築古改修で地域活性化 景観保護や観光客誘致に効果【空き家再生ビジネスの可能性】

和工房,インクコーポレーション,ARTH(アース),静岡鉄道,メモリーズ,くらしの友

統計データ|2023年02月06日

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 増加の一途をたどる空き家が、社会問題化している。そんな中で、空き家の再生を目的に市場への流通や利活用などに取り組む事業者を紹介する。そのサービス運営ノウハウや事業性から、空き家市場の商機を探る。築古空き家の再生は、地域の景観保護や観光拠点としての再稼働につながり、地域活性の面でも効果を生む事例が出てきている。

和工房、家主の工事費負担ゼロで賃貸

リノベ後、投資家とマッチング

 空き家の買い取り・再生事業を展開する和工房(愛知県半田市)は、2021年8月に空き家流通を促すサービス「ヤモタス」の提供を開始し、スタートから1年5カ月で実施件数は21件となった。

 同社は設立9年。全従業員数は5人。商圏の中心は愛知県となる。

 ヤモタスは、空き家の所有者と投資家をマッチングするサービスだ。和工房は、仲介と再生のためのリノベーション企画と、場合によっては再生後の管理や運営も担う。

 同社は家主から空き家情報を受け取り、査定を行う。審査が通った物件について、運用を希望する投資家を探す。所有権は家主のまま、投資家が空き家を借り上げる仕組みとなる。

 同サービスのターゲットとなる空き家は、築40年前後がメイン。その中でも、リノベのコストを抑えられる空き家歴5年以内のものを多く取り扱う。

空き家を賃貸住宅にリノベした物件の内観写真

空き家を賃貸住宅にリノベした事例

 具体的には、例えば家賃相場8万円のエリアにおいて、改修費用350万円程度での再生が可能な状態の空き家に関しては、同サービスの対象となりうる。

 最大の特徴は、家主の持ち出し費用が0円であることだ。再生にかかる費用は投資家が負担。家賃収入の一部を、借り上げ家賃として家主に支払う。投資家側は、基本の借り上げ期間13年6カ月に対し、7〜8年での投資費用回収を目安とする。

 松久保正義社長は「空き家の買い取りから、再生、運用までを手がけてきた中で、空き家を売りに出す確率が低いというデータが蓄積された。空き家を手放さない人を動かす仕組みの必要性を強く感じ、ヤモタスの提供に至った」と話す。

和工房 松久保正義社長の写真

和工房
愛知県半田市
松久保正義社長(42)

 

 

インクコーポレーション、再建築不可に特化し再生

20年で約100棟を施工

 リフォーム事業や建材の販売を手がけるインクコーポレーション(東京都葛飾区)は、これまで約100棟の再建築不可物件を再生している。他社ではリフォーム工事ができなかったという物件を不動産会社から買い取り、自社でフルリノベーション。再生したうちの99%を同社が家主として所有し、賃貸住宅として運営している。

 同社が買い取る再建築不可物件の多くは、築50年以上の木造の戸建てだ。対応エリアは東京23区がほとんど。そのうち多くを葛飾区、江戸川区、足立区、墨田区、江東区の城東エリアが占める。

 依頼全体のうち、8割は不動産会社からだ。入江尚之社長は「他社が『再販できるだろう』と考えて購入したものの、物件の状態が複雑で工事に入れず買い取ってほしいと持ち込まれることが多い」と話す。残りの2割は、個人オーナーからの問い合わせで、相続で取得したケースが目立つ。

 物件により異なるが、仕入れ値は400万〜500万円ほど。リノベにかかる費用はおおよそ1000万〜2000万円程度。再建築不可物件はローンの審査がほぼ通らないため、すべてをキャッシュでまかなう。平均的な利回りは7%前後だ。

施工前後の物件の比較写真

施行前(上)と施工後(下)。取得費用は1棟165万円、リノベ費用は1800万円、現在の賃料は9万8000円だ

 再建築不可物件の場合、既存の柱といった躯体を残さなくてはならないため、解体工事を重機で行えず、手壊しとなることも多い。そもそも基礎工事が行われていない物件もある。その場合は躯体だけにし、それらを持ち上げて基礎を作る。このように施工に高い技術力が求められるため、費用が高くなる。新築するよりも工事費用がかかるケースも多いという。

