コロナ禍の賃貸市場の影響は?エリアルポ~佐賀編~

イーグルハウス,栗原不動産,富士,駅前不動産

管理・仲介業|2022年02月24日

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 新型コロナウイルス下における日本各地の賃貸マーケットを探る「エリアルポ」。今回は人口が80万4592人(1月1日現在)と九州で最も少ない佐賀県を取り上げる。県内人口上位の佐賀市、唐津市、鳥栖市に拠点を置く仲介・管理会社や地元のオーナーに話を聞いた。

建材高騰で新築賃料5000円上昇

駅前不動産、来日めど立たずキャンセル続出

 グループで管理戸数1万6000戸、佐賀市内で2000戸を管理する駅前不動産(福 岡県久留米市)は、年間8%ずつ増加していた賃貸仲介件数がコロナ下で横ばいとなった。

 佐賀市内にある佐賀大学がオンライン授業を実施した影響で、毎年2月の入試日に来店する受験者とその保護者が減少。佐賀市内の学生の成約件数はコロナ前の2019年比で半分ほどになっている。22年の学生動向については2月下旬の試験日を見守る。

 一方、県西部にある武雄市での外国人労働者を雇用する企業の法人契約は、21年1〜3月にキャンセルが相次いだ。8件の依頼があった市内の店舗では、外国人労働者の来日のめどが立たず、すべてキャンセルとなった。

 佐賀市内の管理物件に関しては、コロナ前と変わらず入居率95%を維持している。一般、法人といった入居者層の傾向に大きな変化はなかった。

 在宅時間の長期化で、佐賀市内においても広めの賃貸住宅の需要が伸びると同社ではみている。市内で大手ハウスメーカーが現在建築している専有面積1LDKで50㎡以上の広さを確保した賃貸住宅の内見が増え、特に医療関係者といった高所得者からの人気が高い。勝田秀子佐賀エリア賃貸マネジャーは「家賃は10万円超えと周辺相場より2倍ほど高く設定されており、エリアの家賃相場に影響を与えている」と語る。

 同社が管理する19年3月に竣工した佐賀市内に立つ広さ16畳のリビングが特徴の賃貸住宅も満室が続く。1棟3戸の2階建て長屋は専有面積が90㎡ほどあり、広々とした3LDKの間取りが好評で、子育て世帯らが入居しているという。

 JR長崎本線「佐賀」駅周辺では、商業施設「JAファーマーズ Aコープ 街かど畑」が20年6月にオープン。利便性の向上から、大手ハウスメーカーの賃貸住宅の開発も加速している。

佐賀駅周辺の街並み

佐賀駅周辺の街並み

 勝田マネジャーは「ここ数年間で建て替えや宅地の開発が進み新築が増えた印象だ。賃貸住宅が供給過多になる中で、当社では既存物件のリフォーム提案を強化し、管理物件の競争力を高める対策を取る」と語る。

≪佐賀市の賃貸住宅市場≫
1月31日現在で、人口は23万144人。23万4591人だった17年と比べて4447人減った。一方、世帯数は10万2354世帯で、17年の9万8230世帯から4124世帯増えている。市内には国立の佐賀大学があるほか、近年商業施設が建った佐賀駅周辺の開発が進む。

 

富士、30世帯の給付金社員が申請支援

 唐津市で2492戸を管理する富士(佐賀県唐津市)は、コロナの感染が拡大した20年春から夏にかけて、管理物件に住む約30世帯が住居確保給付金を申請し、申請書類の記入手続きに対応した。

 申請者は、労働時間の短縮を余儀なくされたパート世帯や、感染のリスクから出勤日数を減らし収入減少となった世帯が目立った。同社では勉強会を開き、申請に必要な手続きの方法などをスタッフに教え、当時混み合っていた自治体の窓口に代わって申請を希望する入居者をサポートした。

 管理する店舗については、緊急事態宣言下で客足が減った飲食店の経営者らが賃料減額をオーナーに交渉する姿が見られた。3〜6カ月間、10〜20%の賃料減額に応じた案件もあった。

 21年の賃貸仲介件数は400件とコロナ下で影響はなかった。ただ、例年2〜4月上旬までを繁忙期としていたが、21年は20年12〜21年5月までに長期化するなど、顧客動向の変化が見られた。

 集客を維持できた一因としては、コロナ下で予約制を取ったり来店人数を制限したりする他社の仲介店舗が増え、来店や内見日の都合が合わなかった部屋探しをする顧客が、コロナ前と変わらず飛び込み来店に対応する営業体制を続けてきた同社に流れた背景も考えられるという。同社では来店時にアルコール消毒や検温を行っているほか、仲介拠点を2店舗に増やし、店内が密集状態にならないように感染防止対策を行っている。

 社会情勢が変化したコロナ下で将来の生活資金に不安を抱き、賃貸経営を検討する来店者もいた。ただ、預金が少ない投資初心者には地元の金融機関の融資の審査が下りにくい状態が続く。

 今後の唐津市の賃貸住宅マーケットについて生駒明子社長は「市内東部の鏡・浜崎エリアはスーパーやドラッグストアが増え、利便性が高く賃貸需要が見込める。ただ、大手ハウスメーカーの建築が盛んな状況もあり、数年後には市内全域で物件の飽和状態が予想される」とみる。

富士 生駒明子社長の写真

富士
佐賀県唐津市
生駒明子社長(51)

 

 

