2025年12月、「宇宙×不動産カンファレンス2025 sponsored by スカパーJSAT」が開催された。主催は宇宙航空研究開発機構(JAXA)発スタートアップで、人工衛星データを活用した土地情報関連サービスを展開するWHERE(ウェア:東京都文京区)だ。
同カンファレンスでは宇宙関連技術がすでに不動産業務の周辺に入り込み始めており、意思決定や業務プロセスを静かに変えつつあるという現実が示された。ここでは当日行われた7つのセッションから一部を紹介する。
不動産の大半は、まだ「評価されていない」
オープニングで登壇したWHEREの阿久津岳生CEOは、不動産市場に対して根源的な問いを投げかけた。現在、実際に取引対象となっている不動産は全体の1%にも満たず、残る99%は「価値が測られていない状態」にあるという指摘だ。
この問題意識は、不動産業界の実務に置き換えると理解しやすい。遊休地、未利用地、用途転換の余地がある土地、将来的なリスクやポテンシャルを十分に把握できていない物件──これらは現場感覚として多くの事業者が認識している一方で「見えないがゆえに扱えない」領域でもある。
阿久津CEOは「衛星データとAIを組み合わせることで、土地利用の変化、周辺環境、災害リスクなどを俯瞰(ふかん)的かつ定量的に捉えられるようになりつつある」と語った。ここで語られた宇宙技術は、月や火星の話ではなく、地球上の不動産をこれまでとは異なる解像度で把握するための視点として提示されていた。
宇宙港は「ロケットのための施設」ではない
第1セッションでは「宇宙へ向かう港を通したまちづくり~宇宙産業が動かす地域経済~」をテーマに、スペースポート(宇宙港)が地域にもたらす影響が議論された。
モデレーターは、宇宙ビジネスメディア「宙畑(そらばたけ)」編集長の中村友弥氏。パネリストとして一般社団法人Space Port Japan共同創業者理事の片山俊大氏、三菱UFJ銀行サステナブルビジネス部宇宙イノベーション室の稲葉祐太氏、一般社団法人九州みらい共創の理事で宇宙ライターの井上榛香氏らが登壇し、スペースポートを巡る国内外の動向が共有された。
左から宙畑の中村氏、宇宙ライターの井上氏、Space Port Japanの片山氏、三菱UFJ銀行の稲葉氏
中村氏は冒頭、日本と米国の宇宙産業の差に触れた。日本のロケット打ち上げ回数が限られる一方で、米国ではSpaceX(スペースエックス)が2日に1回というペースで打ち上げを行っている現実がある。その中で、スペースポートは単なる打ち上げ施設ではなく、将来的には高速輸送を担ったり、新たな人流・物流を生んだりする拠点になる可能性があると指摘した。
具体的な事例として紹介されたのが、和歌山県串本町にある宇宙スタートアップのスペースワンの宇宙港だ。稲葉氏は、ロケット1回の打ち上げで約12億円の経済波及効果があるという試算を提示。10年間では、日本全体で約4000億円規模の効果が見込まれるという。
注目すべきは、その効果が宇宙産業にとどまらない点である。観光、宿泊、飲食、土産物といった非宇宙産業にも広く波及しており、人口約1万3000人の串本町に、打ち上げ時には約5000人が訪れるという。
井上氏は、種子島宇宙センターでの長年の取材経験を基に、ロケット打ち上げが地域文化として定着している様子を紹介した。宇宙イベントが「非日常」から「日常」に変わることで、地域との共存が可能になるという視点は、まちづくりを考えるうえで示唆に富む。
議論は次第に、不動産事業の役割へと移っていく。片山氏は、物流の発展史を「陸・海・空・宇宙」と整理し、物流や人流が生まれる場所の周辺には必ず不動産開発が行われてきたと指摘。阪急電鉄や東急電鉄といった日本の電鉄会社が沿線開発を通じてまちをつくってきた歴史を引き合いに「宇宙港周辺でも同様のモデルが成立し得る」と語った。
