宅地建物取引業法における「専任の宅地建物取引士(以下、宅建士)」の要件緩和が7月に完全適用されたことで、宅建士の働き方の幅が広がり始めている。現状の法制下では、不動産仲介における重要事項説明書の紙での交付といった課題はあるものの、2022年5月までに予定されている宅建業法改正による電子交付が可能になれば、不動産業界の働き方はさらに広がり、多様な人材の活用も見込めるようになる。
宅建業法の要件緩和で在宅勤務合法化
従来、宅地建物取引業法における「専任の宅建士」についての解釈は「宅地建物取引業を営む事務所に常勤すること」とされていたのが、7月の法改正で「ITの活用等により適切な業務ができる体制を確保した上で、宅地建物取引業者の事務所以外において通常の勤務時間を勤務する場合も含むものとする」へと変更された。(図参照)
「適切な業務体制」に関して一番重要なのは、勤怠管理の情報やテレワークで作業を行ったり、連絡をとったりしたことが分かるメール・書類などを保存することだ。テレワークの勤務実態の証拠となる客観的な資料を残しておく必要がある。実績が確認できない場合は、行政による監督の対象になる可能性もあるので注意が必要だ。
Con Spirito、2年かけて環境整備
管理戸数約3500戸のCon Spirito(コンスピリート:東京都目黒区)は、宅建士の要件緩和の動きを捉え、いち早くテレワーク化を実現した不動産会社の1つだ。
20年1月ごろに環境整備が完了したこともあり、20年5月1日以降は専任の宅地建物取引士も含めてほぼ完全にテレワーク勤務が可能な体制を実現した。実際、同社には7人の専任の宅建士がいるが、全員が週4、5日程度のテレワークを行っている。また、20年8月以降に入社した社員は、テレワークを前提にした採用を行ってきた。
長谷川悠介取締役は「柔軟な勤務体制が可能になったことは大きなメリット。子育て中の女性をはじめ、さまざまな人材を活用できるようになった」と話す。
ジェイエーアメニティーハウス、全員の在宅勤務が可能
管理戸数約2万1000戸のジェイエーアメニティーハウス(神奈川県厚木市)は、7月までにグループの全社員がテレワークを実施できる環境を整備してきた。
現在営業所長6人と営業担当者34人を含む計64人が所属する、賃貸管理業務を担当する部門では、20年1月から37人に社外への持ち出しが可能なノートパソコンを支給。同年6月からテレワークを実施している。
同部門には30人の「専任の宅建士」が在籍しており、新型コロナウイルス感染症拡大の第1波のときのテレワークの実施率は30%だった。今ではコロナ下での生活に慣れてきたこともあって、テレワークの実施率は低下傾向にあるという。
担当者は「ワークライフバランスの向上などのメリットがある一方で、一部で社内コミュニケーションが減る、自己管理ができない人は生産性が減るといったデメリットもある」と話す。
ミライアス、在宅と出社を併用
完全テレワーク化が難しいため、出社と並行しながら試行錯誤を行う不動産会社も多い。売買仲介を行うミライアス(東京都渋谷区)は、コロナ禍を受けて、希望する社員に対して週に2、3日ほどテレワークを許可している。ただ、実際に多いのは、半日をテレワーク、残りは社内業務や顧客訪問を行う勤務体系だ。
同社では、セカンドモニターを支給するなどして、業務の一部をテレワークで対応しやすいようにしている。だが、物件の売買を検討している顧客への営業などはコロナ下でも対面で行うことが多いという。
山本健司社長は、「IT重説にしても、資料が揃っている社内で実施したほうが安心。営業担当の全業務をテレワークで行うのは難しい」と語る。
22年5月にまでには契約書や重説等の電子交付の自由化も控えており、今後は不動産に関わる業務のテレワーク化における法的な障壁はますます少なくなっていくことが予想される。
(10月25日1面に掲載)