自社管理物件の取得に活用【活況呈する不動産クラウドファンディング】
香陵住販,ゴールドトラスト,ゴールドエイジ,ディーシー・クリエイト,ダーウィンアセットパートナーズ,フィル・カンパニー
投資|2023年10月09日
不動産特定共同事業におけるクラウドファンディングの案件数や出資募集額は増加傾向にある。ここでは不動産クラウドファンディングに取り組む5社を紹介する。
地方経済の成長促進も視野に
安定運用を重視出資者の信頼獲得
東証スタンダード市場に上場する茨城県の地場大手不動産会社である香陵住販(茨城県水戸市)は、2022年3月より不動産投資型クラウドファンディング「KORYO Funding(コウリョウファンディング)」を展開している。
茨城県や千葉県、東京都にある自社所有の区分マンションや、自社企画の投資用不動産「レーガベーネ」の一棟アパート・マンションなどが投資対象だ。出資金額は一口10万円からとなる。匿名組合型で、平均利回りは4.5%。23年9月21日時点で第10号まで運用している。
家賃収入はインカムゲインとして出資者に配当する。安定した配当を行うため、自社で賃貸仲介が可能であり、かつ高い入居率を見込むことができる物件を選定する点が特徴だ。神長春美取締役は「出資金を集めるという目先のメリットも大事だが、投資家からの信頼を獲得し、将来のビジネスにつなげることも重視している」と話す。
管理事業の地盤となる茨城県は、つくば市やひたちなか市、土浦市でつくばエクスプレスが延伸するなどの要因で都市開発が進み、人口流入が見込まれる。同社では出資金を元手に、茨城県内で新たな物件を購入。自社管理物件を増やすことで、現在売上構成比率の約3割を占めるストック型ビジネスのさらなる強化を狙う。
出資対象はサ高住建築ニーズを見越す
東海エリアを中心に収益不動産の管理事業を行うゴールドトラスト(愛知県名古屋市)は、22年9月よりサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)を中心としたファンド「ゴールドクラウド」を展開している。
グループ会社であり介護事業を手がけるゴールドエイジ(同)が開発するサ高住が主なファンドとなる。ゴールドトラストが不動産特定共同事業法下における第2号事業にのっとって投資家を募り、運用はゴールドエイジが行うスキームだ。出資金はゴールドエイジがファンド物件を買い取る際に活用する。投資家には家賃収入を配当として分配。23年9月21日時点で、サ高住以外の区分所有マンションのファンドも含めて第7号まで運用中だ。同ファンドは匿名組合型で平均利回りは8%。優先出資は80%ほどで元本割れのリスクを減らす。出資者は過去にゴールドトラストで収益不動産を購入したことのある投資家が多い。
両社がサ高住のクラウドファンディングに注力する理由には、国内人口の高齢化によるサ高住の需要の増加がある。ゴールドトラストの樋口広士取締役は「投資家には社会的意義のある事業に投資したいという思いがあるため、介護事業とクラウドファンディングの相性はいいと考える」と話す。
ロードサイド店舗少額投資を提案
テナント不動産の売買・開発事業を手がけるディーシー・クリエイト(愛知県名古屋市)が23年4月より展開する「My Shop(マイショップ)ファンド」は、ロードサイドの飲食店舗が投資対象のクラウドファンディングだ。
飲食店舗への投資の特徴は、投資家が実際に店舗に足を運び、運営状況を確認できる点にある。一方、住居用の不動産投資と比べて提供数が少なく、投資判断を下しにくい。同社では投資への抵抗感を払拭するため、「お試し感覚」で一口1万円から出資できる小口化商品としてテナント投資を提案している。
My Shopファンドは匿名組合型で想定利回りは平均4~5%。テナントの収益を配当原資とするインカムゲイン型だが、ボーナス配当として売却が発生した際に、売却益の一部を出資割合に応じて分配するキャピタルゲイン型も兼ねている。9月21日時点で第2号まで運用している。
開発事業に注力自社ブランド提供
東京23区や神奈川県横浜市・川崎市の収益物件の売買・管理を手がけるダーウィンアセットパートナーズ(東京都港区)は、22年5月より「DARWIN funding(ダーウィンファンディング)」を展開している。自社ブランドの鉄骨造マンションシリーズ「D―STYLE(ディースタイル)」が対象物件だ。東京23区内かつ駅から徒歩10分以内のエリアを中心に、15棟ほど展開する。23年9月21日時点で匿名組合型で第11号まで運用中だ。
クラウドファンディングを行う背景には、自社企画物件の開発に注力したい考えがある。同社では、新築から築15年までの区分所有マンションや一棟アパートの売買・管理を行ってきたが、19年ごろから仕入れ価格が高騰。そこで、D―STYLEの開発および投資家への販売に注力すべく、事業用地の調達や建築費用の資金調達法としてクラウドファンディングを選択した。男松祐次社長は「新たな投資家層の開拓や獲得につなげたい」と話す。竣工後の売却益を配当原資とし、平均利回りは年利5.5~6.5%。出資金額は一口1万円からとなる。
フィル・カンパニー、多様な事業者の参画支援
地方創生の担い手育成
空中店舗の開発事業などを行うフィル・カンパニー(東京都中央区)は、地域のまちづくりを推進する事業者のための不動産クラウドファンディングプラットフォーム「フィルまちづくりファンディング」を12月にリリース予定だ。
地方創生や地域経済の成長促進に貢献することを目的に、必要な不動産を安定的に保有する仕組みを提供する。具体的には、地域の事業者による不動産特定共同事業(以下、FTK)の立ち上げや体制構築を支援。個別案件のファンド組成と運用のサポートも行いながら、当該地域における不動産証券化の担い手を育成する狙いだ。
同社は、住居や事業などの用途として利用されずにいる低未利用土地の有効活用法として、空中店舗やガレージハウスの開発事業を展開してきた。地主や投資家以外との顧客接点を持つため、2021年10月に第2号事業の許可を取得してFTKに参入。23年6月には第1号事業の追加申請を行っており、多様な枠組みによる運用準備を進めている。
想定する協業スキームの一つが、第1号事業者が組成したファンドに対して投資家を募るというもの。投資家の獲得にかかるマーケティングコストが増加傾向にある中、ファンド組成に特化したい事業者を支援する。そのほか、事業の多角化を実現する仕組みとして、不動産会社やリフォーム会社などの利用も見据える。戦略事業本部の大森晋輔氏は「資金力のある会社だけでなく、より多くの会社が地域貢献を目的とした事業を行うための仕組みにしたい」と話す。
(2023年10月9日8面に掲載)