2024年の賃貸業界M&A、「集中と選択」で事業譲渡へ
Apaman Property(アパマン プロパティ),日本産業推進機構グループ,日動,シティビルサービス札幌,別大興産,大幸防災商事,ワールドウィン・プロパティ,TAKUTO(タクト)
管理・仲介業|2024年12月19日
地方再編の動き、周辺サービス会社取得も
2024年の賃貸業界におけるM&A(合併・買収)の事例を振り返る。譲渡側の「選択と集中」が一つのキーワードになったといえる。APAMAN(アパマン:東京都千代田区)が上場廃止し、グループの管理会社を事業譲渡。デベロッパーが管理会社を売却する動きもあった。
管理会社を売却
24年に賃貸住宅業界でインパクトが大きかったのは、APAMANのMBO(経営陣が参加する買収)による上場廃止だろう。ITサービス重視の経営にかじを切った形だ。
8月には、グループで管理・賃貸仲介を行うApaman Property(アパマン プロパティ 以下、AP)の全株式を日本産業推進機構グループ(東京都港区)に譲渡する契約を締結した。なお、九州地域の賃貸管理・サブリース、その他サービスはAPAMANグループが継承する。APAMANは、APの管理物件約9万戸のうち、約7万戸の事業を手放した。
今後は、フランチャイズチェーン(FC)加盟店向けのDX(デジタルトランスフォーメーション)サービス開発・提供に投資。加盟店のDXを支援する。社宅管理事業の強化や加盟店の管理戸数の増強などに注力していくとする。
札幌で5000戸譲受
地方では再編が進んだ。総合不動産会社の日動(北海道札幌市)は、5月にシティビルサービス札幌(同)を完全子会社化した。シティビルサービス札幌は賃貸管理を中心に、不動産賃貸業や賃貸仲介事業も展開。札幌市をメインに北海道内外で約5000戸を管理する
事業を譲り受けた日動の管理戸数は4537戸(3月末時点)。シティビルサービス札幌の管理戸数を合わせると、日動グループとしての受託数が約1万戸と従来の約2倍になった。地元でも存在感が増していくだろう。
周辺の事業会社を取得する動きもあった。大分県地場大手不動産会社の別大興産(大分県別府市)は、7月に大幸防災商事の全株式を取得した。大幸防災商事は、大分県内で消防用設備点検、消防設備工事、防火対象物点検などの事業を行う。別大興産は今後、管理物件へのサービス提供などで連携していく狙いだ。
デベから事業取得
デベロッパーが管理会社を売却する動きもあった。収益不動産の開発を行うワールドウィン(東京都新宿区)は、グループで管理を行うワールドウィン・プロパティ(以下、WP)の全株式を8月、TAKUTO(タクト:大阪市)に売却した。WPは、ワールドウィンが開発・販売した物件の管理を受託してきた。商圏は東京都内が中心で、売り上げ約2億円、管理戸数1657戸の会社だ。
事例を詳しく紹介していこう。M&Aの経緯は、入居者アプリ「totono(トトノ)」の開発・運営を行うスマサポで経営者のコンサルティングも行う藤井裕介副社長が、ワールドウィンの平澤聡社長にヒアリングしたことがきっかけだった。話の中で管理事業を手放したいのではないかとの考えをくみ取った藤井副社長。譲渡先として、シナジーが最大化できるであろうTAKUTOの太田卓利社長と平澤社長を引き合わせた。
23年5月ごろからM&Aについて、双方で話し合いを進めてきた。管理事業を分離しWPとして分社化。その全株式をTAKUTOが取得する形でM&Aが成立した。
TAKUTOの狙いは、東京の拠点における、顧客属性を踏まえた管理事業の営業強化だ。同社の東京事務所では、機関投資家やファンドなどから依頼を受けたプロパティーマネジメント(PM)をメインとする一方、2000戸ほどの個人オーナーの案件も受託していた。WPのグループ化により、TAKUTOの個人オーナーの管理をWPに移管。TAKUTOはPM、WPは個人オーナーの一般管理・サブリースを担当。オーナー属性により管理事業を切り分けることで、営業や顧客対応の生産性が高まるとみる。
譲渡先と関係継続
事業を譲ったワールドウィンと譲受側のTAKUTOは、包括業務提携の形で、M&A後も双方での送客や連携を行っていく予定だ。TAKUTOはワールドウィンが開発し投資家に販売した物件の受託案件を、WPで継続的に獲得。他方、開発や売買の際には、TAKUTOやWPからワールドウィンに顧客紹介を行う形で協力関係を維持していくという。
TAKUTOの太田社長は「M&Aは契約締結で終わりではない。その後の事業の収益化まで考えることが重要。それはM&Aの相手にとっても同様だ。双方共にウィンウィンになるM&Aを目指している」と語る。
9月にはTAKUTO、TAKUTO INVESTMENT(タクトインベストメント)の東京事務所とWPの本社を1カ所に集約した新事務所に移転。グループ間でのコミュニケーションも強化する。WPの契約書類作成といったバックオフィス業務は、TAKUTO本社の専門部署に任せる。それにより、WPのリソースを管理営業に活用し、グループ全体としての管理戸数の拡大も狙う。
(2024年12月23日20面に掲載)