 同社が再建築不可物件の再生を開始したのは2000年ごろから。きっかけは、知人の会社が管理する賃貸物件のオーナーが、悪質な入居者に悩まされていたことだ。「言い値でいいから買い取ってほしい」と相談を受け、同物件を80万円で買い取った。その後、2年半以上家賃を滞納し、近隣の入居者に威圧的な態度を取っていた入居者を退去させた。その物件がたまたま再建築不可で、リノベしたことで近隣の住人から非常に喜ばれたのだという。

 入江社長は「ボロボロの状態になってしまうと、倒壊の危険もあるほか犯罪の温床にもなる。こういった物件を再生することで、地域社会に貢献できる」と話した。

インクコーポレーション 入江尚之社長の写真

インクコーポレーション
東京都葛飾区
入江尚之社長(58)

 

 

ARTH、元大地主の屋敷、ホテルに改装

住民参加のイベント開催

 宿泊施設の運営などを行うARTH(アース:東京都中央区)は、古民家の再生や地方創生事業も手がけている。21年4月にオープンした宿泊施設「LOQUAT(ロクァット)西伊豆」は、オープンから稼働率100%を継続。観光客の誘致だけでなく地域活性化にも寄与している。

 同施設は、母屋と3棟の蔵からなる邸宅だった。敷地面積は700坪で、母屋は店舗3区画にリノベし、レストランとベーカリー、ジェラート専門店として運営。店舗は地元住民も連日のように利用しているといい、月の平均来店人数は、3店舗合計で約2400人に上る。

宿泊棟「二ノ蔵」の内観写真とリノベ前の母屋の写真

(上)宿泊棟「二ノ蔵」の内装。時期により異なるが、客室単価は1泊15万円から(下)リノベ前の母屋

 3棟の蔵のうち2棟を宿泊施設に、1棟は昼にエステ、夜にバーとして活用している。そのほかにも母屋を活用し、地域住民を招くイベントを開催。音楽会や夏祭りのほか、地元の高校と提携し学生に課外授業としてのマナー講習などを企画・実施している。

 同物件は、元は江戸時代から続く大地主の屋敷だったが、静岡鉄道(静岡市)が取得後、利活用されず空き家となっていた。ARTHが19年に隣接する温泉施設の事業を承継したことを機に声がかかり、20年3月に同社が取得した。

 同社はLOQUAT西伊豆のほかにも7施設8プロジェクトの宿泊事業を手がけている。老朽化したホテルや空き家であってもその地域、その物件にある歴史的な価値を見出し利活用する。

 一つの物件だけの再生ではなく、エリア全体の再開発戦略を策定し、地域資源を活用することが地方創生につながると同社は考える。

 高野由之社長は「空き家だからといってすべてを再生すればいいわけではない。地域全体の制度を設計したうえで、価値があると判断した物件を生かしていくことが重要」とコメントした。

ARTH 高野由之社長の写真

ARTH
東京都中央区
高野由之社長(38)

 

 

メモリーズ、遺品整理など月190件

 くらしの友(東京都大田区)のグループ会社で遺品整理事業を手がけるメモリーズ(大阪府堺市)は、年間約2000件超の遺品整理などの依頼を受ける。

 同社は08年に創業。主に遺品整理や空き家整理、生前整理、特殊清掃、室内消臭などのサービスを提供している。

 20年に横浜支社を開設し、大阪本社20人、横浜支社10人の体制で事業を展開。大阪府、京都府、兵庫県、東京都、神奈川県を主な商圏とする。

 同サービスの月間実施件数は平均して、大阪本社で120件、横浜支社で70件。そのうち5割弱が特殊清掃を含む遺品整理、4割強が生前整理、約1割が空き家整理だ。

 11年ごろから開始した空き家整理事業は、年1〜2%の割合で依頼件数が増加し、伸びている事業の一つとなっている。

 横尾将臣社長は「自治体によっては空き家整理に補助金が出る場合がある。空き家は一般的に荷物が多く、不用品を廃棄する際の分別や搬出などに手間と時間がかかるため、専門事業者に依頼する人が増えている」と話す。

 1件あたりの作業時間は3〜4時間で、料金は平均で18万〜30万円ほどだ。

 依頼に至る経路のうち、不動産会社からの紹介は年間90件ほど。同社から不動産会社へ、整理実施後に売却を希望する顧客の紹介は、年間15件ほどだ。空き家整理案件の増加に向け、不動産会社との提携も予定する。

 「空き家整理・遺品整理事業は、業者間で技術のばらつきを感じる。業界の透明化を目的とした団体の設立を検討している」(横尾社長)

メモリーズ 横尾将臣社長の写真

メモリーズ
大阪府堺市
横尾将臣社長(53)

 

(2023年2月6日4面に掲載)

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