建築費や土地価格の上昇で収益不動産の価格が高くなる中、金融機関は収益不動産への融資に前向きな姿勢を見せる。大手銀行や地方銀行など4行へ取材。ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)物件の優遇金利や、金利引き下げなどに取り組んでいる。
年間の新規契約9000件も
オリックス銀行、区分融資95% ZEH金利優遇も
オリックス銀行(東京都港区)では、2022年3月期の収益不動産融資は区分マンションが95%を占めた。
収益不動産に対する融資の貸出金残高は22年3月末時点で約1兆9000億円。そのうち収益用区分マンション(以下、区分マンション)を取得するための融資が約1兆6400億円で、1棟アパートの取得への融資が約2500億円だった。
22年3月期の1年間における融資件数は区分マンションが8559件、1棟アパートが388件と、区分マンションが95%超を占める。
融資額は1棟アパートでは1件あたりの融資額は6000万円〜1億円、区分マンションでは1戸あたり2000万〜3000万円が中心となっている。
融資する物件のエリアは、1棟アパートで1都3県に加え愛知県名古屋市、福岡市、大阪市などの大都市圏に集中しているという。そのほかの傾向として1棟アパートは6〜8戸の中型規模で、区分マンションは間取りがワンルームのものへの融資が多い。
1棟アパート融資における金利は固定特約金利をとる。23年1月現在の金利は、3年固定金利特約型で2.3〜3.3%。5年固定金利特約型で2.5〜3.5%。基本的には3年固定金利特約型が選ばれる傾向にあるという。
審査内容は投資家の収入状況や、保有資産、対象となる物件の評価額などを材料とする。また、画一的な審査にならないよう同行独自の審査手法を持つとしているが、詳細は非開示。
融資を受けているのは会社員や公務員が副業で不動産投資を行っている人が90%と、ほとんどを占めるという。
21年11月からはデベロッパーと協働し、ZEH基準を満たす1棟アパートや区分マンションへの融資については、個人投資家向けにマイナス0.05%の優遇金利を設定。金融機関として環境に配慮した物件への投資を後押ししている。
「20年のキャリアを持つベテラン社員がいることを強みとした審査体制で、1棟アパートや区分マンションへの融資に引き続き注力していく」(経営企画部・船山智裕広報チーム長)
三井住友信託銀行、金利1%弱 資産家と関係構築
三井住友信託銀行(東京都千代田区)は提携する不動産会社からの案件紹介により、安定的に融資案件を獲得している。
収益不動産融資の貸出金残高は約7600億円。基本的には1棟物のアパート、マンションへの融資で、平均の融資額は約1億3000万円ほど。融資の対象物件の所在地は東京都内、愛知県名古屋市、大阪市など都心部がほとんどだ。
金利は変動金利型で23年1月現在は1%弱としている。
大手のハウスメーカーからオーナーの紹介を受け、融資を行う案件が7〜8割を占める。提携する大手のハウスメーカーは7〜8社ほど。
融資先は個人投資家が8割で、残りの2割は法人化したオーナーだ。
事業性ローン推進部の松本一宏企画チーム長は「スルガ問題直後には紹介される不動産会社や、融資審査に必要な書類のチェックを念入りに行うよう社内で注意喚起を行った。しかし、元の審査基準に不足はないとして、審査内容の変更は行わず、社内での注意喚起にとどめた」と話す。
リスク管理のため、案件の紹介を受ける不動産会社と、過去に不正があった不動産会社のリストとの照合や、オーナーから提出された審査材料となる納税証明書や確定申告書などの確認もより入念に行うようにした。
同行では収益不動産への融資は資産家とのつながりを得るきっかけとしている。「融資後は、返済を通して30〜40年の長期の付き合いとなる。その途中で遺言信託などほかのサービス提供にもつながる可能性がある。融資はそれらを見据えた関係性構築の入り口という位置づけだ」(松本企画チーム長)
滋賀銀行、物件価値を重視 非対面申し込み可
滋賀銀行(滋賀県大津市)は、22年から既存顧客向けの収益不動産への融資を開始した。これにより、新規の融資額が倍増した。
融資する物件は埼玉県や千葉県などの、関東圏の中でも郊外に分類されるエリアの物件など。収益不動産融資の金利は変動金利型をとる。また金利は1.95%、2.575%、4.875%の3パターンがある。基本的には2.575%の金利で融資を行うことが多いという。
木造の賃貸住宅でも、最大30年のローンを組むことも可能な点が同行の特徴だ。
実際に融資に至った投資家は、関東圏に在住する20〜50代のサラリーマンがほとんどを占める。融資の際に年収の規定は設けていないものの、高年収帯の投資家からの相談が多いという。借り入れ条件は「個人名義であること」「不動産投資が副業であること」「融資額は最大4500万円まで」「完済時に81歳未満であること」などを設定している。
同行での収益不動産融資はこれまで新規顧客のみに限定していたが、22年5月より既存オーナーへの融資を開始し、リピーターの獲得にも注力。融資件数、融資額ともに倍増したという。
既存オーナーへ間口を広げた理由は、複数の不動産を所有する投資家が増加していると感じたためだ。子どもへの事業承継が進んでいることなどが背景として考えられるという。
加えて、新規投資家の獲得のために、インターネット上で借り入れ申し込みの受け付けを実施。ネット受け付けから流入した投資家への融資により、貸出金残高の倍増に寄与した。営業統括部ダイレクト営業室の川口忠士理事は「来店不要としたことで、相談のハードルが下がったためでは」と推測する。
融資の審査では対象の物件が事業計画通りに賃料を回収できるかどうかに重きを置いている。例えば、物件が駅から近いか、都心に所在しているかなど、将来的にも入居者を獲得できる物件であるかを査定の重要なポイントとしている。
収益不動産融資での返済不履行割合は「極めて少ない」とし、堅実な融資を行う。
あすか信用組合、金利引き下げ、競争力強化狙う
あすか信用組合(東京都新宿区)は、他行が融資の引き締めを行う中、金利の引き下げを21年4月に行った。貸出金残高の積み上げを強化するためだ。結果、貸出金残高は引き下げ以前と比べ増加傾向にあるという。
信用組合のため融資対象を「組合員資格」を有する個人・法人に限る。貸出金残高は3211億円で、融資件数は非開示。貸出額のうち、肌感覚で区分マンションへの融資が増加傾向にある。
変動金利型を採用し、引き下げ後の金利は1.8〜2.8%。引き下げ前は2.5〜4.5%だった。
1件あたりの融資額は、リフォーム費用への融資を含み300万〜3億円以内としている。フルローンは受け付けておらず、必要資金の20%以上を自己資金として用意することを必須としている。融資先は都内の不動産会社が中心だ。
同組合は、競争力を強化するため融資プランの見直しを図り、金利の引き下げを行った。業務推進部の金子祐輔主任は「他行の融資引き締めをチャンスと捉えた」と話す。
審査においても見直しを行った。同行では担保となる物件の評価を通常の審査に加え、投資家の財務状況の調査をさらに行うようにした。
今後も貸出金残高の積み上げに注力していき、融資プランや審査基準の見直しを行っていくという。
(國吉)
(2023年1月23日4面に掲載)