収益不動産の開発・販売を行うアーバネットコーポレーション(東京都千代田区)の社長に就任したのが田中敦氏だ。創業者である服部信治会長の方針を引き継ぎ、同社のかじ取りを行っていく。
ストックビジネスを強化
9月にアーバネットコーポレーションの新たなトップとなった田中社長は、今後の経営方針として2本の柱を掲げる。一つ目は先代から引き続いての方針である「時流にあった物件の開発」。そして、今回新たに「人材育成」を打ち出した。
同社は年間15~20棟の投資用ワンルームマンションを開発し、2021年度には658戸を販売。22年度は586戸を販売、23年度以降ではすでに1000戸超の開発が予定されている。
22年6月期の売り上げは21年度比6.4%減の196億600万円、純利益は同2.6%増の13億1400万円。23年6月期の売り上げは200億円を計画する。
商品力重視の方針継続
同社の特徴は、他社よりも設計士の比率が高い点だ。営業10人に対し、設計士7人を抱える。
「販売力ではなく、商品力で勝負する」という方針は今後も継続。入居者に需要の高い収納へのこだわりや、防災、ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)といった社会的な要請がある物件を開発していく姿勢を見せる。
社員の対話能力を向上
田中社長が打ち出すもう一つの方針が「人材育成」だ。既存人材のスキルアップを重視していく。「新型コロナウイルス下で、コミュニケーションの様式も変わった。対面ではなく、『LINE』などを利用したオンラインでの文字を活用するコミュニケーションが増えた。表情からの感情や意図などを読み取ることができないためコミュニケーション能力の低下を危惧している」と田中社長は話す。
また、設計士といった専門職のスキルアップも目指し、今後は研修制度の充実を図る。
田中社長は同社の創業間もない頃からの社員。28歳で入社したが、以前、実需向け物件の販売会社に勤めていた際に、取り引きのある外部設計事務所に服部会長が勤務。顔見知りだったことが、入社のきっかけだった。
1998年に入社後、売買仲介事業をメインに担当。2000年には現在同社のメイン事業となっている投資用ワンルームマンションの第1号物件の開発用地の仕入れや販売先の検討を担当した。
03年に、取締役に就任してからは、不動産開発販売事業の責任者として同社の開発事業を拡大。
15年には不動産個別分譲販売や賃貸仲介業を行う同社子会社のアーバネットリビング(同)の社長に就任し、ストックビジネスの拡充や事業の多様化を進めていた。服部会長は早くから、田中社長が持つ営業力やリーダーシップに社長後継者としての可能性を見いだしていた。今回、田中社長が服部会長が希望するレベルまで育ったため社長就任となった。
賃貸業の拡大計画
新体制下でストックビジネスの拡充も狙う。一つは家主業で、同社では自社開発した物件の一部と外部から購入した物件を合わせ、8棟305戸を自社で保有する。管理事業においては、開発後、売却した物件の管理も合わせ、現在約350戸を管理。賃料収入と管理収入で年間約3億5000万円を売り上げる。具体的な計画は未定だが、今後は自社保有物件を増やしていく。これにより、安定的な収益を得ることで、市況に左右されにくい、バランスの取れた成長が図れる企業を目指す。
(野中)
(2022年10月17日32面に掲載)