用途転換で収支改善!築古建物再生 ~前編~
その他|2021年08月22日
「新築プレミアム」が存在する日本において、年月を経た物件は価値がなくなるばかりなのだろうか? 貸し方を変えることで、古い建物に新たな息吹を吹き込んだ4人のオーナーの事例を紹介する。
街づくりへの参加権が寄与
コロナ下でも募集をかけずに満室
街づくりに参加できる権利付き物件
築50年をはるかに超える築古の風呂なし木造アパートだが、募集をかけずに空室が埋まる。そんな物件が東京都文京区の本郷にある。長谷川大オーナー(東京都文京区)の所有物件「みのる荘」と、長谷川オーナーが代表理事を務めるNPO法人街ing(まっちんぐ)本郷(同)が一棟借り上げを行っている「真光荘」だ。
この2棟は街ing本郷が手がけるプロジェクト「書生生活」で活用されている。書生生活は近隣の大学に通う学生を対象に、地域の活動に参加することを条件に通常の家賃よりも安く物件を貸し出すシステムだ。学生たちにとっては、住まいを安く確保できるうえに、研究分野のフィールドワークを行えるメリットがある。地域にとっても、担い手の減少に悩む町内会の催し物などを手伝ってくれる若い力を得ることができる。
地元住民との多世代交流会
「周辺物件より1万円ほど安い家賃設定にする代わりに、街に関わってもらいますが、それを『苦行』と思う学生では意味がありません」と語る長谷川オーナー自らが入居希望者には志望動機を提出してもらい面接を行っている。
古い建物を再生することを考えた場合、真っ先に浮かぶのがリノベーションだ。だがすべての物件は時の経過とともに古くなり、リノベーションの必要性は際限なく訪れる。「小手先のリノベーションを何度も行うのでは意味がない」と初めにアドバイスしてくれたのも、かつてみのる荘に住んでいた学生だったという。そこで「街づくりに参加できる権利付き」賃貸として書生生活を2010年にスタートさせた。
20年からの新型コロナウイルス感染症の流行に伴い大学はオンライン授業となり、実家に戻る学生が多い中、この企画は苦戦を強いられるのではないかと思われたが、実際は逆だった。実家からオンライン授業を受ける学生たちは家にこもりきりで孤独になった。そのため人との交流を求めて書生生活への参加を希望する人が増えたというわけだ。
本郷の商店街を盛り上げた「本郷百貨店」企画
今まで書生生活から巣立っていった卒業生は30人ほど。中には、家庭を持ち本郷に戻ってくる人もいるという。「『一つ屋根の下』という言葉がありますが、書生生活の下で生活を送った学生たちにとって、帰属意識は単なる家ではなく、街にあります。そういう意味で、屋根の下の屋根とは本郷の空の下といえます」と長谷川オーナーは話す。
屋根の下を飛び出して行う賃貸経営は街づくりにつながり、街の価値が上がれば不動産価値も上がるのだ。
長谷川大オーナー(54)
東京都文京区
エリアの価値を上げる
1階に住人が下りてくる地域に
こだわりの賃貸物件を紹介する不動産情報サイト「東京R(アール)不動産」に入居者募集が新規掲載された週の週末に、20件弱の内見希望が入った築古物件がある。深野弘之オーナー(東京都豊島区)の所有する築36年の3階建てマンション「コーポ紫雲」だ。
地域に開く『コーポ紫雲』の1階
1階と3階でそれぞれ1戸ずつ空きが出た際にSOHO仕様にリノベーションをして募集をかけた。特に1階は地域に開かれた使い方をしてもらおうと、ベランダを取り壊し、室内に15.81㎡の土間をしつらええた。住居兼店舗として利用してもらうためだ。このリノベーションは、深野オーナーが20年7月から始めた「ニシイケバレイ」という地域活性化プロジェクトの一環。
ニシイケバレイは深野オーナーの祖父が建てた築70年以上の平屋をカフェやイベントスペースとして貸し出すことから始めた。コンセプトは「住人が1階に下りてくるエリア」。21年5月には「コーポ紫雲」のSOHO仕様へのリノベーションに続き、隣接する2階建て木造アパート「白百合荘」の1階は飲食店へテナント貸しをし、2階にはシェアキッチンとコワーキングスペースをオープンした。
高層ビルに囲まれた『ニシイケバレイ』平屋
都心では、物件が満室でも地上に人が歩いているのを見かけないことも往々にしてある。勤務先、あるいは学校と家の往復になるだけで、人の往来はない状況だ。
そこで深野オーナーは各建物の1階部分に店舗や飲食店に入ってもらい人の流れを生み出すことを考えたのだ。ビジネスが生まれれば人の流れができる。地上で面白いことが起きていれば、住人たちも1階に下りてきてエリアを散策するようになる。
入居第一号は器を扱うギャラリー
「物件の1階を開くことは東京においてキーワードになる」と話す深野オーナーだがこれには家主の困り事である入居者間トラブルを解消するというメリットも見込めるという。「住人が地上に下りて顔を突き合わせればおのずと相互理解も深まる。トラブルを一つずつつぶしていくのではなく、ニシイケバレイの中で調和を作りたい」と深野オーナーは意気込みを語る。
このプロジェクトの最終目標はエリアの価値上げだ。深野オーナーの場合、同じエリア内にある全83戸の「MFビル」が賃貸経営の屋台骨。だがMFビルの入居者にも「このエリアだから住みたい」と思ってもらいたいと考える。そのため、これからはMFビルの内見時にも深野オーナーがニシイケバレイについて思いを語り、入居者にも同じ気持ちを持ってもらえるようにしていく。
深野弘之オーナー(50)
東京都豊島区
(8月16日10面・11面に掲載)




