各エリアにおける賃貸住宅マーケットの新型コロナウイルス下での影響を探る本企画。今回取り上げる千葉市内はJR総武線が新宿などの都心部と直通しており、交通の利便性が良く、都内よりも賃料相場が安価なことから、コロナ下の郊外需要で人気が高まりつつあるようだ。
千葉市、ゴルフ目的にに拠点居住
丸一土地建物、郊外需要伸びしろ セカンドハウスへ
管理戸数2900戸の丸一土地建物(千葉市)では、同社が所有する郊外の物件をセカンドハウスとして契約する動きがあった。最寄りのJR総武線千葉駅から車で20分の場所に立地する物件に、都内に持ち家を持つ60代の夫婦が入居した。大手企業の管理部門でデスクワークが基本のため、テレワークをしつつ、趣味のゴルフの時間も取りたいといった希望があり成約したという。東京都目黒区に持ち家があり、千葉市の物件をセカンドハウスとして利用している。
関輝夫社長は「主に、週末などに県内のゴルフ場に行くことが目的だという。千葉県にはゴルフ場がたくさんあることから流入してきたと聞いた」と話す。
直近1年間での郊外需要による移動や賃貸契約は2件のみだが、同社ではこれまでなかった動きのため、コロナ下でテレワークが普及したことが背景にあると考えている。
「テレワークができることが前提のため、通信環境の整備は必要だが、それさえ整えられれば郊外需要は伸びしろがあると感じている」(関社長)
丸一土地建物
千葉市
関輝夫社長(66)
三幸商事、ハウスメーカーの建設ラッシュ続く
管理戸数3000戸の三幸商事(同)では、コロナによる賃貸仲介・管理での大きな変化はない。だが20年末より同社の商圏内であるJR京葉線蘇我駅周辺賃貸物件の建築ラッシュが続き、その物件のリーシングを委託されていることから、21〜22年にかけて19年と比較し賃貸仲介件数が50〜60件ほど増加する見込みだ。年間の賃貸仲介件数は370件ほど。
20年末ごろから、蘇我駅から徒歩5分圏内の立地で、積水ハウス(大阪市)が建築する賃貸マンションの竣工が相次ぎ、直近の1年ほどで5棟が竣工。三幸商事は同エリアの積水ハウス建設の賃貸マンション全5棟の入居者募集を専任で委託されている。
委託された物件の戸数は1棟6〜30戸ほど。間取りは1Kや1LDK、2LDKで、20代後半〜30代半ばの単身者、カップル、新婚、幼い子どものいるファミリー層などが入居に至っている。
現在建設中の物件もあることから23年春ごろまでは積水ハウスからのリーシングの委託業務が50戸程度発生する見込みだ。
蘇我駅エリアで賃貸マンションの建築が相次いでいるのは、都内へのアクセスが容易で利便性が高く、都内よりも同程度の家賃で広い部屋に住むことができるためであると考えられるという。
賃貸管理部の堤千壽子部長は「JR京葉線は東京駅も路線上にあり直通で向かうことが可能。また、例えば15万円の家賃であれば都内では1LDKの物件が相場だと思うが、蘇我駅周辺であれば3LDKを選べる」話す。
【中央区の賃貸住宅市場】
人口数:21万2245人 世帯数:11万778世帯 千葉駅周辺にはオフィスビルなどが並びホワイトカラー系の業種が集まる。
ランドトラスト、低家賃物件に需要感染回避で流入
管理戸数6000戸のランドトラスト(同)では、20〜21年のコロナ下において、管理物件の入居率を96%で維持した。コロナ感染をおそれた層が流入してきたとみる。
同社は関東や中部、関西エリアを商圏とする。千葉市内の管理戸数は200戸ほどだ。
住み替え先としてニーズが目立ったのは千葉市花見川区に位置するJR総武線幕張本郷駅を最寄り駅とするエリアだ。同線沿いの津田沼駅などの習志野市エリアからの住み替えがあった。
幕張本郷駅周辺の賃貸物件は同じ沿線の津田沼駅周辺よりも家賃相場が6000円ほど安い。そのうえ総武線沿いは新宿駅など都内へ乗り換えなしで向かえるため交通の利便性は維持できる。
コロナ下の直近2年間で都内からも同エリアの管理物件に住み替えがあり、その理由について、佐々木知彦取締役は「コロナ感染を回避するため、東京を出たという理由が多いのではないか」と推測する。
同社サブリース、管理物件は平均築年数が30年以上で、最寄り駅から徒歩17分以上の物件が多く家賃は単身者向けで3万3000円ほどだという。佐々木取締役は、「家賃も周辺の最低家賃に合わせているおり、都内からの流入層にも訴求しやすく、賃貸仲介会社全体が一時低迷した20〜21年も入居付けにハードルを感じなかった」と話す。
【花見川区の賃貸住宅市場】
人口数:17万6844人 世帯数:8万2127世帯 JR総武線幕張本郷駅を含む。1980年ごろに賃貸住宅が多く建ち、築古物件が多くなっている。
明日香ホーム、法人ニーズ低迷も21年から回復基調
管理戸数750戸の明日香ホーム(同)では、20年に法人ニーズが落ち込んだものの、21年から22年にかけて徐々に回復傾向にあるという。
同社は千葉市稲毛区に拠点を置き、千葉県内を足場に賃貸管理・仲介を行う。グループ会社に家主業を行う明日香サービス(同)があり、グループ全体の売上高は2億円。
年間173件の賃貸仲介を行い、そのうち法人が約1割を占める。特にイオン(同)や県内にある山崎製パン(東京都千代田区)の工場への転勤による法人需要が目立った。
コロナ前は20件あった法人契約がコロナの流行が広がった20年に途絶えた。吉田明社長は「各社で転勤控えの動きがあったのでは」と推測する。
21年ごろから法人需要は徐々に回復基調に乗り、22年1〜2月には10社で10件の法人契約があった。関西エリアから転勤者などがいたという。
また、通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するZOZO(ゾゾ:同)の本社が同社の商圏内である稲毛区内に21年に完成しており、同社関係者の今後の賃貸需要を期待している。
明日香ホーム
千葉市
吉田明社長(80)
【稲毛区の賃貸住宅市場】
人口数:16万7725人 世帯数:7万5655世帯 21年にZOZOTOWNの本社が完成。社員の賃貸需要が見込める。
単身者が2LDK入居
千葉大家倶楽部(千葉県印西市)に所属する伊藤陽介オーナー(愛知県名古屋市)の所有するバス便立地のファミリータイプの物件に単身者が入居した。テレワークで都内への出社が減少し、交通の利便性を住居に求めなくなったことが成約理由だという。
伊藤オーナーは埼玉県と千葉県に3棟30戸と区分2戸を所有しており、単身者の入居が決まった物件はJR総武線稲毛駅からバスで8分程度の場所に位置する「西小中台団地23号棟」の一室だ。間取りは50㎡の2LDKで、家賃は5万3000円。伊藤オーナーは「カップルや幼い子どものいるファミリー層の入居を想定していたので意外なニーズだった」と話すが、単身者の入居が21年6月ごろに決まった。
入居者は都内の企業に勤務している30代男性で、デザインや設計を生業としているという。元々は同県市川市にあるJR総武線市川駅の駅近物件に住んでいたが、テレワークの導入により出社が大幅に減ったことが住み替えを決め手となった。住居の広さを重視し、同物件への入居を決めたという。
(2022年5月2日・9日10面に掲載)