耐震基準が空き家活用の障壁に
法律・制度改正|2016年03月14日
入居者属性を不安視する声も
全国820万戸の空き家問題に対する新たな政策の検討が始まる。
住宅セーフティ機能を強化するため、公営住宅のような役割を持つ賃貸住宅への活用だ。
家賃補助や所有者の優遇措置など、有効な制度設計のために検討されるべき事案について取材した。
国交省は6日、住居の確保が困難な高齢者や障がい者、子育て世代のために、空き家を賃貸物件として活用する方針を固めた。
この内容が盛り込まれた住生活基本計画案は、3月18日に閣議決定する見通し。
年度明けには有識者委員会を発足し、対象物件の基準や家賃補助の水準、所有者への優遇措置など、より有効な制度設計のための議論を進めていく。
「空き家問題を量的に解消するためには、耐震基準などを緩和した柔軟な制度設計が必要」と指摘するのは、さくら事務所(東京都渋谷区)の長嶋修会長だ。
放置空き家の多くは、新耐震基準が施行された1981年以前に建てられた。
特に、団塊の世代とその少し上の世代が建てた築40年以上の住宅は、大半が今の基準を満たしていない。
現在の耐震基準を満たすことを必要条件にしている一般社団法人移住・住み替え支援機構(東京都千代田区)の空き家活用の施策も、対象がかなり限定されてしまうため結果として利用促進が進んでいない。
また立地や、築年数などで限定することも、対象物件を狭めてしまいかねない。
行政が入居者の家賃を補助することも有力視されている。
賃料の支払いは、未回収リスクを可能な限り低減するため入居者を介さない手段が採用される可能性が高い。
また、「入居者の属性に不安を感じる所有者もいるはず」と語るのは、某地方自治体で空き家対策を担当する職員だ。
「入居者がきれいに使ってくれるか」、「高齢者が孤独死しないか」、「近隣住民に反対されないか」など不安は尽きない。
外国人留学生の生活マナーを学校が指導するように、国や自治体による入居者生活サポートの有無は、家主にとっては重要な判断材料になる。
「行政が借り上げし、改修費用の負担と、入居中のトラブルや損害を補てんするような仕組みが欠かせない」と語るのは、NPO法人・空家空地管理センター(埼玉県所沢市)上田真一代表理事。
活用が進まないのは金銭的、心理的負担が大きいからだと指摘する。
所有者の大半は高齢で、特に初期投資を懸念する人が多い。
場合によっては、改修工事費用に対する補助制度「住宅確保用配慮者あんしん居住推進事業」の改良も必要になるだろう。
所有者はなぜ空き家を放置するのか。
「希望する価格で売れない」、「複数の名義人がいて、合意が取れない」、「家を手放すことに負い目を感じる」、「放置しておいても困らない」など、理由はさまざまだ。
どんな政策を打ち出せば所有者が空き家を放置せず、解体や活用に向けた一歩を踏み出すことができるのか。
借り手や社会的なニーズだけでなく、貸し手の立場に立った制度を期待したい。
「都心部では借り手の需要や活用法はいくらでもあるが、重要なのは郊外の空き家だ」と、上田代表は問題提起する。
国交省では、民間の空き家や空室を活用し、生活困窮者の住宅セーフティネットワークを強化したい考えだ。
住生活基本計画案では、空き家の増加を10年間で100万戸抑える目標値も設けている。