家主業の事業承継を経験者オーナーが語る② 前編

その他|2021年09月22日

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 収入を増やしたいのか、土地を守りたいのか、家主業の承継に一般的な意味での"正解"はない。受け継いだ方が、先代のやり方を踏襲して土地を守るのか、攻めの姿勢でさらに発展させるのかも自由だ。前回と同様に実際に事業を承継し、成功を収めているケースを紹介する。

管理業務に確定申告、実務経験が成功の鍵

赤字だった法人を黒字化 入居者との対話にこだわる

 早くに父を亡くした本橋浩オーナー(東京都杉並区)は祖父から土地を相続。当初、本橋オーナーはサラリーマンだったので、母が賃貸経営を担っていた。その後、赤字経営だった賃貸経営を引き継いだ本橋オーナーは、サラリーマン経験を生かし、家業を立て直していく。キーワードは、「徹底的な対話」だ。

祖父から直接土地を相続

 本橋オーナーは土地を祖父から相続し、賃貸経営を母から引き継いだ。祖父は東京都杉並区で農業を営み、3000坪ほどの土地を所有。余った土地に戸建て賃貸を建て、人に貸していた。家賃の入金管理は祖父が自分でやっていたものの、あくまで本業は農業。大家業の自覚は特になかったという。

 本橋オーナーの父は若くして亡くなっており、バブル期の少し前に祖父が亡くなった際は、祖父から本橋オーナーが土地を相続した。本橋オーナーには姉と妹がいるが、当時は「土地は長男が継ぐもの」という考え方が根強くあり、特にもめることもなかったという。

 父が亡くなった後、母は資産管理法人を設立していたが、本格的に賃貸経営を開始したのは祖父が亡くなってからだ。母は家の土地に賃貸住宅を建てて経営していたものの、管理は行き届いておらず、数年にわたって家賃を滞納する入居者が4、5人いたが強く言えずに放置しているという状態。賃貸経営に必要な業務を外注する際も業者に任せきりだった。その結果、法人の経営は赤字となってしまっていた。

滞納対策に力を入れる

 ゆくゆくは専業家主になろうと考えていた本橋オーナーは、2000年を過ぎたころに、母の法人が赤字となっていると知って仰天する。これを契機に、物件の所有権を自身から法人に移した。同時に、賃貸経営に強い税理士を探すなどして、実質的に経営に参加し始めた。配属先の関東近郊から、05年に転勤で東京に戻ってこられたことをきっかけに、兼業ながらも本格的に家主業を引き継いだ。

 「特に力を入れたのが、家賃の滞納対策だった」と本橋オーナーは振り返る。いわく、滞納額は恥ずかしくて言えないほど。そのため、滞納については、サラリーマンの仕事のかたわら、とにかく頻繁に物件へ赴き、滞納者と話すことを心掛けた。また、滞納者には滞納額と支払い履歴の一覧を作って見せ、支払い期限を取り決めたうえで返済計画表を提出させた。一度でも支払いが遅れたら退去するという一筆も取った。徹底的に対面にこだわり、滞納を減らしていったのだ。

 退去後のクリーニングにも力を入れた。業者に依頼した場合でも、自分でもう一度クリーニングを実施。入居まで日が空いた場合は、入居直前にさらにもう一度クリーニングを行うという念の入れようだ。これは、入居時のクレーム減少につながった。また、設備改善により、賃料アップや早期入居、長期入居を実現。築年数の割にきれいという「築年数と現場のギャップ萌え狙い」(本橋オーナー)が功を奏した。家主業の本格化から4年ほどたったころには、法人でも次の物件購入を検討するくらいに経営状態は改善された。

 17年には、ついに専業家主となるべくサラリーマンを退職した。「本橋家の場合はたまたま男が自分だけで、土地は長男が継ぐものだという考えが強く、私が引き継ぐことになった。しかし、男女や生まれ順には関係なく、興味がある人、好きな人・向いている人が受け継ぐのが一番いいと思う。私はたまたま賃貸経営が向いていたのでラッキーだった」(本橋オーナー)

生きるサラリーマン経験

 本橋オーナーが家主業の承継に成功したのには、新卒で就職したハウスメーカーでの注文住宅の営業や、管理会社に出向した際の経験をうまく生かすことができた部分も大きい。特に管理会社では、自分の所有物件だけではなかなか経験できないような〝大クレーム〟を多く担当し、肝が据わった。さらに、オーナー目線を持ちつつ顧客に建築に関する法令の話を説明することもあり、事情が込み入った案件に対応できるという自信もついたという。

 賃貸経営には税金や入居者対応が絡んでおり、〝すてきな注文住宅〟を売ることからは味わえない厚みを感じたという。「マイホームを建てる以上の面白さがある」と話す本橋オーナーだった。

本橋浩オーナーの写真

一般社団法人日本不動産経営協会(JRMA:ジャルマ)前代表理事
本橋浩オーナー(56)
東京都杉並区

 

 

父親から受け継いだのは、知識の大切さと相手への配慮

 新谷耕治オーナー(千葉県八千代市)は、父とともに初めての賃貸物件建築に挑戦しながら賃貸経営を承継した。父から受け継いだ、知識に裏打ちされた対応を重視する姿勢は、今日の新谷オーナーの賃貸経営の礎となっている。

新谷耕治オーナーの年表

父の賃貸経営を手伝う

 新谷オーナーの祖父は農家で、その土地を相続した父は農業の傍ら、土地活用を行ってきた。そもそも父は「貸すこと」自体にいいイメージがなかったのだという。そのため、父の代での土地活用は駐車場と借地だけだった。父が高齢となり、健康上の問題が出てきたことと、相続問題対策のため、新谷オーナーは、39歳で高校教師を退職。父に相続対策を提案するなど承継の準備を進めつつ、土地運用や農業を手伝うようになった。

 その後、区画整理で返却された土地のうちの1区画と、駐車場にしていた土地が、駅近で賃貸住宅向きだったことから、親子は賃貸物件を建てることを決意したのである。

学んだ経営の心構え

 このとき父と建てた物件は、テラスハウス4棟と戸建て10戸。2011年4月に一気に着工し、12年2月に全ての物件が完成。そして翌月の3月、父はこの世を去った。

 父との賃貸住宅経営はかなわなかったが、地主として生きてきた父の姿は新谷オーナーの心に刻まれている。父は法律や税制をきっちり勉強し、借地の地代値上げ交渉の際には、土地の評価額や固定資産税額の変化を基に根拠を示して交渉。土地活用の営業を受けた際には、計画書の問題をすぐに見抜いたものだったという。一方で、「父は知識を盾に相手に対して強い言葉は使わなかった。敵対感情を抱かせないよう配慮していたことが心に残っている」と新谷オーナーは振り返る。

 新谷オーナー自身も、きちんと経営的な視点で取り組みたいとの考えから、宅地建物取引士の資格を取得するなど自己研さんにいとまがない。相手の言葉をうのみにせず、自己判断ができるようにとの考えは、父の影響を受けたものだ。新谷オーナーの賃貸経営には、父の教えが息づいている。

新谷耕治オーナーの写真

新谷耕治オーナー(60)
千葉県八千代市

 

(9月20日10面・11面に掲載)

家主業の事業承継を経験者オーナーが語る②[前編][後編

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