コロナ禍の影響は?エリアルポ~滋賀編~

エム・ジェイホーム, イズミ, カインドサービス, 滋賀県宅地建物取引業協会

管理・仲介業|2021年10月27日

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 大阪府や京都府に隣接し関西都心のベッドタウンに位置する滋賀県。新型コロナウイルス下において地元の賃貸マーケットはどのような影響を受けたのか、滋賀県で賃貸業を展開する3社と、オーナー、不動産業界団体に話を聞いた。

転勤による家族世帯の仲介9割減

≪滋賀県の概要≫
 滋賀県の人口は9月現在で140万9465人。2020年度末の141万2415人から、約3000人が減少した。
 滋賀県の中で人口が多い上位3市は、約34万人の大津市、約14万4500人の草津市、約11万3000人の長浜市だ。
 大津市、草津市は滋賀県内で南部に位置している。県外へ電車で1時間程度で行けることから居住ニーズが高く、家賃も北部と比べ割高だ。滋賀県は「南高北低」という言葉もあるほど、南北間での差が大きい県だ。

≪長浜市ひとくちメモ≫
 長浜市は滋賀県の最北端に位置し、大手メーカーの工場が立ち並ぶ工業地帯の一角だ。賃貸物件への入居者も、工場への勤務者が多い。21年9月現在の人口は11万3149人。20年12月時点での人口より788人減少している。

エム・ジェイホーム、北部の工業地帯で1割の法人需要減

 管理戸数6000戸のエム・ジェイホーム(滋賀県長浜市)では20年4~5月において、法人需要が落ち込んだ。

エム・ジェイホーム本社の外観写真

エム・ジェイホーム本社外観

 同社は滋賀県全域で賃貸住宅の管理や仲介を行っている。管理物件の中でも長浜市が3割、彦根市が2割を占め、商圏の中心となっている。

 今回同社で影響があったのは、長浜市や米原市などのある滋賀県北部の工場勤務者向けの社宅だ。葛川睦社長は「滋賀県は北部と南部で相場家賃や入居者属性が分かれている」と話す。

 北部はトヨタ自動車など、大手メーカーの工場が多く立ち並ぶ工業地帯となっており、法人の借り上げ社宅の場合、工場に勤務する従業員や派遣社員の入居が中心だ。

 同社では派遣会社からの依頼で、工場近くに派遣社員向けの社宅を300戸ほど用意している。間取りは1Kで、3点ユニットバスの物件。一般客で入居につながりにくい物件でも工場に近い立地であることから社宅用に紹介している。

 例年、派遣会社10社から200件の派遣社員を受け入れていた。だが、コロナの感染が拡大し始めた20年1~3月に、契約していた派遣会社が撤退し、一気に50件の退去が出た。その影響で、派遣社員の仲介売り上げが2~3割減少した。元々法人契約は全体の売上高のうち2割を占め、うち1割のみが派遣社員用社宅としての法人契約だったため、幸いにも大きな打撃にはならなかった。

エム・ジェイホーム 葛川睦社長の写真

エム・ジェイホーム
滋賀県長浜市
葛川睦社長(45)

 

 

≪彦根市ひとくちメモ≫
 彦根市は滋賀県の中央に位置して いるが、家賃帯は北部と同列だ。市内には大学のキャンパスが2つ開校している。人口は21年9月時点で11万2781人。20年12月時点よりも545人減少している。

イズミ、テナント減額続く 居住の影響ほぼなし

 管理戸数2000戸のイズミ(滋賀県彦根市)では、同社が所有・管理をするビルのテナントなどから家賃減額が複数件あった。コロナ感染が拡大した時期から申し出が目立ち、一部の所有するビルでは現在も減額が続いている。賃貸住宅では、管理・所有物件ともに影響はなかった。

 同社の商圏は彦根市が中心で、管理や賃貸仲介を行うエリアの9割を占める。

 管理エリアの家賃相場はワンルームなどの単身者向けで3万円ほど、2DKや3LDKなどのファミリー向けで5~6万円で、同社の管理物件も同程度という。

 55戸ほど管理する商業施設やビルのテナントの1割程度で、コロナ感染が拡大し始めた20年4~5月ごろに、業績不振を理由に家賃減額の申し出があった。業種は飲食店関連などが多かった。賃貸仲介部の田辺辰也課長は「コロナ禍が関係あったのか確証はない」としたうえで、結果的に3社のテナントが退去した。

 加えて、所有するビルのうち、結婚式場やホテルから、20年4~5月以降から現在に至るまで家賃減額が続いているという。田辺課長は「コロナ下で外出を避ける傾向が残っており、サービス業などの業種はいまだ経営が厳しい状態のようだ」と話す。

 居住用の管理・所有物件ではコロナ下当初から目立った影響はない。同社の管理する彦根市は滋賀県北部に属し、大手企業の工業地帯が並ぶエリアだ。「入居者の多くが工業地帯へ勤務しており、彦根市内で生活が完結しているために外部の影響を受けにくかったことが考えられる」(田辺課長)

イズミの本社外観写真

イズミ本社外観

 

