大阪高裁で敷引き有効判決 原状回復特約認め家主側勝訴

法律・制度改正|2009年07月06日

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「敷引き有効」―家主側は圧倒的に不利と思われていた敷引き訴訟だが、大阪高裁は一審の京都地裁判決に続き、入居者側の訴えを退け、敷引き特約の有効性を認めた。さらに、自然損耗原状回復費用まで借主負担とする特約が定められていたことから、「自然損耗の原状回復費用は有無を言わさず家主負担」という従来の認識を覆すものとなった。

大阪高裁の判決に対し、借主側代理人の長野浩三弁護士(京都敷金・保証金弁護団事務局長)は、「平成17年12月16日の最高裁判決も、消費者契約法の趣旨も理解していない不当判決」とし、上告する構えだ。

訴訟の概要を見てみよう。平成18年8月、当時33歳の会社員が、京都市内の賃貸住宅に月額賃料9万6000円、保証金40万円、共益費1万円で入居。平成20年4月に退去した際、保証金から21万円を控除した19万円が返還された。元入居者の男性は、「賃貸借契約終了時に保証金から一定額を控除して返還する特約は、消費者契約法10条により無効」として控除された21万円の返還を求め、家主を訴えた。

同物件では、退去時に通常損耗・自然損耗の原状回復費用を保証金から控除することを特約に定めていた。控除額は経過年数に応じ、1年未満18万円、2年未満21万円、3年未満24万円、4年未満27万円、5年未満30万円、5年以上34万円と定められている。

争点は、特約が成立していたか、特約は消費者契約法違反により無効か、の二点に絞られた。

◆特約は成立していたか

「損耗・毀損の事例区分(部位別)一覧表」を付し、賃借人に費用負担を求める通常損耗の内容・範囲が具体的に記載されていたことから、入居者側は特約の内容をよく理解した上で合意していたと解釈。特約は成立していると認めた。

◆消費者契約法10条違反か

入居者は特約の存在と内容を十分認識していた上に、インターネット等により他の物件の情報を入手することができた上、賃貸借契約の4週間前に重要事項説明を受け、特約内容を認識した上で契約締結までの間に他の物件と比べて有利か不利かを比較検討する時間が十分にあった。これらのことから、借主の利益を著しく侵害しているとはいえず「有効と解するほかない」とした。

これまで、特約の内容によらず「通常損耗・自然損耗分の原状回復費用は家主負担になる」と賃貸業界内では理解されてきた。今回の判決は、この考え方を根底から覆す可能性すらある。

消費者優位が続いてきた中、なぜ今回のような判決が下されたのか。貸主側代理人弁護士の田中伸氏はこう指摘する。

「消費者契約法10条後段要件の『消費者の利益を一方的に害する』はどこまで適用されるのか、ということに裁判所も関心を持ち始めているように感じます。私は、『了知可能性』と、『選択可能性』が重要と考えます。今回は二つの可能性を裁判所が認めたという点で、意義のある判決です」

原状回復費用の負担をめぐる争いに、新しい風が吹き始めたようだ。

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