「貸せる部屋ない」コロナ下で変わる郊外住み替え需要急増~中編~

いわの不動産, 桂不動産, HIDEGLORY(ヒデグローリー)

その他|2021年08月10日

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いわの不動産店舗外観。蔵を改装して利用している。

 新型コロナウイルス下においてテレワークの導入が進む中、不動産ビジネスにどのような影響を与えるのかを探る特集第2弾。通勤の機会が減少したことから郊外への住み替えのニーズが高まっているのかを現場の声から検証する。本紙4月12日号では地方への移住を特集したが、今号では東京23区外、神奈川、千葉、茨城、埼玉の不動産会社に取材し、郊外地域における不動産会社の商機を探った。

いわの不動産、単身者の30代が引っ越し駐車場なしの物件成約

 神奈川県南西部の三浦半島で不動産の賃貸、売買仲介を行っている、いわの不動産(神奈川県三浦市)の岩野孝一社長はコロナ下により、管理戸数と問い合わせが増えたと語る。

 同社は開業して4年。最初の1、2年こそ管理戸数は3~5戸程度であったが、20年には管理戸数が30戸にまで増えた。今までオーナーが自主管理していた案件の受託が主だ。コロナ下で移動に制限がかかった結果、オーナー自身で管理しきれなくなり、同社に管理を委託したためだ。

 一方、売買については、19年は12件程度だったが、20年は年間で15件と微増。21年に入ってから、4月15日までに8件程度成約している。ただし、売買をしたくても市場に出る物件がないのが現状だ。

 物件の問い合わせは賃貸と売買含めおよそ3~5倍に増えた。今までは週に電話で2~3件程度だったが1日3~4件来るようになり、メールでの問い合わせも月10通程度だったのが30通ほどになった。これらの問い合わせは20年4月の緊急事態宣言下からすでにあり、7月をピークとしてそれ以降継続的なニーズが続いている状態だ。ただし、問い合わせ件数が増えても賃貸物件が少ない。ホームページ上に物件情報を掲載する前に問い合わせのみで入居者が決まってしまうのが現状だという。

 コロナ下において、客層も変わりつつある。以前は50代後半のセカンドライフ、または別荘目的での問い合わせが多かったが、現在は20~40代がファミリー、単身関係なく増えている。比率も、以前は50代後半の顧客とファミリーが半々程度だったが、現在は20~40代からの問い合わせが8割を占め、50代後半が2割にとどまるという。

 「東京在住の30代の単身者がコロナ禍で友達に会えない、飲めない、週末も自由に動けないと、周りのコミュニティーがなくなり、三浦に遊びに来たのが住み替えのきっかけになっている。飲食店で交流が始まり、三浦のファンになり、家賃が安く、テレワークができるようになったし、地域もいいと、住み替えしてくる人が増えた」と岩野社長は話す。都内や埼玉、横浜、川崎からの移住が多く、賃貸と売買は6:4と賃貸の方が若干多い。また、ファミリーが半数を占め、夫婦と単身者は3:2程度Dinksはいない。

 若い移住者が増えたことにより、駐車場がない物件に注目が集まっているのも特徴だ。コロナ下以前は海が見えて、車が2台駐車でき、家庭菜園ができる、駅かバス停や商業施設が近い賃料5万円ぐらいの戸建て賃貸のニーズが高かった。しかし、20代から40代の顧客は車を持っていない人が多いため、バス停が徒歩圏内であれば、駅が近くなくてもよい顧客が増えた。物件の敷地内にバイクや自転車が置けるスペースがあればいいという。そのため、今まで見向きもされなかった物件が脚光を浴びている。賃料が4~5万円程度の戸建てのニーズが高く、98%は戸建てを希望するという。また、賃料が10万までだったらと希望賃料が高額化しているのも特徴だ。

 「郊外に向かう動きは今後止まることはないと考えている。コロナ禍が収まったら、本当に今の自分たちの生活が幸せかと考え始め、20代、30代は郊外でリモートで仕事する生活がいいと思う人が多いのではないか」と岩野社長はコメントした。

いわの不動産 岩野孝一社長の写真

いわの不動産
神奈川県三浦市
岩野孝一社長(46)

 

 

桂不動産、他県より家賃安く人気ファミリーから反響増

 茨城県南部を中心に茨城県央エリア、千葉東葛エリアで1万8500戸を管理する桂不動産(茨城県つくば市)では1回目の緊急事態宣言後の20年5、6月から問い合わせが増えたという。緊急事態宣言明けから順次、単身者向けアパートと30代から子育てが終わったファミリー層ではマンションが中心に成約していった。駅近のニーズが高く、現在では紹介できる賃貸物件の件数はかなり少ないという。

