新型コロナウイルス下の賃貸マーケットをレポートする本企画。今回は人口153万7929人(2月1日現在)の神奈川県川崎市を紹介する。東京都と神奈川県横浜市の間に位置する川崎市は、ベッドタウンでありながら就業人口も多く、人の流れが活発なエリアだ。川崎市中原区、高津区、多摩区を商圏とする四つの不動産会社とオーナーを取材した。
≪川崎市の賃貸住宅市場≫
神奈川県の北東に位置し、横浜市に次いで人口の多い市。世帯数は75万3967世帯。賃貸住宅は34万6900戸で、賃貸の空き家は4万6500戸。2030年代まで人口増が予測されている。(戸数は総務省統計局「平成30年住宅・土地統計調査」による)
ファミリー物件人気で賃料1万円向上
エヌアセット、3LDKの物件一部で供給不足
管理戸数3755戸のエヌアセット(神奈川県川崎市)は、コロナ下で外国人の退去者が増加しつつあるが、ファミリー向け物件は好調で賃料を1万円程度上げても入居が決まり、供給が間に合わない状態だという。
同社の商圏は高津区を中心とした川崎市中部。高津区では入居者属性は都内に勤める単身社会人が多いが、宮前区ではファミリーが多い傾向だという。物件の特徴はワンルーム・1Kがメーン。単身向け物件の平均家賃は7万円台。
コロナによる影響として、2021年繫忙期以降、特に3LDKの人気が続いている。それまで住んでいた物件より部屋数を一つ増やすカップルやファミリーが多く、賃料を8000〜1万円上げても成約する。住み替えは市内外問わずあるが、22年繁忙期は都内や地方からの流入の方が多いという。
また、20年は外国人入居者が全契約の約2割を占めていたが、21年は継続するコロナによる影響で帰国者の退去が増えた。オミクロン株の拡がりにより、22年の繫忙期は21年に比べ集客に苦戦しているという。
コロナ下での収益不動産の動向について、同社のグループ会社で不動産投資コンサルティングを行うエヌアセットBerry(ベリー:同)によると、物件購入者は資産家層が中心となり、好立地の新築や、節税向けの中古物件への人気が高いという。一方でサラリーマン投資家の層は区分マンションや郊外アパートなどの小ぶりな物件や小口化商品などにシフトしているようだ。
宮川恒雄社長は「高津区は人口や世帯数が増えており、しばらく賃貸マーケットも好調と予想している。この間に苦戦している物件の差別化に注力していきたい」と話した。また、溝の口エリアの魅力を高めるため、住宅だけでなくコワーキングスペースや保育園を運営しており、今後も新規事業も進めていく予定だ。
エヌアセット
神奈川県川崎市
宮川恒雄社長(50)
ジェクト、都心からの移住20年比1.5倍増に
川崎市内で約4000戸を管理するジェクト(神奈川県川崎市)では21年秋に都心からの住み替えによる成約数が20年より1.5 倍ほど増えた。特に物件の広さや日当たり、高速インターネット設備を求める入居者が増えたという。
商圏は川崎市中原区を中心に高津区、宮前区、幸区。入居者属性は全体では単身・ファミリーが約5割ずつ。DINKSや結婚前の入居者が多く、退去の理由は持ち家購入が約4割を占めている。
ジェクトの本社外観
中原区をはじめ川崎市はIT系の大手企業の拠点となっていることや都心へのアクセスが良いことから若手のビジネスマンが多いという。物件数は1Kが全体の5割、次いで2DK、2LDK、1LDKとなる。2LDKは人気で、常に満室に近い状態を保っている。平均家賃は単身で7万円後半〜8万円前半。
コロナの影響として、20年4月の緊急事態宣言時には営業を短縮したため成約数が落ちたが、5月には回復。21年秋のコロナが落ち着いた時期には都心からの住み替えで都心近郊である川崎市内の物件を探す顧客が1.5倍ほど増加。同社では新規物件の募集と重なったこともあり、繁忙期並みの忙しさになったという。
IT関係の入居者の在宅勤務が増えていることから、高速インターネット設備への要望が増え、今後の課題となっている。安定した収入がある入居者が多いこともあり、コロナ下の家賃相談はなかったという。
同社不動産部の戸叶哲取締役は、「川崎市は今後も人口や世帯数が増えると予想されているため賃貸市場として有望なエリアだ。一方で、1Kは大手企業の若手社員を見込んで、過去に多く供給されていたため、今後供給過剰になってくる可能性がある」と話した。
同社の強みは空室対策だ。現在の入居率は97%で、退去後3カ月以上の長期空室は4戸のみ。仲介スタッフが一件一件についてステージングやリノベーションなどの方法で対策を練っている。
今後、オーナーからの相談解決のためのコンサルティング機能を一層強化し、中古のリノベーション売買仲介事業にも注力していく。
ジェイエーアメニティーハウス、転居理由は結婚 住み替えが増加
