家賃債務保証会社に聞いた、家賃集金・滞納対応業務の実態
統計データ|2023年09月14日
家賃債務保証会社(以下、保証会社)の家賃集金・滞納対応業務の実態を全8社に取材しました。すると、家賃回収の初動対応や家賃回収方法には、各社に違いがあることが見えてきました。保証会社が大きなリソースを割く督促業務と、滞納者への訪問業務のポイントについて、保証会社の注目される取り組みを解説します。
そもそもどのくらいの件数、家賃滞納が発生し、保証会社のマンパワーが割かれているのか
■家賃滞納および回収の実態
滞納発生率は、各社の保有契約件数に対して滞納が何件あったかを計算したもので、1〜2%台と7〜8%台で二極化。代理店である不動産会社によって滞納発生率が大きく異なるとの声も上がっています。ある地場系の保証会社では、地盤のあるエリアでは不動産会社に1番手として利用してもらえるので滞納率が低くなりますが、新規に出店したエリアにおいては、2番手、3番手となってしまいます。その結果、入居者の属性が変わってくるため、滞納発生率が跳ね上がることがあるそうです。
滞納のうち、明け渡し訴訟に至る割合を表した「明け渡し訴訟の発生率」の比較については、少ないところで0.1%、多いところで2.7%でした。各社、明け渡し訴訟になる件数自体には大きなズレがなく、発生件数は月に5件ほどです。
各社が督促業務にどれほどのマンパワーを割いているかを把握するため、全社員数に対する、督促業務従事者の割合を比較したところ、少ないところで20%、多いところで65%。平均すると30%ほどの人員を督促業務に投入していました。保証会社の仕事において、督促業務が一定のボリュームを占めていることがわかる結果となりました。
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保証会社の督促業務の体制は?
対応はどのように行っているのか
■督促業務における注目すべきポイント
ポイント01 初月滞納者への対応方法
初動対応は、ショートメッセージサービス(SMS)の活用が基本ですが、SMS単体で行う、SMSと架電を併用して行うなど、対応の仕方は保証会社によってさまざまです。架電についても、自動音声対応のパターンと担当者が直接電話をかけるパターンに分かれました。自動音声のオートコールは、実務で生かしている企業もありましたが、実験的に試してみて回収率が上がらなかったため、やめた会社が2社。SMSに加えて郵送で知らせるケースも見受けられましたが、SMSを送らず、すぐに電話をかけている会社も1社ありました。
ポイント02 滞納者へのアプローチ方法と情報収集のポイント
滞納者の大半はうっかり滞納した人や滞納に気付いていない人が占めるため、最初はSMSでアプローチする傾向が見られます。それだけで2割ほどの回収が見込めるそうです。中にはSNSの通知だけで5割回収できるという会社もありました。最初から電話をかけると、保証会社がかなりのマンパワーを割かなければならなくなるため、まずはSMSを送ります。それで回収できなかった滞納者に電話をかけ、滞納の理由や支払いのめどはいつ立つかなどをヒアリング。今後の回収の方向性を定めていくそうです。回収に関しても、入居者の状況を見つつ、何日の何時と期限を設定し入金に向けて動くように促しているケースもありました。
電話をかける時間帯も回収率を上げる上でのポイントの1つです。ある保証会社は午前12〜午後1時までのお昼休みの時間帯と、午後5時以降のつながりやすい時間帯に絞ってかけているとのこと。さらに、代理店である不動産会社の定休日で、問い合わせの少ない水曜日に集中してかけるなど、各社、電話をかける時間帯も工夫を凝らしていました。
ポイント03 2〜3か月、滞納が続いた入居者への対応
長期化する滞納者への対応は、基本的に、電話を継続。つながらなくても、ひたすら電話をかけ続けるとのこと。1度は話ができたものの、2回目以降に本人とつながらなくなった場合は、緊急連絡先や勤務先に電話をします。それでも難しい場合、滞納者の自宅に訪問するという流れとなります。
督促業務の組織体制にも違いがありました。1回目の電話は本社のコールセンターで一括して行い、滞納2〜3カ月目に入ったら、現地のエリア担当者に引き継ぎ、担当者が電話をかけ入居者とコミュニケーションを取るという会社もありました。コールセンターを持たず、拠点ごとに初動から電話をする会社も一定数存在します。
■訪問業務における注目すべきポイント
訪問業務における注目すべき四つのポイントを解説する。
(1)対象の選び方
滞納者の自宅を訪問する際の対象者の選び方は大きく分けて二つ。一つ目は、電話で連絡がつかず、相手がどのような状況かわからないケース。何度連絡しても電話に応答してくれなかったり、電話番号が使われていないというアナウンスが流れたりする場合が挙げられます。そもそも滞納者が携帯電話を持っていないこともあるそうです。
二つ目は、早めに訪問してリスクを回避したいケース。ある会社は、高齢者や生活保護受給者、外国人らに対しては、連絡が取れなければ1カ月目でも訪問を実施します。高齢者ら、孤独死のリスクがある入居者は、安否確認の意味合いもあります。外国人の場合は、契約者が他人に部屋を貸して、実際の居住者が変わっていることがあるため、物件の状況を確認する意味合いが大きいとのことでした。
②担当するのは誰か?
