当記事は賃貸住宅フェア2024in東京で講演したセミナーを書き起こしたものです。
講演者
弁護士法人Authense法律事務所
東京都港区
森田 雅也 弁護士(44)
合意による家賃増額がベスト
裁判は手間や苦労に見合わず
厚労省も問題視 マニュアルを配布
経済回復や物価高騰下の家賃改定における注意点と、賃上げ交渉についての説明をする。
賃料を増額するための手段は二つある。まずは合意に基づく増額。次に、借地借家法第32条に基づいて裁判所に決定してもらう方法だ。基本的には合意に基づく増額をするわけだが、できない場合は裁判をして増額という手段を取ることになる。裁判はどうしても時間と費用がかかるため、いかに合意に基づく増額で終わらせるかが重要になるだろう。
合意に基づく増額について話すと、当然ながら賃料を変更するために賃借人との合意が必要だ。書面を送って、返信がないまま増額してしまうというケースもありうるが、強引かつ一方的な手段で、トラブルになりやすい。賃借人にきちんと増額の理由を説明し、合意してもらったほうがいい。
増額交渉を行うタイミングとしては、お互いの合意があればいつでもいいが、基本的には更新時に行われることが多いと思う。更新時であれば、増額された賃料に合意するのか、納得できないなら出ていくのかを選択しやすくなるからだ。検討してもらう時間を確保するためにも、実際に交渉したり相談したりするのは、更新の前からになる。交渉とは別に、増額の意思表示は文書でしっかり送っておくこと。到達しないと意味がないので、内容証明などで送るのが望ましい。
改訂は例外措置 事情の変化で認可
続いて、借地借家法第32条に基づく増額について話す。まず覚えてもらいたいのは、契約ごとというものは、基本的には最初に契約した内容に縛られるということ。賃貸借契約も契約である以上、賃料の増額は当初の契約の内容を変更する例外的な措置になる。賃料増額は当たり前の権利ではない。
ならば、なぜ賃料増額が認められているかというと、賃貸借契約は長期的かつ継続的な契約のため、最初の契約が日時の経過によって不合理なものになってしまうことがあるからだ。
社会経済状況の変動などによって、最初に契約した時から事情が変化し、最初の契約で縛るのは不平等、不相当だと判断される場合がある。最初に賃料が設定された時と、賃料を変更したい現在の事情の変化。
具体的には「租税その他の負担の増減」「建物の価格の上昇、その他経済事情の変動」「近傍同種の建物の賃料」の三つで、それらの事情の変化があって初めて賃料増額が認められる。
鑑定で金額を判断 根拠を複数用意
増額する賃料の金額だが、裁判になった際、裁判所の判断基準は不動産鑑定士の鑑定による。ただし、この鑑定費用は当事者持ちとなる。
さらに、鑑定結果による相当賃料と現行賃料の差が5〜10%程度ないと、裁判所は増額を認めてくれない。
賃借人との増額交渉にあたっては、しっかり説明し、納得してもらう必要がある。正当性を認めてもらうためにも、増額の根拠になる事情の変化について、複数の資料を出したい。更新料の免除や減額など、合意時のメリットも提示したいところだ。
(2024年12月16日18面に掲載)