神奈川県全域で2万1504戸、川崎市内で3257戸を管理するジェイエーアメニティーハウス(神奈川県厚木市)では、コロナ下で神奈川県内や川崎市内でのカップル・ファミリー層の転居が増加、2LDK、3LDKを中心とするファミリー向け物件の入居が築古でもすぐに決まるという。
川崎市内での商圏は、多摩区を中心に、高津区、中原区など川崎市全域。入居者はカップル・ファミリーが約80%を占め、単身は約20%。管理物件も2LDKが多く、カップルでも在宅勤務の影響からか1LDKではなく部屋数の多い2LDKの部屋が人気だという。物件の平均家賃は多摩区で約9万5000円だ。
コロナによる影響はほとんどなく、2020年4月に関しては入退去の動きが少なかったこともあり、入居率は大きく変わらず98.5%を維持している。特にファミリー物件は人気で、築10年を超える3DKの物件でも家賃を約2000〜5000円上げても入居が決まるという。
また、都心からの住み替えもあるが、神奈川県内もしくは川崎市内の転居の方が多い印象で、その理由は結婚が多いという。多摩区にある小田急線「登戸」駅は新宿まで約20分という利便性がある。また「生田緑地」という大型の都市公園があることから子育て世帯からも人気なエリアだ。
同社横浜・川崎営業所の内堀有二所長は「今後も川崎市への人口流入は増え、賃貸マーケットも変わらず安定していくと予想している。30年以降は人口減少が正念場となるが、都心からのアクセスの良さを生かし、今後も管理事業と仲介事業の連携を図りたい」と話した。
ストーンズ、部屋数志向など希望条件に変化
川崎市を中心に3770戸を管理するストーンズ(神奈川県川崎市)ではコロナによる都心からの住み替えが1〜2割ほど増え、物件の希望条件に広さや部屋数、眺望などを求める声が増えたという。
同社の商圏は川崎市高津区を中心とし、東急田園都市線沿線。入居者属性の5割ほどが単身社会人で、3〜4割がカップル。ファミリー層は少なく、学生と外国人がそれぞれ1割弱だ。それに伴い物件はワンルームや1Kが多く、1LDKなど二人入居物件も増えている。単身向け物件の平均家賃は7万円前後。
高津区の中心駅は同線「溝の口」駅。「渋谷」駅までは約15分で行くことができ、羽田空港にもアクセスしやすいエリアだ。二子玉川には楽天(東京都世田谷区)の本社があることから、外国人ビジネスマンの部屋探しニーズも増えている。
高津区にある溝の口駅前
コロナによって在宅勤務が増え、広さや部屋数にこだわる顧客が増えた。家からの眺望や、家の近くにコンビニがあることなど、生活の拠点が家になったことで物件に求めるものが変化してきているという。
入居率は97% を維持し、コロナ下でも大きな変化はなかったが、21年の東京オリンピック後は住宅購入のため退去する入居者が目立った。在宅勤務の定着で郊外に転居する人の増加が影響したものと予想する。
同社の正木大取締役は「コロナ下で都内中心地から離れた物件を探す人が増えている中で、川崎市の高津区は都心へのアクセスも良く家賃も高すぎない点で優秀なエリア。入居率を維持し、特に単身向けの安価な物件の稼働のためリノベーションなどで差別化を図りたい」とコメントした。
シェアハウス物件の空室顕著
川崎市内で3棟92戸を所有する長戸隆彦オーナー(神奈川県川崎市)は、コロナの影響で全65室あるシェアハウスの5〜10室が空室になったという。一方、ファミリー物件は好調で、オーナー自らバリューアップのためのリノベーションを実施。また、町内会に参加し、行事などを通じて入居者との交流を図り、高い入居率を保っている。
所有物件は全て川崎市中原区内にある。メゾネットタイプの2戸、2LDK・3LDKのファミリータイプが25戸、65室のシェアハウスの全3棟だ。平均家賃はシェアハウスが約6万円弱、ファミリー向けが約11万5000〜13万5000円。
コロナによる影響として、21年からシェアハウスの退去者が増えた。フリーターや飲食店勤務の入居者の退去に加え、入国規制の影響で外国人の入居も少なくなっている。入居者同士のコミュニケーションが魅力のシェアハウスだが、活気のない状況が続いているという。
一方でファミリー向けの2LDK、3LDKの物件は満室稼働。退去の際にはバリューアップをオーナー自ら行い、2000〜3000円の賃料アップをしても入居が決まる状態だ。中原区はカップルや新婚が転居する場合が多いという。公園も多く、子育てしやすい街であるため、今後も若いファミリー層からの人気が高いと予想する。
長戸オーナーは「川崎市は郊外需要にも対応し、今後も好調と予想している。ほかの物件との差別化を図るため、サウナテント付きでアウトドアが楽しめる賃貸を考案するなど、さまざまな工夫を考えている」と話した。
長戸隆彦オーナー(46)
神奈川県川崎市
(2022年2月28日9面に掲載)