メンテナンス主任者資格は実務に生きる? 日管協塩見会長に 設立の背景を聞く
法律・制度改正|2023年08月27日
(公財)日本賃貸住宅管理業協会(以下、日管協)が、今年度中に「賃貸住宅メンテナンス主任者認定制度(以下、メンテナンス主任者)」と呼ばれる新たな資格制度を創設します。賃貸住宅の設備管理をはじめとするハード面の知識を身につけるための資格として、注目を集めています。メンテナンス主任者が管理会社の実務にどのように生かせるのか、取材しました。
【目次】
・メンテナンス主任者とは
・メンテナンス主任者、なぜできた
・メンテナンス主任者資格者は何ができるか
メンテナンス主任者とは
メンテナンス主任者は、賃貸住宅の建物面の知識を体系的に学ぶことを目的とした資格です。日管協が主催する新たな資格制度で、11月の試験開始を予定しています。
同制度では、オーナーや入居者から物件に関する問い合わせが入った際に、連絡を受けた担当者が一次対応と修繕に関する各所への連絡まで対応できるレベルの知識付けを目指しています。賃貸物件に関する基礎的な知識の底上げを、賃貸業界全体の取り組みとして位置付けています。
想定する資格取得者は、主に管理会社の現場担当者や新入社員です。またそれだけではなく、建物巡回のアウトソーシングサービスを提供している企業の担当者やコールセンタースタッフなど、オーナーや入居者から物件に関する問い合わせを受ける人が全て対象となっています。
日管協の塩見会長はインタビューで「管理会社としては、オーナー、また入居者の方に、安心安全を提供しなければならない立場だ。建物の設備の少なくとも基礎的なことが分からないといけない。そういった思いからメンテンナンス主任者資格の創設がはじまりました」と語っています。
▶︎▷日管協、建物管理の資格創設
▶︎▷ 塩見紀昭会長 インタビュー
メンテナンス主任者、なぜできたのか
メンテナンス主任者ができた背景として、2021年に起きた東京・八王子のアパート崩落事故があります。某建築会社が施工した木造2階建てアパートの外階段が崩落し、入居者が死亡しました。物件に施工不備があったとして、賃貸業界に衝撃を与えました。その後の調べでは、管理会社の点検不足もあったと指摘されています。こうした事件を、塩見会長は「きちんと検査をしていれば、あんな大きな事故にはならなかった。結局どうなったか分からないまま、責任の所在もはっきりせず、作った施工会社も倒産して、そんなことがあっていいのかと思った」と話しています。
また、物件に関する知識を身につけるための教材や習慣が、これまで賃貸業界になかったことも理由の一つです。管理会社の物件を担当する社員は、とにかくOJT(オンザジョブトレーニング)によって業務を学ぶことが常態化していました。そのため、知識が極端でまばらになってしまう傾向にあります。こうした現状から、網羅的な知識提供の機会を設けて、大きな物件事故を未然に防ぐ必要があるとして、メンテナンス主任者を創設しました。
▶︎▷則武地所 新たに6棟の不備発覚
▶︎▷階段崩落事故のその後
【メンテナンス主任者資格者は何ができるか】
日管協が発行した賃貸住宅メンテナンス公式テキストでは、資格取得者として行う業務を下記の通りに示しています。
①入居者からの不具合連絡をみずからの知識に基づき正確に聞き取ることができる
②外注先の専門家と知識レベルで同等の会話を行うことができる
③修繕に関してオーナーへ正確な報告と対応策を報告することができる
④定期建物点検を正確に行うことができ、不具合を発見・報告出来る
これらの業務を適切に行うことが可能となります。管理会社では入居者から設備不良のクレームが入った際に専門の業者に依頼する業務が発生します。この時、単純に専門事業者につないだ場合と、一時的にでも担当者が状況を分かった上で事業者につなげることでは、大きな違いがあります。現状理解ができれば、電話口でも「ここを見てください」と伝えて直ることもあります。メンテナンス主任者の資格取得者は、現場の担当者が適切に業務を遂行できるでしょう。
以上が、メンテナンス主任者の主な内容です。2021年に施行された賃貸住宅管理業法により、賃貸管理業が独立した事業として確立されました。メンテナンス主任者は、建物管理の観点からアプローチしており、BM領域を賃貸管理業の中でも重要な業務として位置付けています。今後の賃貸管理業の行末を示す指標の一つとなるでしょう。