会社によってさまざま。初動から現地訪問までエリア担当者が対応するところもあれば、代理店開拓の営業スタッフに任せたり、外部委託したりしている会社もありました。
③訪問したときのチェックポイント
各社、現地訪問は、実際に居住実態があるのかないのかを把握する、現地調査の意味合いもあるそうです。明け渡し訴訟のときに、居住実態の有無を裁判所に提出する書類に記す必要があるため、インフラとなる電気やガス、水道メーターなどの動きや、郵便受けなどを見て、居住実態の有無を確認します。
さらに、滞納者がどの時間帯であれば自宅にいるのか調査する目的もあります。滞納者の周辺に聞き込みをして、入居者がいる時間を絞り込んで訪問することもあるそうです。一方で、信頼を得るため、生活に困っている入居者に、訪問の際にフードバンクなどの食料を届けることもあります。
④訪問業務の注意点
注意点としては第一にコンプライアンスを重視しています。すべての会社が 非常に気をつかっているということ。例えば、貸金業法で定められた督促方法や、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(東京都千代田区)が作った自主ルールの内容を踏まえ、各社マニュアルに落とし込んでいました。法律を順守する形で督促業務、回収業務を実施。 周囲の住人に家賃の回収で訪れたことが気付かれないようにするため、建物の巡回で来たように見えるように、作業服 のようなラフな格好で訪問するなど工夫をしています。ある会社は会社の制服としてポロシャツを用意し、訪問業務にあたってもらっているとのことでした。
■注目される保証会社の取り組み
【ケース①:H社】
97%以上という非常に回収率が高いH社では、電話対応を分業化し、アルバイト・パートのスタッフに電話をかけてもらっています。社員はスーパーバイザーとして、優先してどこに電話をかけるかなどの指示を出します。分業化するメリットの一つ目は、現場の社員の業務負担を減らすこと。二つ目は、精神的な負担の軽減。複数の現場に1人で対応している場合など、業務に対するプレッシャーから、入居者への電話対応などがきつい口調になり、トラブルに発展することがあります。分業化により、社員の業務的・精神的負担を減らす効果があるそうです。結果として、回収率97%超えの非常に良い結果につながっています。
【ケース②:F社】
F社は、滞納する入居者と管理会社の担当者、保証会社の担当者の3者に、管理会社の店舗やオフィスに集まってもらい面談をするという方法を取っています。狙いは、入居者に当事者意識を持ってもらうこと。入居者がわざわざ足を運ぶことで、自分がオーナーや管理会社に迷惑をかけている、本来果たすべき責任を果たしていないことを自覚してもらいます。それと同時に、管理会社にも当事者意識を持ってもらえるそうです。面談自体は、月に10件ほどで多くはありませんが、面談によって、入居者の次回の支払いをどうするかなど、次の行動を促すことができます。
--------(まとめの内容)
2022年12月、家賃滞納者への「追い出し条項」に関する最高裁が下した判決が物議を醸しました。当時、一般のメディアでは、借主保護を一方的に訴えた記事も見かけられましたが、今回取材したすべての保証会社が、コンプライアンスを守り、ルールにのっとって督促・回収業務を遂行している印象でした。
保証会社の役割は入居者を保証することにあるため、入居者に寄り添った姿勢を見せている企業が多くあります。その中には、入居者の生活の再建まで考えてサポートをしている会社の姿も見受けられました。家賃回収という賃貸住宅ビジネスの核となる業務は、保証会社が担うところが大きいと感じました。