栗原不動産、法人契約堅調で仲介に影響なし

 唐津市で670戸を管理する栗原不動産(佐賀県唐津市)は、安定した法人需要と、顧客のニーズが高まった非対面接客やオンライン集客に力を入れたことで、客足がコロナ前と変わらず、仲介件数も例年並みだった。

 年間450件の成約がある同社では、一般客が7割、法人が3割を占める。法人契約は、製薬会社、九州電力玄海原子力発電所やその関連企業、半導体部品製造の大手企業の事業所に勤める人が多い。コロナ下で打撃を受けにくい業種だったこともあり、法人契約が堅調で成約件数に影響は見られなかった。

 管理物件に関しては、コロナの感染が拡大した20年夏ごろに、住居確保給付金を申請する入居者が数人いた。飲食店やパチンコ店の勤務者が目立ち、同社では申請書類の記入に対応。また、家賃の支払いが厳しくなったためか、20〜30代の単身者が退去し、実家に戻る事例もあったという。

 入居率は94% と好調だ。管理物件には、感染がはやり始めた時期に全18戸のリノベーションが完了した築30年の物件があったが、22年2月に1戸退去したもののコロナ下で満室を維持した。また、3月に竣工予定のビルトインガレージが付いた新築6戸も現在5戸が成約するなど、長時間過ごす住居にこだわる入居者が増えているようだ。

 唐津市内の賃貸市況に関して、井上紗矢香マネジャーは「ここ数年で、唐津赤十字病院が規模を拡大してリニューアルしたほか、早稲田大学系属の中高一貫校も開校した。街の利便性が高まるなかで当社も街づくりに寄与していきたい」と語る。

≪唐津市の賃貸住宅市場≫
2月1日現在で、人口は11万8241人。12万4939人だった17年から6698人減った。一方、世帯数は5万915世帯で、17年の5万284世帯から631世帯の微増。市内には九州電力の営業所があるほか、福岡県に隣接する東部に住宅や商業施設が集中する。

 

イーグルハウス、まん防で客足減内見せず様子見

 九州北部で5店舗を展開するイーグルハウス(福岡県朝倉市)は、鳥栖店の仲介件数がコロナ前と変わらず年間300件程度を維持。コロナ下では平日にも一定の来店があるなど、店舗が混み合う土・日曜日を避けて部屋探しを行う顧客動向が見られるようになった。

 オミクロン株の感染拡大に伴い、1月27日からは佐賀県全域で「まん延防止等重点措置」が適用イーグルハウスまん防で客足減内見せず様子見された。この影響から、繁忙期を迎えているが、2月に入り客足が鈍くなっている。営業部の黒木洋太店長は「問い合わせはあるものの、来店や内見につながりにくくなった印象だ」と話す。

 鳥栖店の顧客は、一般が6割、法人が3割、学生が1割。法人契約はコロナ下でも影響がなく、地元に営業所がある製薬会社や物流事業を行う企業に勤める会社員らに例年どおり対応した。

鳥栖市内の景観

鳥栖市内の景観

 学生については、入国が制限されたことで、年間20〜25件あった鳥栖市内の日本語学校に入学する学生の来店がなくなった。現状は、日本語学校を卒業し、進学や就職を機に住み替える外国人のみへの対応が中心だ。

 鳥栖市内における賃貸住宅の開発に関して、黒木店長は「21年はここ数年と比べてハウスメーカーの開発が少なかった」と語る。築20年以上の物件に空きが目立つほか、賃貸住宅が飽和している市内の状況が一因だとみる。

 市内の管理物件350戸の家賃帯は1LDKで5万5000〜6万5000円。2LDKで6万〜7万円。ウッドショックによる木材の高騰や、物件の競争力を高めるべく設備を充実化した新築の増加で、2 〜3年前と比べて5000円ほど上がっているようだ。

≪鳥栖市の賃貸住宅市場≫
1月31日現在で、人口は7万3937人。7万2788人だった17年と比べて1149人増えた。世帯数も増加し、17年の2万9779世帯から2352世帯増え3万2131世帯となっている。市内には九州新幹線「新鳥栖」駅があり、九州各都市へのアクセス面が良い。

 

収益物件の買い増しを断念

 佐賀市や佐賀県内郡部を中心に賃貸住宅70戸を所有する江口幹男オーナー(佐賀県白石町)は、現在5戸が空室となっている。2月に入り、家賃の支払いが経済的に見込めなくなった介護の専門学校に通う学生と、転勤による会社員の退去が数件あった。それまではコロナ下でも満室に近い状態だった。

 佐賀市や佐賀市に隣接する神埼市などには法人契約している物件が10戸ある。そのうちの数戸で自動車整備の会社で働く外国人労働者を受け入れており、コロナ下では外国人の入国が見込めないまま法人が10カ月間空室のまま契約し続ける物件もあった。同物件は現在リフォームを行っており、入居者募集を行う予定だ。

 収益物件に関しては、毎年1棟ずつ増やしてきたが、21年は購入を断念。市場の収益物件の流通が少なく、購入の条件とする立地、利回り、外観と室内の見た目などを満たす物件がなかったことが理由だ。

 佐賀市内の賃貸住宅について江口オーナーは「新築の供給が進む中でオーナーの高齢化により、管理が行き届いていない物件は空室がより目立つようになるだろう」と語る。

江口幹男オーナーの写真

佐賀県白石町
江口幹男オーナー(56)

 

(2022年2月21日9面に掲載)

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