不動産会社の働き方改革の事例を紹介する特集の第3弾。今回は、健康管理に意欲的に取り組む会社の認定制度「健康経営優良法人2021」の認定を受ける不動産会社にフォーカスする。認定企業のうち、不動産業界が占める割合はまだ少ない中、すでに認定を受けている6社の働き方に関する意識と取り組みを紹介する。
事前申請で残業20%削減
三好不動産、コロナ機に固定席排除 仕事場の選択可能に
管理戸数約3万9000戸の三好不動産(福岡市)では、2017年から「やりがいを感じる職場づくり」をテーマに掲げ段階的に働き方に関する規定や働きやすい環境の整備を開始。21年5月からフリーアドレス制を導入し、営業先から近いオフィスに立ち寄り業務を行うなど、より柔軟な働き方の選択肢を取り入れ生産性の向上を図っている。
同社の商圏は福岡市全域とその近郊都市。東京都や神奈川県横浜市にも支店を持つ。賃貸仲介店舗は福岡都市圏に15店舗を構え、アルバイトを含む全従業員は480人となる。17年9月に中期経営計画の一つとして「やりがいのある職場づくり」を目標に掲げ、分科会を設立。「やりがい」という従業員一人一人のモチベーションの改革のため、段階的にターゲットを定め取り組みを開始している。
従業員の健康管理面では、毎年の健康診断のオプション検査を全額会社負担で提供。腫瘍マーカーや乳腺超音波、マンモグラフィーなど各種オプション検査の受診を促し受診率は全体の43.2%を占める。
新型コロナウイルス下においては、密を避けるための出社制限に合わせ、必要に応じてテレワークを導入した。このことがきっかけとなり、今後の柔軟な働き方を現実的に実行できる予測が立てられたという。
21年5月から一部オフィスに導入しているフリーアドレス制では、各オフィスに止まり木という意味の「パーチ」というフリースペースを完備。5月に営業部隊が拠点を置くオフィスに、9月に賃貸仲介店舗1店舗に「パーチ」を併設した。
総務部の山口誠統括マネージャーは「営業部は、顧客訪問の帰りに近いパーチに立ち寄り業務を続行できるため、移動時間を削減できる。また、他部署の従業員が同じスペースで作業することで、部署をまたいだ情報交換もでき縦割りの職場環境の改善にもつながる」と話す。
さらに、11月からは働く時間にも自由度を持たせる予定だ。就業時間の8時間を、午前7時~午後9時の間で自由に選択できるようになるという。
今後も改革を進めるうえで弊害が起こると予想されるものの、以前の働き方に戻す考えはなく、よりよい働き方にマイナーチェンジしていく方針を掲げる。併せて、従業員一人一人が、生産性や効率化について意識し、働く時間と場所を選択していく自覚も促していきたいとする。
セクト、繁忙期は事務専任雇用 閉店後の業務負担削減
16年から働き方改革を推進し、人員配置の見直しで退勤時間の前倒しに成功。残業時間の削減に努める会社がある。
管理戸数6521戸のセクト(北海道北見市)では、全従業員49人に対しフレックスタイム制を適用したうえで、21年9月より午後8時以降の残業を申請許可制とした。営業時間は午前10時~午後6時で、社内清掃が開始される午前9時40分からの就業をコアタイムに設定している。
以前は、努力目標として遅い時間まで残業をせず退勤するよう呼び掛けを行ってきたが、申制を仕組みとして導入を開始した。20年の繁忙期も含めた月平均残業時間は26時間。呼び掛けなどを行ってきた期間も効果が表れている。一部従業員の20年9月~21年9月の残業時間はそれ以前と比較し平均15~20%減少。申請制を取り入れることで、さらなる残業時間の削減を図る。
同社の商圏は、主に北見市と網走郡美幌町。本社機能を持つ店舗を含め仲介店舗は3店舗を構える。21年に本社が新築移転したことを機に、働き方改革の取り組みを開始した。本社には社員食堂とフィットネスルームを完備し、従業員満足度の向上につながる設備面の特徴を持つ。
段階的にさまざまな取り組みを行う中で、21年7月には仲介店舗3店舗と売買仲介部門の業務管理システムを一新。いい生活(東京都港区)の賃貸仲介・売買管理クラウドシステム「ES(イーエス)いい物件One(ワン)」を導入し、データ入力業務の時間を削減。全店舗で同一のシステムを入れることで、これまで各店舗で取り扱い入力していたデータが一本化され、店舗間での情報共有が可能になりデータの二重登録の手間を回避した。
さらに、人員配置を見直したうえで、繁忙期には事務作業専門の担当者を期間的に雇用し、営業担当が接客業務に専念できる環境を構築。これまで閉店後に事務作業に取り掛かっていた働き方を改善し、残業時間の削減に寄与している。
今後は、18年から開始した新卒採用に力を入れていく方針だ。賃貸営業部の長尾広和部長は「どうしても都心である札幌市へ人が流出してしまう。選ばれる企業として成長するために、引き続き残業時間の削減に注力し、削減目標は月平均10時間を掲げる」と語る。
大分こうや不動産、誕生月休暇の取得率100%
グループ全体で賃貸住宅を150戸所有し、主に売買仲介事業を専門とする大分こうや不動産(大分市)では、19年より働き方改革の取り組みを開始。
従業員のプライベート時間の充実が仕事のやりがいに直結してくるという考えの下、有給休暇の取得推進や固定休日の増加を実現した。休みを増やしたうえで20年の売買仲介事業売り上げは19年比で約1200万円増加している。
同社の商圏は大分市と別府市。全従業員はパートを含み13人で、このうち19年に新規採用した従業員が7割を占める。21年9月10日にオープンした賃貸仲介店舗への人員配置を見越した人員増加のタイミングで、働き方についても見直しを図った。
特に意識したのが従業員のプライベートの充実だ。年間の有給休暇取得日数最低5日以上と促し、19年は平均5.4日、20年は平均7.9日の消化日数となった。また、特別休暇として誕生月に希望する日時に休暇を取れる制度を導入し、同休暇の取得率は100%だ。
20年6月からは、以前まで隔週の週休2日制だった固定休を完全週休2日制に変更。実験的に導入してみたところ、売り上げは落ちることなく生産性を保っているという。
佐藤貴充社長は「従業員の意識改革を行っている。〝残業をせず早く帰るのが美学〟という認識が人員増加以前から社内に根付いている。休みを増やして稼働日数が減っても、働ける時間内に仕事を遂行するというモチベーションがあるように思う」と語る。
今後は、副業を可能にしたり、独立をあっせんしたりと、従業員が仕事へのやりがいを見いだせる働き方の条件や制度を導入していく方針を掲げる。
大分こうや不動産
大分市
佐藤貴充社長(45)
(10月11日4面・5面に掲載)