≪草津市ひとくちメモ≫
 草津市は京都との府県境のため、滋賀県外へ勤務する入居者が多い。大阪や京都よりも家賃が安く、通勤時間は1時間程度とアクセス面で利便性が高い。

カインドサービス、家族帯同減少も単身赴任は堅調

 管理戸数624戸のカインドサービス(滋賀県草津市)では、コロナが拡大した直後の20年4~5月頃にかけ、法人需要が90%減少した。企業による転勤控えの影響を受けたためだ。

 同社は草津市や大津市などの滋賀県南部で賃貸管理や売買仲介を行っている。南部の相場家賃は新築や築浅の1Kやワンルームの単身者向けで5万5000円~6万円程度、3LDKなどファミリー向けで13~14万円ほどという。

 赤尾剛社長は「平成に入ったころから大学のキャンパスが一気に7つほど建ち、単身者向け賃貸の需要が上がった。家賃も比例して30年ほど前と比べて1~2割ほど上昇している」と話す。

 単身向けの家賃上昇に伴い、滋賀県南部全体の相場家賃が、30年前と比べ1~2割底上げされている状況という。

 コロナ下では転勤に伴うファミリー層の流入が激減した。例年なら大阪や京都へ転勤となり、家賃の手ごろな滋賀県内で物件を見つけ引っ越してくる顧客が多く、3LDKの需要は底堅かった。だが、コロナの感染が拡大した20年4~5月は法人が大人数での異動を控える傾向にあったため、当時空室だった3DK以上のファミリー向け物件10戸で入居がまったく決まらなかった。

 単身赴任の需要は変化がなく、1Kやワンルームなどの単身向け物件では入居率98%を維持した。

 所有するファミリー向けの分譲マンション1室を、20年5月時点で売却。入居の見込みが薄い物件を手放すことで、維持費などのコストを削減でき、業績は20年と比べ横ばいを維持できたという。

カインドサービス 赤尾剛社長の写真

カインドサービス
滋賀県草津市
赤尾剛社長(53)

 

 

居酒屋から家賃減額要請

 滋賀がんばる大家の会(滋賀県草津市)の代表も務める谷崇史オーナーは、「所有物件においてコロナ下の影響はなかった」と話す。

 谷オーナーは賃貸住宅3棟32戸を所有しており、うち集合住宅が26戸、戸建て賃貸6戸。別途店舗は2戸所有している。所有物件のエリアは滋賀県北部に属する近江八幡市や長浜市などが中心だ。

 谷オーナーは投資として不動産を所有しており、キャピタルゲインを主な収益としている。仕入れコストを少しでも下げるため、滋賀県の中でも地価の安い北部の不動産を取得している。

 コロナ感染が拡大した20年4月から現在までに、所有する物件において影響はほとんどなかったという。唯一、戸建て賃貸を居酒屋のテナントとして利用している入居者から家賃減額の申し出があった。だが行政の給付金窓口を紹介したことで退去に至らず、その後も連絡はないという。居住物件では、家賃減額、退去ともに発生しなかった。

 コロナ下でも居住物件で影響を受けなかった理由について、元々生活保護受給者の入居が多く、家賃は生活保護より支払われていることを挙げた。

 テナントでは、コロナ下に影響されない業種が入居していることが挙げられるという。テナントとして貸し出している物件に入居しているのは塾や事務所。コロナ下で国から制限を受けた飲食業などではなかったため、緊急事態宣言下でも営業を続けられた。

滋賀がんばる大家の会 谷崇史オーナーの写真

滋賀がんばる大家の会
滋賀県草津市
谷崇史オーナー(40)

 

 

滋賀県宅地建物取引業協会、南部と北部で家賃交渉姿勢に差

 公益社団法人滋賀県宅地建物取引業協会(滋賀県大津市)は、コロナによる賃貸市場への影響はほとんどみられなかったという。しかし、会員企業の管理する賃貸住宅において家賃減額の申し出があるなど、一部での影響がみられた。

 コロナの感染が拡大した20年4月ごろに、生活保護受給者からの家賃減額申請、外国人入居者の帰国による退去があったという声が会員企業から上がった。いずれも正確な件数は不明だが、同協会・流通対策員会の北村浩史委員長は「数件にとどまる」とし、大きな影響ではなかったようだ。生活保護受給者には大津市の窓口を案内する対応をとった。

 それ以外の賃貸住宅入居者においては「目立った影響はなかった」と北村委員長は話す。会員企業の顧客においてもコロナの影響による退去や、住み替えはみられなかった。

 一方、テナントでは20年4月~9月の半年間で家賃減額の申請が続いたという。申請があったのは滋賀県内のテナントのうち2割程度。業種は美容室や飲食など、サービス業がほとんどだった。

 家賃減額に対する会員企業の対応に関して、滋賀県の南部と北部で差が出たという。南部は県外へのアクセスが良く人の往来が多いことから全体的にテナントのニーズが高い。退去があってもすぐ入居が決まる傾向にあるため、家賃減額に応じないケースもみられた。北部は一度退去になると長期空室も考えられるため、家賃減額に応じるケースが多かったという。

(10月25日7面に掲載)

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