 同社の商圏では転勤族からの需要が高かったが、コロナ禍以降、テレワークから週に1回程度の出社となった単身者が職場から遠くても賃料が安く、グレードが高い物件を目的に住み替えをするようになった。また、ファミリー層においてはコロナの感染者の少ない地域として茨城への需要が高まった。特に緊急事態宣言直後あたりからは20~30代の子育て世代からの反響が、その後、20年秋あたりから30~50代の夫婦が子どものあるなしに関係なく増加した。

 コロナ前よりも、予算に余裕のある顧客が増え、よりグレードの高い3LDK以上で占有面積の広い物件への需要が高まる傾向にあるという。ただし、占有面積が80㎡を越えると家賃が15万円前後になるため割高感を感じられているという。

 同社の渡邉宗明社長は「コロナ下では首都圏からの顧客が多かった。特にTX沿線が顕著。反対に常磐線にはあまり恩恵がなかった。仕事部屋として1部屋追加で欲しいというニーズがある」と語る。

 コロナ下で新築の供給が減少したこともあってか、新築が満室になるまでに長期化していたのが、21年に入ってからは、入居募集後すぐに満室になる状況だ。また、既存物件においても退去が出て、入居者募集する際に家賃を数千円上げる傾向が出ている。

 「つくば市はTX線つくば駅から秋葉原駅まで快速で45分。そのほかの45分圏内だと他県と比べて相場が安い。居住スペースや敷地にゆとりがあり、教育に強い。そのため、元々子育て世代からの人気が強かったが、都心からの住み替え需要が高まり、所得層が高い人が増えた」と渡邉社長はコメントする。

 同社では一部千葉の物件も管理するが、そちらは反対に厳しい状況だという。千葉は茨城と比べると同じ間取りでも専有面積が小さく、家賃も高めというのが裏目に出たと渡邉社長は推測する。

桂不動産 渡邉宗明社長の写真

桂不動産
茨城県つくば市
渡邉宗明社長(46)

 

 

HIDEGLORY、空き家再生賃貸を提供セカンドハウス需要見込む

 空き家を再生し、賃貸住宅として提供するHIDEGLORY(ヒデグローリー:東京都江戸川区)は千葉県の房総半島を中心に空き家を購入、リフォームを施したうえで、セカンドハウスとして貸し出している。

 コロナ下におけるリモートワークの増加の流れを見込んで20年6月より空き家再生事業をスタートした。現在6戸を提供し、うち5戸が入居中だ。

 都心部に勤務し、23区内のマンションを所有するか借りている、小学生から高校生の子どもが2人以上いる40~50代のファミリーがターゲットだ。実際に物件掲載を始めてからテレワーク目的の問い合わせは多く、特に年の秋以降からはセカンドハウスを意識しての問い合わせが増えた。しかし、実際には物件の所在地近くの勤務者が普段の住居として借りる場合が多い。

 物件は15%の表面利回りを基準に、リフォームも合わせて450万から600万円程度で購入できる物件を選定している。また、家賃は10万円以下で収める。

 リフォームに関しては水回りをまず優先的に行う。特にトイレは浄化槽や共同上下水道、中には汲み取り式便所の場合もあるので、簡易水洗にし、和式トイレは洋式の温水洗浄便座に交換する。キッチンについてはたとえ大きなキッチンがついていたとしても古い場合は新しくコンパクトなキッチンに交換したり、収納棚の扉にノッキングシートを貼って、入居者が不快感を感じないよう工夫する。風呂に関しては浄水器を内蔵したシャワーヘッドを設置するなど、水回りに特に気を遣うという。間取りの変更などは基本的に行わないが、和室はクッションフロアやタイルを敷いて、洋式風に変更するほか、土壁砂壁はクロスに変更している。

キッチンの写真

交換されたキッチン。以前は横に長いキッチンが置かれていたがコンパクトなものと交換した。

 「今後3年間で25戸にまで増やす予定。今ある住宅を無駄にせず活用していければと考えている。戸建て賃貸は少ないし、かといって購入するのは高いと考えている層には魅力的だと思う」と秋田英光代表はコメントした。

HIDEGLORY 秋田英光代表の写真

HIDEGLORY
東京都江戸川区
秋田英光代表(54)

 

(8月9日5面・6面に掲載)

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