賃貸住宅市場とは ~データで読み解く市場構造と課題~
その他|2021年11月24日
市場の主役は、家主と賃貸管理会社
賃貸住宅市場とは、賃貸住宅を所有する不動産オーナー(家主)と、彼らから賃貸住宅経営に関わる実務を任された賃貸系不動産会社、さらに、不動産オーナーや不動産会社の実務を支えるサービス提供会社や施工会社によって形成された市場を指します。
賃貸住宅は、土地所有者の土地にかかる固定資産税や、将来親が死亡した時に発生する相続税に備える、節税手段として建てられます。建築費で回収見込みの高い有益な負債をつくれば、納税額を決める資産の総額を圧縮できるからです。家主にとっては「建てることが相続税対策」なので、建てた後の賃貸住宅経営に関心を持たない人も少なくありません。
経営実務の所在が異なる、自主管理と管理委託
このような不動産オーナーは、新しい入居者の獲得、家賃の回収、入居者からの陳情対応、建物の清掃・点検といった賃貸経営の実務を、有償で引き受ける不動産会社に任せます。上記の業務を賃貸管理と言い、賃貸管理を専門とする不動産会社のことを賃貸管理会社と言います。賃貸住宅市場の中心にいるのは、不動産オーナーと賃貸管理会社だということができます。
民間の賃貸住宅市場を管理形態で分類すると、不動産オーナーが自ら賃貸管理業務にあたる自主管理のものと、賃貸管理会社に委託されたものとに二分できます。全国賃貸住宅新聞が30年以上続ける調査によると、2020年3月時点の民間賃貸住宅の数は1925万2400戸あり、そのうち47.6%に当たる815万戸がオーナーによる自主管理、52.4%に当たる1010万戸が賃貸管理会社によって有償管理されています。
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賃貸住宅管理業法の成立とサブリース契約への規制
管理委託された賃貸住宅の数は、今も増加傾向にあり、市場における賃貸管理会社の役割も拡大しています。それを象徴するのが、20年6月に成立した「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」、いわゆる賃貸住宅管理業法です。これにより、21年6月、賃貸管理会社を所管する国土交通省に登録制度が創設されました。登録される管理会社の対象には、有償だけでなく無償で管理を行ってきた管理会社も含まれました。
不動産オーナーと賃貸管理会社が交わす有償管理契約の中には、「サブリース契約」という、管理会社に経営の権限を多く移管する形態のものがあります。全国賃貸住宅新聞の調査では、サブリース契約のもと管理された賃貸住宅の数は441万5000戸(推計)で、管理委託された民間賃貸住宅の43.7%を占めています。民間賃貸住宅市場全体に占める割合も、28.2%に達しています。
サブリース契約を巡る不動産オーナーと賃貸管理会社のトラブルは、近年社会問題としてマスコミで取り上げられる機会が増えています。賃貸住宅管理業法には、サブリース契約に関する項目についても記述がされました。この内容はサブリースする不動産会社を規制するもので、1戸のサブリース契約から適用の対象となりました。違反者に対しては業務停止命令や罰金などの措置がとられます。
民間賃貸住宅の数、今なお増加傾向
続いて、毎年市場に供給される、賃貸住宅の新築着工数について見ていきます。上の表は、5年に一度、総務省が発表する「住宅・土地統計調査」の中で、市場に供給された賃貸住宅のストック数について表されているものです。
1973年以降の45年間で民営賃貸住宅の数が大きく伸びたことがわかります。特に増加幅が大きかったのは、2008年~13年までの5年間です。不動産ファンドバブル期に着工した、大型案件が竣工した時期だったからだと予想されます。
新築着工数は相続税制の改正に影響受けやすい
賃貸住宅の着工数は、相続税制度の改正にも大きく影響を受けます。景気の影響が色濃く反映される持家や分譲住宅と大きく異なる部分です。2015年4月の相続税改正では、基礎控除が4割引き下げられ増税となりました。この時期、ハウスメーカーによる「相続税対策」セミナーが多数行われることになりました。
さらに2020年度は19年度よりも着工数が減少することが推測できます。国土交通省が発表した20年4月―6月期の貸家着工数は、前年比12.3%減の7万5682戸でした。過去5年の着工数の傾向からすると、4月―6月期の着工動向は、特殊な事情がない限り、通年の着工動向とほぼ同じです。残り9カ月でこの減少を帳消しするくらい着工数が増加する理由は見当たりません。むしろ、さらに新型コロナウイルスの影響で20年度は経済全般が「7割経済」といわれている状況で、賃貸住宅の建築分野にも影響があるでしょう。
以上のような理由から、20年は前年比13 ~ 14%減少の28 ~ 29万戸、もしくはそれ以上に減少することが推測できます。新築の供給減により、賃貸管理会社大手の管理受託の増加も鈍化するでしょう。
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木造アパートの新築供給、2014年以降鉄筋造を超える
次に、建物構造から賃貸住宅を分類してみましょう。
2014年度から、木造の着工数が鉄筋コンクリート造を上回っています。木造の比率が高いということは、1棟当たりの賃貸住宅の大きさが、縮小していることを意味します。理由として考えられるのは、日本銀行の金融緩和政策により、融資が受けやすくなり、サラリーマン向けに販売される投資用アパートが増えたと考えられます。長年、賃貸住宅を供給するのは、相続対策で建てる土地所有者によるものが大半でしたが、近年は、土地を持たない事業経営者やサラリーマン向けに、投資目的で賃貸住宅を販売する不動産会社によるものが増加し、市場全体のバランスに影響を与えるようになっています。
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賃貸住宅の空き家432万戸、全体の51%
人口は減少しているのに、住まいの供給が増え続けた結果、日本では空き家が増加し続け、新たな社会問題として扱われるようになりました。2019年の「住宅・土地統計調査」では、すべての住居における空き家の数は848万9000戸でした。14年に比べ29万3000戸増加しましたが、5年前の調査時に、62万8000戸増加していたため、増加ペースは鈍化したことがわかりました。
このうち、賃貸住宅の空き家戸数は432万7000戸で、3万5000戸の増加にとどまりました。最も増加幅が大きかった個人住宅の空き家(30万4000戸増)に比べると、歯止めがかかったと言えます。
2015年以降、増加スピードは鈍化
空き家について、世間が注目するようになっ14年の「住宅・土地統計調査」では、空き家数が800万戸を超え、空き家率も13.5%となりました。これを受け、政府は15年に「空き家措置法」を施行し、老朽化した空き家を放置し自治体の要請に応じず措置しなかった場合、自治体の判断で強制的に空き家を解体できるようにしました。
空き家というと戸建てのイメージもありますが、半数以上を賃貸住宅が占めます。賃貸住宅の場合、経営管理者がいるため放置されにくいはずですが、対策が必要な状況です。
空き家がもっとも多いのは東京都
都道府県別で空き家数が多いのは、東京都です。住居全体で81万戸、そのうち、賃貸住宅は67万1100戸で、8割を超えています。人口が多いため、空き家が少ないイメージもありますが、実態は賃貸住宅の供給が多いために、増え続けています。
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