあると思うが、成約数自体は23年比で約2倍に伸びている」と話す。
wagaya Japanのトップページ
wagaya Japanの掲載物件のうち、売買物件は1400~1500件程度。同サイトは英語が中心のため、必然的に英語圏の顧客が多い。欧米だけでなく、フィリピンやインドにも顧客がおり、国籍はさまざまだ。
「海外の投資家に対し不動産ツアーなどを考えたとき、物理的な距離は近いほうがよい。今後はアジア圏の投資家に対する訴求も強化していきたい」(草薙執行役員)
インバウンドの不動産の購入ニーズは少しずつ変化していることがわかった。今後は不動産の販売だけではなく、海外の富裕層が日本で生活する際のサービスなども需要が高まってくるのかもしれない。(柴田)
(2024年11月11日1面に掲載)





