計画修繕で長期的に収益向上

アミックス

その他|2021年04月15日

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見学者が後を絶たない人気物件へと生まれ変わった吉原オーナーの『冷泉荘』

 賃貸住宅の価値を保ち、長期的に安定した経営を続けるには大規模修繕が重要だ。積極的に取り組むことで費用以上の成果をあげている家主がいる一方、日本では関心を持つ家主が少ないという現実がある。今回の特集では、家主や不動産会社、施工会社に大規模修繕のポイントやサービスの特徴について聞いた。

価値向上のチャンス

 「長期的な経営計画をもって大規模修繕に取り組めば、建て替えるよりも高い利回りが期待できる」と話すのは、「築100年経営」を目標に賃貸経営を行う吉原勝己オーナー(福岡市)だ。

 吉原オーナーは7棟約230戸の賃貸住宅を所有。いずれも築40~60年の築古物件だ。大規模修繕を通じて、それらを「ヴィンテージビル」としてブランディングすることで、新築時を超えるような賃料でほぼ満室を維持することに成功している。

 例えば、築62年のRC造、全25室の『冷泉荘』。大規模修繕に6000万円ほどかけたが、退去が発生して新規の募集を掛けるたびに賃料を上げても、すぐに入居が決まるような状態だという。

 修繕のポイントは、軍艦島のようなヴィンテージ感と、安心感を演出したこと。外壁はきれいに塗り替えるのではなく、特殊な樹脂で固めることで風化した見た目を保ちつつ性能を回復する工法を用いた。耐震補強のために設置したブレースは、見た目が悪いとして隠すのではなく、あえて目立たせることで建物の強度に対する安心感を与えている。

 物件の整備だけでなく地域の認知度向上策も実施。物件のチラシを製作して地域の商店に置いてもらうといった地道な情報発信も行った。「ヴィンテージ好きな人が集まる独自市場が地域にでき上がったので、入居付けには困らなくなった。他のオーナーの物件でも30棟ほどで実践済み。いずれも成功しているので、再現性がある手法だと考えている」(吉原オーナー)

 建物の大規模改修に加え、築古ならではの良さを発信し、賃貸住宅の価値を経年とともに高めている。

損益分岐点は28年目

 吉原オーナーのようにバリューアップさせることができなければ、大規模修繕が無駄な支出になるというわけではない。修繕をせずに建て替えるよりも、計画修繕を行って長期間運用した方が経営上のメリットがあるという試算も出ている。

 国土交通省が発行している『民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック 事例編』におけるシミュレーションを見ていこう。

計画修繕した場合の賃貸経営シミュレーションによる試算結果

 銀行から4200万円を20年返済で借り入れて賃貸住宅を新築した場合、修繕費用を踏まえた損益分岐点は28年目。計画修繕を行った場合、40年通算で表面利回りは9.14%、NOI(営業純利益)は5.68%、実質利回りは1.4%、通算収支は2350万円となっている。

 築25年の時点では、計画修繕にかかる支出を差し引いたとしても、通算収支は158万円の赤字。つまり、築25年で建て替えるよりも、計画修繕を行って建物の寿命を延ばし、長く運用する方が経営上のメリットがあることになる。

 また、大規模修繕は1回の費用が大きいため敬遠されがちだが、全体で見ると、それほど負担は大きくない。40年単位で考えると、計画的な修繕費用は建物全体でも月々3万3000円程度になる計算だ。

 同シミュレーションでは、借入金返済や管理委託料、原状回復費用、各種税金などを含めた総支出は1億2997万円。そのうち、計画修繕による支出は1602万円で、全体に占める割合は12%ほど。ただ、11~15年目、21~25年目、31~35年目には大規模修繕のため、400万円超の支出を計上しており、積み立てなどの準備をしていないと、オーナーにとって大きな負担になる。

会社選びに悩むオーナー

 一方で、オーナーに専門知識がなく、どのような工事をすればよいのか、工事会社から提案された内容が適切なものかのかが分からないというケースも多いだろう、そういう場合には、手間でも複数社から見積もりを取り、会社ごとの比較をしていくのがよい。

 1棟15戸を保有する菅完治オーナー(東京都文京区)は、「工事の内容を完璧に理解するのは難しい。そもそも、どこに工事を頼めばいいか分からずに困っている人は多いのではないか」と話す。同氏は築25年、SRC造の10階建て賃貸住宅1棟を保有しており、1階を貸し店舗、2階を自宅、3階以上を全15戸の賃貸住宅として運用。2019年11月~20年2月にわたり、2400万円をかけて同物件で大規模修繕を実施した。

 菅オーナーは、工事を依頼する会社を探すために、賃貸経営のコンサルティングや情報発信を行う会社が主催する展示会に参加。そこで見つけた1社を含め、計3社で相見積もりを行った。相見積もりを行う一番のメリットは費用の相場がつかめることだ。また、比較することで、それぞれの物件にマッチした工法や内容を選びやすくなる。

 最終的には、予算に合わせて工事内容を細かく調整してくれるなど営業スタッフの対応が良く、アフターメンテナンスが充実している会社を選んだという。「結局は値段ではなく、相手を信頼できるかどうかで決めた。納得して工事を任せたので、満足している」と菅オーナーは話す。

 

「全物件で計画作成」16%

 長期の安定経営のために必要な大規模修繕だが、家主側の意識は低いのが実情だ。

 国土交通省が賃貸住宅の家主を対象に行った2017年の調査によると、保有する全ての住宅で長期修繕計画を作成している家主は全体のわずか16.8%だった。

2017年 国土交通省の賃貸住宅の長期修繕計画作成についての調査結果

 では、なぜ計画修繕が日本の賃貸業界に根付かないのだろうか。約9600戸を管理するアミックス(東京都中央区)の末永照雄社長は3つの理由を挙げた。1つ目は分譲マンションと異なり、建築時の長期修繕計画の策定に関する法的な規制がないこと。収支計画に修繕費用を算入すると利回りが低く見えてしまうので、販売する会社は長期修繕計画についての話を避ける傾向があるという。

 2つ目は資金面の問題。現状では、賃貸住宅の大規模修繕に関する積立金サービスはあまり普及していない。さらに、修繕の実施を資産価値アップの手法として評価している金融機関が少なく、融資を受けて費用を工面するにもハードルが高い。

 3つ目は適正な修繕計画を作成して提案できる管理会社が少ないこと。自社で工事部門を抱えている管理会社はそれほど多くなく、必ずしも工事に精通しているとは言えない。「オーナーに一番寄り添っているはずの管理会社が、積極的に計画修繕を提案していくべき。新たなビジネスチャンスにもできるはず」と末永社長は話す。

(4月12日4面に掲載)

おすすめ記事▶『大規模修繕特集 見積もり前に家賃相場から予算算出』

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