Q.既存住宅のリフォームの市場規模は?
A.長期的に拡大させるのが国の目標
パリ協定の合意 CO²削減は国策
わが国は、2015年のパリ協定の合意に先立ち、約束草案として30年度までに温室効果ガス排出量を、13年度比26%減とする目標をUNFCCC(国連気候変動枠組条約)事務局に提出しています。
協定の締結後、この内容が日本のNDC(国が決定する貢献)として登録されました。
また、16年には、地球温暖化対策計画を閣議決定し、温室効果ガス削減の中期目標として、NDCに定めた30年度までに13年度比26%削減を設定するとともに、長期的目標として50年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すこととしました。
ESG不動産投資 世界的な潮流に
近年、地球温暖化対策を含めた広い意味でのESG不動産投資が注目されています。
ESGとは環境(Environment)・社会(Society)・統治(Governance)の頭文字をとった略語です。
不動産分野においては、Eについては「省エネルギー性能の向上」「再生可能エネルギーの活用」など、Sについては「健康性・快適性の向上」「災害への対応」「地域社会・経済への寄与」「超少子高齢化への対応」、Gについては「情報開示」「透明性・内部統制の確保」「ダイバーシティーの実現」を意味します。
投資家が投資先企業に対してESGへの配慮を求める投資原則が、欧米を中心に世界的潮流となりつつある中で、不動産分野においては、不動産そのものの環境負荷の低減だけではなく、執務環境の改善、知的生産性の向上、優秀な人材確保などの観点から、働く人の健康性、快適性に優れた不動産への注目が高まっています。
環境や健康に配慮 不動産の認証制度
環境配慮のEや災害対応や健康性のSについては、環境省などが進めているZEH(ゼッチ、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)などの基準があります。
これは補助金や税額特例等の基準ともなっており、国が定めた明確な基準といえます。
また、より広い意味でESG不動産となり得る基準として、CASBEE(キャスビー)やDBJ Green Building(グリーンビルディング)、BELS(ベルス)などの認証制度が有名です。
なお、CASBEEの評価項目は環境品質・環境負荷・環境性能効率、DBJ Green Buildingはエコロジー・アメニティー・ダイバーシティー・リスクマネジメント・コミュニティー・パートナーシップとなっています。
米国ではLEED(リード)とENERGYSTAR(エネルギースター)という認証制度が最も有名です。
LEEDは総合的なプロセス・立地・交通・敷地選定・水利用・エネルギーと空気環境・材料・資源・室内環境・革新性・地域別の枠付けなどが効果項目となっています。
認証済の賃貸物件 ローン金利優遇
前述の米国におけるLEEDとENERGYSTARの認証を受けた賃貸物件とそれ以外の物件では、賃料が2~17%上昇、販売価格は5.8%~35%上昇、稼働率は0.9~18%上昇、営業経費は約30%減少、純営業利益率は約5.9%増加するという分析結果が公表されています。
なお、地方公共団体でも東京都が行っているマンション環境性能表示のように、個人が環境配慮型住宅を選びやすくする仕組みを導入していたり、金融機関でも環境配慮型住宅を購入する場合に、利用するローンの金利を引き下げるといったメニューを提供している場合もあります。
【問 題】住生活基本法に基づき、令和3年3月19日に閣議決定された「脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築と良質な住宅ストックの形成」(目標6)に関する次の記述のうち、もっとも不適切なものはどれか。(2020年度問46改題)
1 耐震性・省エネルギー性能・バリアフリー性能等を向上させるリフォームや建て替えによる安全・安心で良好な温熱環境を備えた良質な住宅ストックへの更新を実現する。
2 2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、省エネルギー性能を一層向上しつつ、長寿命でライフサイクルCO²排出量が少ない長期優良住宅ストックやZEHストックを拡充し、ライフサイクルでCO²排出量をマイナスにするLCCM住宅の評価と普及を推進するとともに、住宅の省エネルギー基準の義務づけや省エネルギー性能表示に関する規制などさらなる規制の強化する。
3 レジリエンス機能の強化に資する住宅・風力発電におけるエネルギーの共有・融通を図るV2Hの普及を推進する。
4 炭素貯蔵効果の高い木造住宅等の普及や、CLT(直交集成板)などを活用した中高層住宅などの木造化などにより、まちにおける炭素の貯蔵の促進をする。
正解:3
1適切 記述のとおりです。
2適切 記述のとおりです。
3不適切 V2Hとは電気自動車から住宅に電力を供給するシステムをいいます。
4適切 記述のとおりです(目標6)。
【著者プロフィール】
Kenビジネススクール
田中嵩二社長
中央大学大学院法学研究科博士前期課程修了。2004年に不動産取引の専門教育機関としてKenビジネススクール設立。同社は、国土交通大臣の登録を受け「登録講習」「登録実務講習」を実施している。現在は、オールアバウト宅建試験専門ガイドとしても活躍中。「これで合格宅建士・賃管士シリーズ」(Ken不動産研究)など多くの書籍を執筆。
(2023年9月11日17面に掲載)