新型コロナウイルス下においてテレワークの導入が進む中、不動産ビジネスにどのような影響を与えるのかを探る特集第2弾。通勤の機会が減少したことから郊外への住み替えのニーズが高まっているのかを現場の声から検証する。本紙4月12日号では地方への移住を特集したが、今号では東京23区外、神奈川、千葉、茨城、埼玉の不動産会社に取材し、郊外地域における不動産会社の商機を探った。
ニッケントラスト、同じ家賃でより広く都内からの流入増
さいたま市の武蔵浦和エリアで約1000戸を管理するニッケントラスト(さいたま市)では、19年度と20年度で仲介件数に変化は特になかったが、「繁忙期、閑散期がなくなった。5月になっても法人が動いている。毎月継続的に成約に至るようになった」と賃貸営業部の岡田園美課長は語る。
同社では20年の4月、5月ごろから都内在住の25歳から35歳の単身者とカップルの流入が増加したという。また、例年はあまり反響のない年末年始にも例年の2倍近い反響があった。
21年の繁忙期においては約6割が都内からの顧客で、2割が地元からとコロナ禍前に比べ地元の割合が3分の1、都内からが1.5倍になった。杉並区や世田谷区に住んでいたが、コロナ禍のためにリモートワークが増加したり、収入が下がったために同じ間取りでも安い家賃で住める埼玉へ住み替えする事例が増えている。そのため、全体的に管理物件の入居者の年収自体も下がった印象があるという。3月に竣工した単身者から3人世帯まで対応するマンションでは21戸中19戸が都内からの住み替えとなった。
仲介に関しても都内の不動産会社からの成約が増えた。元々、同社ではカップルで部屋探しをする案件が多く、従来は1LDKが好まれてきたが、テレワークの増加により、追加でもう一部屋や、同じ間取りでもより広い部屋の需要が増えたのも特徴だ。部屋数が多くなると家賃が上がるので、単純に同じ間取りで広めの物件や、駅から多少遠くなってもいいから今までと同じ家賃で広い物件を求めるカップルが多いという。
また、ペットを飼育する入居者が増えたという。同社ではペット可賃貸が管理戸数の3割を占め、割合としては比較的高かったが、新たにペットを飼い始めた入居者や、ペット可賃貸に引っ越すケースが増えたという。
「今はコロナ禍の影響で都内からの需要が高まっているが、地元が本来のターゲットなので、方針は変えず今後も地元密着型で経営していく」と岡田課長はコメントした。
日生リビングシエスタ、近場で引っ越し1LDKに需要
西武線沿線で約300戸を管理する日生リビングシエスタ(東京都東久留米市)では21年の繁忙期において前年比で3割問い合わせが増えた。同社の商圏は西武線沿線が中心で、大学生や新社会人などの入居者が多いエリアだ。
20年度においては、問い合わせは例年の半分、空室も10室程度と少なかった。「コロナの様子見をしている人が多かった。ステイホームの流れがあり、積極的に動けない人が多かった。21年の繁忙期になってようやく客足が戻り、安心したが。繁忙期も例通りなら20年12月からスタートするのが2月からと遅くなった」と同社の資産運営部二宮五月氏はコメントする。
同社の物件はワンルームや1Kなど単身者のアパートで、商圏に大学が多いということもあり、10代後半から20代前半の若い層の需要が大きい。例年は7割が学生で残りのほとんども新入社員が占めるという。ただし、20年度の繁忙期はリモート授業の影響もあり、学生の問い合わせは減少した。一方、21年の繁忙期から1LDKの問い合わせが増えた。仕事部屋として区切ったスペースのニーズが大きくなったためだ。また、初期費用を抑えたいなど収入減からの引っ越しのニーズもあったという。
「近場で引っ越しを行う人が多い。20年の一年を通して実家での在宅や今の住居での在宅の不便さを感じて住み替える人が増えた」と二宮氏は推測する。同社では今後1LDKと猫向けのペット共生型住宅の管理を増やしていく予定だ。「コロナ下でペットの需要が増えている。また、在宅勤務が継続する流れが応え答えた物件を増やしていく。都心に戻りたくても戻れない。仕事が安定し、経済が回復しない限り守りの姿勢に入っている人も多い。そういった人へのニーズに応えていきたい」と二宮氏はコメントした。
(8月9日6面に掲載)