年は明けたが、オミクロン株の影響でいまだ新型コロナウイルスの感染は収まる気配が見えない状況が続く中、2022年の賃貸業界はどうなるのか。賃貸仲介における電子契約の完全解禁をはじめ、多拠点居住や不動産STOの登場など、「デジタル化」によるライフスタイルや投資手法の変化が進んでいきそうだ。編集部記者が座談会で22年を大予測する。
デスク「スルガ問題の今後の展開は見逃せない」
スルガ銀行不正融資問題 早期解決への道筋いかに
デスク スルガ銀行による不正融資問題の今後の展開も見逃せない。17年の「かぼちゃの馬車事件」に端を発するシェアハウスの不正融資に関しては、21年8月に3回目の調停が行われ、累計でオーナー951人、1218棟分の負債計約1573億円について、不動産担保ローンの残額と無担保ローンの一部が代物弁済などによって帳消しとなる見込みとなり、概ね解決することとなった。一方で、収益用アパートやマンションのオーナーへの融資の際に、シェアハウスオーナーへの融資と同様に通帳残高や源泉徴収票の額を水増しするといった不正行為があったことが明るみに出て話題になっている。21年8月にはオーナー336人アパートやマンション計594棟の購入に対する不正融資を対象とした、総額805億8417万円の賠償請求が行われ、現在でも交渉が続いている。
記者C スルガ銀行は、21年11月26日に開いた22年3月期第3四半期決算説明会において、アパート・投資用マンション向け融資の6037億円分が回収できないリスクのある要注意先への融資であることを発表した。要注意先かどうかの判断は、返済状況や融資対象物件の収支などを踏まえた同行の自己査定ということで、不正融資問題の経緯も踏まえてかなり厳しめに判定を行ったという見方もあるが、9月末時点での収益不動産融資全体の約6割に回収リスクがあるということのインパクトは大きい。
記者B スルガ銀行が原告となり現旧執行役員9人に対して損害賠償請求を行っている訴訟と、不正融資の主導を理由に懲戒解雇された執行役員が不当解雇であるとしてスルガ銀行を訴えている訴訟を通じて、不正融資の生々しい実情が次々と明らかになっている点も、スルガ銀行にとっては逆風だ。公判の資料では、営業のトップが、審査部の判断を無視してリスクが高い案件に対して強権的に融資を決定したり、融資却下の判断を下した審査部のスタッフを叱責したり、といったことが、具体的な案件や当時の怒声とともに確認できる。
記者C 裁判所や金融庁の調査への妨害も問題視されていますね。21年8月に東京地裁と静岡地裁沼津支部の裁判官らが、静岡県沼津市のスルガ銀行本店と東京都中央区の東京支店を訪れ、融資に関する稟議書や物件に関する調査書など13種類の書類の提出を求めたが、スルガ銀行側は提出義務がないなどとして応じなかった。スルガ銀行本店への立ち入りに同行した弁護士によると、「東京支店の判断がないと対応できない」などとして時間稼ぎをした挙句、裁判官による書類確認も拒否したという。金融庁の監査から逃れるためのレントロールの偽造が行われていた疑いも浮上している。あるオーナーは、18年4〜6月限定で、サブリース会社を変更し、サブリース料を引き上げるようサブリース会社の担当者から依頼されたという。このオーナーは、「金融庁からの監査が入るため、この対応を取るようにとの強い指示があった。年間の私の家賃収入は変わらないから、私にとってデメリットはないとの説明を受けた」と暴露している。当初はスルガ銀行による遅滞戦術によって、実現が難しいかと思われた不正融資の被害を受けたアパート・マンションオーナ―の救済だが、不正融資に関する事実が次々と明らかになってきている。果たして、オーナーの主張が通るのか、スルガ銀行の動きに目が離せない。
不動産小口化商品が増加 少額投資の手軽さ魅力に
デスク スルガ銀行の不正融資問題もあって、資産的背景のないサラリーマン投資家への収益不動産の融資が下りにくくなっている近年、不動産特定事業法に基づく不動産小口化事業への参入が増えている(グラフ2)。収益不動産への小口の出資を募り、その運用で得た利益を出資した投資家に分配する手法だ。1棟・1戸ごとに投資する場合と比べ、1万円程度の少額からでも投資できるため、投資家は手持ちの資金で不動産投資を行う手軽さが受けているようだ。事業者側にとっては、金融機関からの融資に頼らず資金調達できるという利点がある。
記者A 20年11月末にFANTAS technology(ファンタステクノロジー:東京都渋谷区)が不動産投資型クラウドファンディングサービスの開発から運用体制の構築、広告運用などの代理業など、運用までを幅広くサポートする「FANTAS OEM(ファンタスオーイーエム)システム」の提供を開始。21年2月には、LIFULL(ライフル:東京都千代田区)が不動産小口化商品のポータルサイト「LIFULL不動産クラウドファンディング」を開設した。不動産小口化事業をサポートするサービスや、手軽に不動産小口化商品を探すことができるポータルサイトの登場によって、21年は事業者にとっても投資家にとっても、不動産小口化商品が身近になった年と言える。「不動産証券化ハンドブック2020」によれば、累計商品数は970件、募集累計額は2兆8519億円にのぼり、16年から2000億円ほど増加。事業者数は増加傾向にあり、今後は市場が一層拡大しそうだ。多様な投資手法で活況になるかもしれない。
デジタル証券で資金調達 不動産STOは広まるか
デスク 不動産投資の手法としては、21年8月に不動産運用大手のケネディクス(東京都千代田区)が日本初の公募となる不動産STOを実行したのが真新しく、世間に認知が広まるか注目したいところだ。STO(Security Token Offering)とは、ブロックチェーン技術により権利移転などを行うデジタル証券を発行して資金調達を行う手法。その中でも不動産STOはセキュリティートークンの裏付け資産が不動産やその権利となる。20年5月に法改正が行われ、セキュリティートークンは厳格に規制される第1項有価証券とみなされるようになった。また、複数のコンピューターでデータが共有できるブロックチェーン技術によりデータの改ざんを防ぐことができるため、セキュリティーが高く透明性のある取り引きが可能になる。
記者B 高額の不動産をデジタル証券として扱うことで非上場資産の個人取引が可能になり、不動産の家賃収入を裏付けにした利回りの配当金が得られるようになった。不動産を運用する事業者は証券会社を窓口として多数の投資家に小口で販売ができるなど、流動性の高さから市場拡大も期待できる。ケネディクスの狙いは、個人を中心とした新しい投資家層の獲得のようだ。日本には1000兆円を超える個人の現預金があり、その一部を不動産投資に振り向ける手法として不動産STOを広げていきたいわけだ。別の会社では、携帯電話の基地局なども対象とした投資商品を投資家にデジタル証券で販売していく計画もあるようだ。
デスク 22年も賃貸住宅業界はさまざまな変化の波にさらされることになりそうだ。変化が多い時こそ、豊富で正確な情報が命。記者としての使命を果たすべく、22年も取材と執筆にまい進していこう。
(2022年1月17日4面・5面に掲載)