一方、井上氏は、スペースポート周辺の地域資源が十分に活用されていない現状を指摘。「宇宙産業の専門家だけでなく、観光や不動産、地域開発の担い手が参入する余地は大きい」と述べた。
稲葉氏からは、道路整備やホテル新設といったインフラ投資がすでに動き始めていることも紹介され、不動産・建設業界にとって具体的なビジネス機会が生まれつつあることが示された。
衛星データは、すでに現場で使われている
第3セッションでは「宇宙データが動かすリアルな不動産市場」をテーマに、具体的な導入事例が紹介された。モデレーターは、sorano me(ソラノメ)社長の城戸彩乃氏。
パネリストには、三井不動産リアルティの大桑悠太郎氏、阪急阪神不動産の阪口祐輔氏、福岡地所の道脇隆介氏、そしてWHEREの西村仁氏が名を連ねた。
西村氏は、WHEREが提供するサービスとして、土地利用の時系列変化の可視化、AIによる遊休地の抽出、災害時の被災把握などを紹介。22年のサービス開始から約1年で50社に導入されているという。
左からsorano meの城戸氏、三井不動産リアリティの大桑氏、阪急阪神不動産の坂口氏、福岡地所の道脇氏、WHEREの西村氏
大桑氏は「『三井のリパーク』事業において、従来は人手に頼っていた空き地探索が、衛星データによって大幅に効率化された」と説明。阪口氏は、所有者情報を活用したダイレクトアプローチにより、新たな商談が生まれていると語った。道脇氏からは、用地取得業務における調査時間の短縮効果が紹介され、実務面でのインパクトが具体的に示された。
共通していたのは、人手に依存していた探索・調査業務が、データ起点に変わりつつあるという点だ。空き地探索、所有者へのアプローチ、用地取得の初期判断など、これまで「経験と勘」に頼っていた部分が、衛星データによって補強されている。
特に注目されたのは、時間軸を含めた土地利用の把握である。建物の解体状況、更地期間、周辺環境の変化といった情報を俯瞰的に捉えることで、従来より早い段階での提案や検討が可能になる。これは、営業効率の向上だけでなく、意思決定の質そのものを変える可能性を示している。
デジタルツインがもたらす「予測する不動産」
第4セッションでは、一般社団法人SPACETIDE(スペースタイド)の石田真康氏をモデレーターに、スカパーJSAT(ジェイサット)の穴原琢摩氏、JAXA宇宙科学研究所の田中智氏、Marble Visions(マーブルビジョンズ)の本間さや香氏、Eukarya(ユーカリ)の田村賢哉氏、スペースデータの小野寺悠輔氏らが登壇し、デジタルツインと3次元(3D)都市モデルの未来について議論した。
左からSPACETIDEの石田氏、スペースデータの小野寺氏、Eukaryaの田村氏、Marble Visionsの本間氏、JAXA宇宙科学研究所の田中氏、スカパーJSATの穴原氏
無料衛星データの活用によるコスト低減、月探査技術の防災転用、国産衛星による高頻度観測など、技術的進展は著しい。特に印象的だったのは、都市を「再現」するだけでなく、災害や再開発の影響を事前に「予測」できる段階に入りつつあるという認識だ。
宇宙は、すでに不動産の隣にある
同カンファレンスを通じて明らかになったのは、宇宙関連技術が一部の先進企業だけのものではなく、不動産業界全体に波及し得る基盤技術になりつつあるという事実である。遊休地の発見、リスク評価、まちづくり、地域経済との接続──これらのテーマに対して、宇宙技術はすでに具体的な回答を提示し始めている。
その意義は「宇宙と不動産が結び付いた」こと自体よりも、不動産事業における意思決定がデータに支えられる時代に入ったということを可視化した点にあったといえるだろう。




