"老朽化時代"にどう備えるか
その他|2019年11月16日
近年、愛知県の賃貸管理会社がリノベーション事業を開始・強化する例が増えている。平成元年前後に建設ラッシュとなったアパート・マンションが老朽化し、物件の競争力の低下が懸念されているからだ。各社がオーナーに対し改修提案を強化している。そんな老朽化時代の中で、管理会社とオーナーは戦略の転換を迫られている。
リノベ事業、続々強化
管理戸数に占める老朽化物件の割合が高まり、「リノベーション提案を強化する」と表明する管理会社が増えている。
管理戸数1950戸の野村開発(愛知県知立市)では、管理物件のうち築30年超の物件が2割を占める。ボリュームゾーンは築10~20年の"築古・予備軍"。場所は名古屋市周辺の知立市・刈谷市・豊田市に多い。トヨタ自動車系の入居者が大半で、入居率は95%前後という。
同社は老朽化に伴う競争力低下を回避するために、3年前にリノベーション事業を開始した。月1回の頻度で実施している。
野村智之社長は「空室が多い状況下では、改修しないといけないと感じている」と話す。
アパートローンを完済して建て替えを検討するオーナーには、「完済後にリノベーションして経営を継続したほうが、経営としてうまみがある」などと訴求している。
建築・管理会社の杉本組(愛知県名古屋市)でも老朽化物件の比率が高まっている。管理戸数1600戸のうち、築20年以上の物件が半数以上を占めている状態だ。
最近は築40年以上の物件が年数件のペースで出てきており、同社の場合は大規模改修などで対応している。入居率は93%前後で推移している。
JAグループも同様だ。愛知県下の地域農協とJAハートホームサポート(愛知県安城市)が管理する賃貸住宅は約2万7000戸。そのうち築20年を超える物件が5年ほど前から急増したという。
各地の農協をサポートするJAあいち経済連(愛知県名古屋市)では、築25年が過ぎたアパートを対象に家賃保証付きのリノベーションなどを促している。
アパート建築・管理業の貝沼建設(愛知県名古屋市)でも、最近は新築事業に代わる成長事業のひとつに「リフォーム・リノベーション事業」を据えている。
同社は9年前より、管理物件約1万戸を対象に新しいリノベーションサービス『リノシス』を展開している。宇山公一郎社長は「リフォーム売り上げも、ニーズに見合った形で増やしていければ」と語った。2018年度だけで83件の施工実績を持つ。
30年前に建設ラッシュ
愛知県内の新設住宅着工件数(貸家)を見ると、県内全体で築古物件が増えていることがわかる。
直近の18年の新築賃貸住宅の着工数は2万6690件。だがデータが残る1989~2008年までの約20年間は、直近の数字を上回るペースで推移している(下図)。
89年の着工数は4万4507件と現在の2倍近い水準。それから増減を繰り返し、リーマン・ショック直前の08年には3万7206件まで減ったものの、それでも18年よりも1万件上回るペースで新築が供給されていた。
特に昭和後期は名古屋周辺の区画整備が活発化され「更地の土地活用策として、平成初期にかけてアパート経営がブームとなった」(名古屋市内の管理会社社長)といった背景があることも関係していそうだ。
県内の賃貸住宅の総戸数は138万7700件。30年前の1・5倍の規模だ。空室率は30年前の15%から現在は16・6%まで上昇している。
この20年間で建った賃貸住宅が、いま築10~30年を迎えている。
一方、世帯数は増加している。県内の世帯数は、過去最多の319万3816世帯(18年)。調査の始まった89年と比べて1・5倍ほど伸びている。
全体のパイは減っていないが、リノベーションを行うにしても、入居率を改善するには、新築などの競合物件とどれだけ差別化できるかもポイントになってくるだろう。
老朽化物件の競争力を抜本的に改善したいなら「リノベーション」は一つの選択肢。だが1物件にかける施工費用の高さから、費用対効果の見極めに二の足を踏む管理会社・オーナーは少なくない。もしリノベーションを行うなら、確実に家賃を引き上げ、継続的に入居者が入る部屋に変えなければならない。そこで愛知県で賃貸リノベーションに詳しい専門家に、成功の秘訣を取材した。